馬鹿が白馬に乗ってやって来た!
「チッ、おせーんだよ!」
待っていたと言わんばかりに白馬に乗って颯爽と現れた男、榊原境を笑顔で迎え入れるナリバス。
「は……白馬に乗った王子様!?」
まるで書物の物語のような、まさかの展開に歳相応に目を輝かせるアリアステル。
「……何、こいつ」
場違いな人間を見るかのような冷ややかな目で闖入者、キョウを見るヤマダ・ハナコ。
「アハハッ!白馬の王子様って!嘘でしょ!?」
まさかの珍獣の登場に、腹を抱えて盛大に笑うヴィスタ。
「……ぁ……あぁ…………」
───そして……両胸にダイアの短剣を1本ずつ刺され、全身は傷だらけで夥しい量の血を流し、息も絶え絶えで、うつろな目をしているディザベル。
「…………」
そんな、あまりにも痛々しいディザベルの姿を見たキョウは、無言でリヴァータの背から降りた。
「タロウ!俺がここに来たって事は、もう大丈夫なんだな!?」
「タロウ……!?この馬鹿っぽそうなのがサトウ・タロウ?」
「ああ!最高のタイミングで、最強の助っ人だ!」
「……ふーん」
ヤマダ・ハナコは、ずっと探し続けていたサトウ・タロウこと、キョウを品定めするかのように見つめる。
コイツがサトウ・タロウか……。
確かに日本人特有の黒髪に顔つき……コイツが私達が探し続けていたサトウ・タロウで間違いない。
……ただコイツは、16か17そこらの、ひょろっとした、ただの子供に見える。
「全然強そうに見えないけど」
私にはコイツが、駄犬の言うような、この戦況をひっくり返すような奴には見えなかった。
「フッ……そこは心配すんな。……よしっ!タロウ!俺とお前でコイツの援護だ!協力してアイツを倒すぞ!!」
「…………いや、俺一人でいい」
キョウは、ゆっくりとヴィスタへ向かって歩を進める。
「お、おい!?コイツは───!」
「あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”……!あああああああああ!!」
キョウの怒りに呼応して筋肉が膨れ上がり、上に着ていた衣服が弾け飛ぶ。
「コイツは!この俺が倒す!!」
キョウは、右の人差し指で力強くヴィスタを指差した。
「……いいぜ、行って来い!」
話を聞かないキョウを止めようとしたナリバスだったが、初めて見るキョウの鬼気迫る表情と宣言を前に、同じ男として止める訳にはいかない、寧ろ背中を押してやろうと思った。
「何、コイツ……」
そんな光景を一歩引いたところで冷ややかに見るヤマダハナコ。
「す……凄いです!」
目を輝かせている純真なアリアステル。
「アハハハハッ!す、助っ人って、道化の間違いじゃないの~?アハハ!!」
そしてキョウの唐突な一発芸に、ヴィスタは笑い転げてしまいそうになっていた。
「……ここで待ってろ、リヴァータ」
「ブルルルルゥ!(ふん、行って来い!)」
キョウは、共に修行を重ねた友たちの声を受けながら、一歩、また一歩とヴィスタへ向かって歩き出す。
「あー、おかしかった……」
一通り笑ったヴィスタは、キョウに向かって百を優に超える数のダイアの剣を一斉に射出する。
───高速で撃ち出されるダイアの剣。
しかしキョウは、防ぐ事も避ける事もせずに無視して歩き続けた。
「タロウさん!?」
アリアステルの心配する声も虚しく、ノーガードで歩き続けたキョウの身体に、ダイアの剣が全弾直撃してしまう。
「ちょっと嘘でしょ~!?頭に血が上り過ぎじゃない?」
攻撃を仕掛けたのはヴィスタの方なのに、予想外の展開に逆に驚いてしまう。
「なーんでそんなにムキになってるの?もしかしてリリの事が好きだった?……ってもう答えられないか」
「そうだ」
「───ッ!?」
ダイアの剣は全弾直撃した。確かな手応えがあった。
この舞い上がった粉塵が晴れれば、あの道化の男の血と肉と臓物が床にブチ撒けられているハズなのに……そうでなければ、おかしいハズなのに……!
あの男は無傷で、こちらに向かって歩いていた。
「へー……」
ヴィスタは馬鹿もなければ侮りも過小評価もしない。
この男をディザベルに匹敵する脅威だと認識を改め、本気で相手をする。
「もしかして恋人ー?」
「そうだ」
「うっそでしょ!?あのリリに恋人!?」
ヴィスタは、信じられないと思わず大声を出してしまう。
「へー……へー……!じゃあ……こういうのはどう?」
ヴィスタは、ぐったりとしているディザベルの髪を掴んで無理矢理、顔を上げさせる。
「……ぅ……あ……」
そしてダイアの剣を1本創り、それをディザベルの喉元に突きつけた。
「ルルッ!!」
「はい、人質のかんせーい♪効果覿面でしょ?恋人クンに王女サ───」
絶対的な有利に立ったと思った、勝ちを確信したと思った。
しかし、私の目の前から忽然と、あの男は姿を消していて───
「───ッ!?」
気付いた時には私は、あの男の蹴りを喰らって壁に激突していた。
「……遅くなってごめん」
キョウは、ディザベルに優しく話し掛ける。
「……なん……で……いる……の……?」
「異変に気付いて、いっそいで戻って来たんだよ」
「……あ……あぁ……よかった……なら……よかった…………」
虚ろだったディザベルの目に、ほんの少しだけ光が戻る。
その様子を見て、キョウは安堵の息をつく。
「……待ってろ、すぐにケリを───!」
「皆を連れて逃げて…………ヴィスタは私より強い……から……キョウじゃ勝てないから…………」
ディザベルは、人前である事も忘れてキョウをサトウ・タロウではなく本名で呼び、逃げるように言った。
「……あ、あぁ……最期に会えて……よかっ───」
ディザベルは、涙を流しながら笑顔で別れを告げようとした。
「……ふふっ」
だが、そんなものを俺が許すはずも無かった。
「……なぁ、ルル?こんな事、前にもあったよな?」
「……え?」
「確か、あの時は……助けに来た白馬の王子様に向かって帰れって言われたっけな」
「あ……」
ディザベルの脳に、あの時の……ジガスの件で助けに来てくれた時の光景が蘇った。
「───でも今は、違うんじゃないか?」
俺は、片膝をついてディザベルと目線を合わせる。
そしてオリジナルの回復魔法を使いながら右手でディザベルの頭を撫でる。
俺の回復魔法は、時間を逆行させるオリジナルの回復魔法だ。
呪い付きのタトゥーを綺麗に消すだけじゃない。
乱雑に斬られたディザベルの髪だって、元の綺麗な長い髪に戻る。
「……ああ、そうだったな……」
……そうだった……そうだったね。
キョウは、いつだって私の事を助けに来てくれてたよね、私を助けてくれてたよね……今だって……。
「───勝て、ワシの一番弟子……!」
だったら、私が言うのは諦めの言葉なんかじゃないよね……!
「……ああ!少しの間、待っててくれ!」
ディザベルの応援を受けたキョウは、ゆっくりと立ち上がり、先程、壁に蹴り飛ばしたヴィスタの方向を見る。
ワシにも分かる、ヴィスタは、まだ生きている。奴の魔力は途切れてはいない……!
「クリア、ルルを頼む」
「分かった」
いつの間にかワシの横にクリアと呼ばれる水色の髪の美女がいた。
「おぉ!?いつからそこに!?魔力なぞ、先程まで一切感じなかった…………ん?」
クリアとかいう、この女……いや、この女の魔力……何処かで───
「ん?んん!?お主、クリスタル・ボゥルじゃないか!?」
「いや、そうだけど?何言ってんだ?」
元クリスタル・ボゥルは、さも当然の事かのように言ってのける。
「いや、いやいやいや!?お主、人間に……いや、何故、女になって───!?」
「ああ、アイツに女にさせられた」
「は、はぁぁぁぁぁ!?おい、馬鹿弟子!!」
「よし!行くぞォォォ!!」
「行くな、待てェェェ!!」
キョウは、愛する女が自分を引き留めようとする声を振り払って最終決戦に臨んだ。




