この状況を覆せる奴
「は……ハナコさん!?」
「テメェ……!?」
「お、お主……!?動けるのか!?」
───アリアステルを救った突然の乱入者、ヤマダ・ハナコの登場にディザベル達3人は驚きを隠せなかった。
「魔力は無いけど。でもこれ以上寝てたらアリアステルが殺されそうだったし、もし殺されでもしたらリュララに怒られるし」
「お主…………」
引っ掛かる部分もあるが、アリアステルが救われたのは事実。
ディザベルは、色々と言いたい事をグッと堪えて心の中で感謝した。
「ちょっと誰ー?邪魔するなんて迷惑なんだけど?」
一方ヴィスタは、予期せぬ乱入者によって邪魔をされて、子供の様にむくれていた。
「駄犬、交代」
ヤマダ・ハナコは、自分の身長よりも長い剣を持ってナリバスの前に出る。
「ああ”!?」
「今度は私が前。駄犬はアリアステルの背中を守って」
「…………やれんのか?」
「駄犬よりは」
「……分かったよ」
ナリバスは、大人しくヤマダ・ハナコの指示に従い、アリアステルの後ろに付く。
「……意外。大人しく従うんだ」
「そこまで馬鹿じゃねぇよ」
「そう」
「はいはーい。作戦会議は終わったー?」
ヴィスタは、暇潰しにダイアの短剣でディザベルの右乳房を刺し、グリグリと動かしながらヤマダ・ハナコ達を待っていた。
「い”ッ……ぎッ!あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
「ルル!!」
あまりの激痛に涙と涎を垂れ流しながら絶叫するディザベルの痛々しい姿を見て、アリアステルが叫ぶ。
「早くしないとリリから殺しちゃうよー?」
「あぁぁ……!ハナコさん!!」
思わずヤマダ・ハナコに駆け寄ろうとするアリアステル。
「あ、おいっ!?」
それをナリバスが力ずくで止める。
「アイツの傍に近寄るな!邪魔になる!!」
「ハナコさん!早くルルを!ルルを助けてッ!!」
「…………そいつ」
アリアステルが悲痛な叫びなど全く聞こえていないのか、ヤマダ・ハナコは、表情一つ変えずにディザベルを指差しながらヴィスタに尋ねる。
「ん?」
「───やっぱり『リリ』なんだ」
「そうだけど?」
「100年前に大暴れした、あの?」
「だからそうだって……あっれぇ~?もしかして言ってなかったの、リリ?」
ヴィスタの問いにディザベルは答えない。
「言わなかったの~?」
ヴィスタは、無言を貫くディザベルに対して、嫌がらせのように右乳房に刺していたダイアの短剣を再びグリグリと動かす。
「あ”ッ!あ”あ”あ”あ”あ”!」
「自分が『白金の魔女』だって!昔、世界中に恐怖と共に、その名を轟かせた魔女だって!?」
「……だ、だがら”ッ!!私を助ける必要なんか無い!さっさと逃げ───!い”ギや”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
「……って言ってるけど?」
ヤマダ・ハナコは、指を差したまま、後ろにいるアリアステルを見る。
「早く助けて下さいッ!!」
アリアステルは、迷う間もなく即答した。
「お、おい!アイツが白金の魔女ってマジかよ!?100年前の大悪党じゃねぇか!?」
「それでも助けて下さい!」
「何で?悪党なんでしょ?助けるより殺した方が良くない?普通に考えたらアイツの方が正義なんじゃないの?」
「それでも……!私には、ルルが必要なんです!!」
「いや……そうは言っても…」
「分かった」
「分かっ……分かったァ!?お前、さっきまで!?」
あまりにも見事なヤマダ・ハナコの身の翻しっぷりに、ナリバスは困惑する。
「必要なんでしょ?」
「は、はい!」
「なら助ける」
「……いやいやいや!いいのかよ!?」
「黙って守れ、駄犬」
この期に及んで狼狽しているナリバスなど気にせず、ヤマダ・ハナコはヴィスタに向かって一直線に突っ込んでいった。
「ああもう!どうなっても知らねぇからな!?」
流石のナリバスも観念したのか、大人しくアリアステルを守る事に専念する。
「…………あっ、そうだ!」
ヴィスタは、閃きと共に迫り来るヤマダ・ハナコとアリアステル目掛けて無数のダイアの剣を発射する。
「そんなにリリの事が気に入ってるなら殺さないであげる。その代わりにー、リリの魔眼を奪った後で王女サマの眼をリリに移植してあげる♪」
「ぎッ……ざま……ぁ”!!」
「そうしたら、あの王女サマは永遠の暗闇の中なんて言うと思う?」
ヴィスタは、ディザベルの頬を撫でながら言葉を続ける。
「リリへの謝罪?それとも私への謝罪かな?そ・れ・と・も~『返して』かな~?もしそうなったら薄情だよねー。折角、助けに戻って来ちゃうくらい大好きな人の眼を自分に返してだなんて~?」
「…………ごろ”ず……」
ヴィスタのゲスすぎる発言に、ディザベルは鬼の形相でヴィスタを睨みつける。
「えぇ~?」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
そして怒りの収まらないディザベルは、ヴィスタの首をへし折ってやろうと、全身傷だらけで動くはずの無い身体を無理矢理にでも動かそうとしていた。
「あっはーっ!その顔!あの頃に戻ったみたい!腑抜けたワケじゃなかったんだー!」
昔馴染みのディザベルが、最も荒れていて、最も輝いていた頃の顔つきに戻り、ヴィスタは思わず笑顔になる。
「黙れ黙れ黙れ!!」
「そうそう、それそれ!始めっからその顔が出来てれば私のも勝てたんじゃない?」
「黙れッ!!」
「ま、もう全部遅いけ───ど」
ヴィスタが気持ち良く話している最中に、遠くから小さな鉄の塊が3つほど高速で飛んで来た。
「……ちょっと、人が話してる最中に邪魔しないでくれる?」
ヴィスタは、それをダイアの剣で難なく弾き、飛ばしてきた張本人……ヤマダ・ハナコを不機嫌そうな顔で睨む。
「……やっぱり、この世界の奴らには銃は効かないか」
ヤマダ・ハナコは、ヴィスタ相手に効果が無かった左手に持っていた拳銃を無造作に捨てた。
すると捨てられた拳銃は、地面に到達する前に、この空間から消滅した。
その光景を見ていたディザベルは、初めて見る拳銃と、それが魔力も使わずに消えた事に、先程まで自分を支配していた怒りなどを忘れて見入ってしまっていた。
何だアレは……?アレで小さな鉄の塊を飛ばしたというのか?
初めて見るアイテムだが……それよりも、あの幻のように消えたアレは一体何だ……?
アイテムボックスに収納した訳では無い。そもそも魔力は感じなかった……。
ヤマダ・ハナコは、キョウと同じ世界から人間……恐らく、キョウの世界にある固有の技術なのだろうが……。
「…………ふーん……」
ヴィスタは、巨大なダイアの剣を創り、それをヤマダ・ハナコに向かって振り下ろす。
勿論、無数のダイアの剣による射撃は継続したままで。
「それは、さっき見た」
ヤマダ・ハナコは、いつの間にか右手に持っていた長剣と同じものを左手にも持ち、降り掛かるダイアの剣を防ぎながら───
「『再起動』」
───とヤマダ・ハナコが、この世界の物では無い、別の言語で何かをボソッと呟く。
すると、ヴィスタの創り出した巨大なダイアの剣に匹敵するサイズの長剣がヤマダ・ハナコの遥か頭上出現し、ヴィスタの巨大なダイアの剣を受け止めた。
な、何だ……!?先程からヤマダ・ハナコが使っているこれは何なんだ!?
これが魔法ではない事は分かる。魔力が使われた痕跡は無いし、そもそも奴自身が魔力は吸われて無いと言っていた。
じゃあ何なんだ、これは?これが、ヤマダ・ハナコの、キョウの居た世界の力だと言うのか?
でもキョウが、こんな力を使った所を私は見た事が無い……。
なら、これは……ヤマダ・ハナコ、個人の力だと言うのか……!?
「……これが異世界の力……か。……なら次は当然───」
ヴィスタが呟いた瞬間、ヤマダ・ハナコを中心に空気が変わった。
「───『』!」
「やめろ撃つなッ!!ヴィスタは反射出来る!物理攻撃以外効かないッ!!」
ヤマダ・ハナコが何かをしようと、何かを言おうとする前に、ディザベルは叫んだ。
「……ちょっとー、言わないでよー!」
ディザベルに手の内をバラされたヴィスタは、お仕置きとばかりにディザベルの左胸にダイアの短剣を刺した。
「い”ッ!痛い”痛い”痛い”!!あ”あ”あ”あ”あ”!!」
「折角、気持ちよーく殺せそうだったのにー……あーあ、反射されて死ぬ時の無様な間抜け面が見たかったなー」
「やめて!もうやめてッ!!ハナコさん!早くルルを!早く助けてッ!!」
耳をつんざくようなディザベルの悲鳴に、アリアステルは居ても立っても居られなくなってしまう。
「ごめん、無理」
「…………え?」
「おいおいおい!?何言ってんだ、お前!?」
「一手足りない。アリアステルを守りながら、ルルを殺さないように、殺されないようにしながらアイツを殺すのに遠距離攻撃を封じられたんじゃ、どうしても一手足りない」
この女の言い分は尤もだ。
あんな大規模な遠距離攻撃を雨霰のように飛ばして来る奴相手に、王女だけじゃない、この部屋に倒れている連中とルルを殺されないように戦いながら近距離戦闘だけで殺せだなんて無茶もいいところだ。
加えてヤマダ・ハナコには魔力が無い。
こんな状況で勝てるだなんて言い切れる奴の方がおかしい。……だがな───!
「……じゃあ、どうする?どうすれば奴に勝てる?」
逆に面白くなってきた!
こうなったら意地でも勝ってやる!
「王女か、ルルか、どちらかを諦めれば現状でも勝てる」
論外だ。論外すぎる。
人がやる気になってるっていうのに、なんて提案をしてくるんだ、この女は。
「おいおいおい!それじゃ意味ねぇだろ!?」
「だから無理だって言った」
こ、こいつ……悪びれもせず、よくもまぁ……!
「なら私の事はいいですから、ルルを!」
「お前は馬鹿を言うな!!お前を守らずに他を優先する奴が、この国の何処にいるんだよ!?お前は王女、この国の要になる人間なんだ!どんな状況でも自分の命は第一に優先して考えろ!!」
俺は、柄にもなく馬鹿王女に説教してしまう。
「でも……!」
「でもじゃねぇ!何とかしてやるから待ってろ!」
俺は、馬鹿な王女の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「わわわ……」
「……んで他に方法はねぇのか?」
「駄犬レベルでいいから使える奴が最低でも後3人いれば何とかなる」
「俺レベルが3人!?」
「王女とルルを守るのに4人欲しい。そうすればフリーになった私がアイツを殺せるようになる」
「魔力もねぇのにか!?」
「やれる。アイツの攻撃を物ともしない奴がいればだけど。でも今、この国で戦える奴なんか居ない。だから無───」
「…………いや!」
───その時、人より何倍も優れた聴覚を持つナリバスの犬耳が何かを聞き取ってピクリと動いた。
「いるぜ!この状況をたった1人でひっくり返せる、とびっきり凄い奴が───!」
「…………誰?」
「ッハァァァァァァァァァァァァ!!」
馬鹿が白馬に乗ってやって来た!




