み、皆が見てる!
「……ふむ。全快とはまではいかぬが、ここまで回復すればいいじゃろう」
キョウの口から上級回復薬を摂取した事で体力を完全とまではいかないものの回復させたディザベルは、裸の姿のままでゆっくりと立ち上がった。
「お、お前なぁ!?いきなりキスしてくんなって!」
俺は怒りながらも、先程のディープキスのせいで涎塗れになっているディザベルの口元をハンカチで拭いてやる。
「んむ……すまぬ……」
ディザベルは顔を拭かれながら手を差し出して来る。……いや何?この手?
「え、何?」
「服」
「服……?」
「ワシには貸してくれぬのか?このまま裸でいろと?」
「…………いーや、いやいやいや!?予備の服くらいアイテムボックスの中にあるだろ!?」
「ワシを置いてけぼりにした上、何週間も独りにしたのに?服も貸してくれぬのか?」
「そ、それは……」
「貸してあげないの~?誰かさんが来るのが遅かったせいで服も身体もボロボロになったのに~?」
ララは悪戯っぽく笑いながらディザベルを横から援護する。
「うっ…………」
凄く痛い所を2人に突かれてしまった。
確かにディザベルを置き去りにしたのも、助けに来るのが遅かったのも全て俺のせいだ。
ディザベルのワガママくらい聞いて、服くらい貸してやれよって思うだろう。
だが既に先程の熱烈で過激なディープキスのせいで周囲の注目が集まってるんだよ……!
なんなら、まともに動く事が出来ないディザベルに無理矢理キスをしたように皆には見えていたかもしれない……!
そんな状況で俺の服なんか貸してみろ!?
皆の目には俺がディザベルに変態趣味を強要しているみたいに映るんじゃないのか!?
とんでもないロリコン野郎が王族の前で爆誕するんじゃないのか!?
そうなったもう俺……この国で生きていけないよぉ!!
「いいの、お姉ちゃん……やられた私が悪いんだもん…………」
ディザベルは皆が見ている前で大袈裟に泣き真似をし始めやがった。
おい止めろ!皆の前で泣いて見せるなんて、マジでドン引きな要求を無理矢理させようとしてるみたいに見えるじゃねーか!?
「あーあ、タロウくんが泣かせたー」
「うう……ぐすん……」
「だぁ───!もう!貸せばいいんだろ、貸せば!?」
俺はアイテムボックスからララに渡した物と同じYシャツをディザベルに渡す。
まあね、元はと言えば全部、俺が悪いですからね。
ならもう、甘んじて受け入れてやろうじゃないか【変態ロリコン野郎】の称号を……!
「おおっ♪」
先程まで噓泣きをしていたディザベルは、噓泣きの事など忘れて、上機嫌に笑いながら俺のYシャツに袖を通した。
「これは……中々……♪」
変態としてこの先を生きる俺の覚悟など露知らず、俺の服を着たディザベルは、ララと同じようにクルクル回ったり臭いを嗅いだりして、はしゃいでいる。
もうね、貴女が楽しそうなら全部OKです。俺はロリコンでいいです。
その証拠にディザベルの胸元に目が吸い付いてるもん。
だって仕方ないじゃない!見えるんですよ、ララよりボタンを留めてる数が少ないせいで胸が、乳輪がその先の乳首が!チラチラと!
「くふふ……♪」
ワザとだな。コイツ、ワザとやってんな!?こっちを見てニヤニヤ笑ってるし。
……マジで夜、覚えてろよ……絶対ベットの上で泣かせてやる……!
「───それじゃ、私達は一旦家に帰って着替えてから救助に向かうね。タロウくんは、すぐに王様達に合流して他の人を助けてあげてね」
ディザベルが俺の服の感触を一通り堪能した所で、ララが話を切り出した。
「ああ、2人とも気を付けて」
「じゃあね~」
ララとディザベルは手を振りながら俺達の家に向かって歩き出す。
「───ああ、そうじゃ」
急にディザベルが立ち止まり、ちょいちょいと俺を手招きする。
「ん?」
俺は駆け足でディザベルの元に寄る。
「そこらにワシの折れてしまった箒と、天井には絨毯が磔にされておる。ついでに回収しておいてくれぬか?後、あのキューブも拾っておいてくれ」
「あー……アレか?」
俺は辺りを見渡してディザベルの物と思われる箒と絨毯、そして変なキューブを発見する。
「箒は折れておるが、出来れば壊れた破片も回収しておいて欲しい。あのキューブは後でワシが調べる」
「ああ、分かった。後で帰った時にでも渡すよ」
「うむ、すまぬな。それと───」
ディザベルが不意打ち気味に俺の唇に優しくキスをして来た。
「また、助けられてしまったな」
ディザベルは頬を赤らめながら嬉しそうに笑っている。
もう何度目かになる、ディザベルの感謝の気持ち……俺は今回も素直に受け取る事が出来なかった……。
「…………いっつも後手だ……いつもいつも、何で俺は漫画のヒーローみたいに危なくなる前に助ける事が出来ないんだ……」
俺は今回、ディザベルを守れるだけの力が欲しくて修行をした。
その成果もあって、今回彼女を守れたと思う。今後も彼女を守れるだけの力を得る事が出来たと思う。
───でも遅すぎた。
今回もディザベルは酷い目に遭ってしまった。
あのオークションの時も、ダンジョンの時も、あの淫魔の時も、今回だって……!
ずっと感じていた俺自身への怒り、呆れ、もどかしさや悔しさが、ここに来て爆発した。
「……らしくないのぅ、お主が卑屈になるなど」
珍しく卑屈になっている俺を見て、ディザベルが俺の両手を優しく握る。
「ごめん」
「謝るくらいなら今度は完璧に、お主の理想通りにカッコ良く、ワシを助けてみせよ」
「ルル……」
「もっとも?次はワシがお主の事を助けてしまうかもしれんし、そもそも助けて貰うような場面は、もう2度と来ないかもしれんがなっ!」
ディザベルは笑いながら俺の手を強く握ってくれる。
温かくて柔らかいディザベルの手が、彼女の笑顔が、俺の心を前向きにさせてくれた。
……情けない話だ。ウジウジしてる所を惚れてる女に元気づけられるなんて……本当に情けない男だ。
───ウジウジなんかするな!榊原境ッ!!
今回も駄目だった、間に合わなかったじゃない!次は間に合わせるんだよ!絶対、必ずだ!
「……ああ!今度は完璧に助けてやる!これもあるしな」
俺は、一番最初の頃のゴブリン討伐に行く時にディザベルから貰った連絡用の指輪を見せる。
この指輪のお陰で、あのオークション会場からディザベルを助ける事が出来たんだ。今回だって───ん?
「…………あ、おい!これ今回、光ってなくないか!?使ったよな?」
「……忘れておった……」
お、おばあちゃん……。
「……ま、まあ仕方ない!切羽詰まってただろうしな!」
「う、うむ!そうじゃとも!」
「よ、よーし!俺は皆を助けに行ってくるから、2人も早く合流してくれよな!」
「うむ!」
「じゃあ、行こっかー」
俺とディザベルは、ララに生暖かい目で見られながら、一旦別れた。




