馬鹿が戻って来た
───光を乱反射し、眩い輝きを放ち続けながらディザベルを取り囲み、斬り刻み続ける、ヴィスタの無数のダイアの剣。
その光景は、さながら猛吹雪……ダイアモンド・ブリザードだった。
「…………おっと、これ以上はミンチになっちゃう」
ヴィスタは、ディザベルの血で真っ赤に変色したダイアモンド・ブリザードを見て攻撃を解除する。
「アハハッ♪やっぱり、いつ見てもレッドダイアってキレイだよね……」
天井にいたヴィスタは、ゆっくりと地上に降りると、ディザベルの血でレッドダイアの様に赤く染まったダイアモンドの剣を手に乗せて、恍惚とした表情で見つめた。
「───そう思わない?」
ヴィスタは、レッドダイアから視線をディザベルに移す。
「……あぁ…………ぁ……」
全身をダイアモンドの剣で斬り刻まれ、血まみれのディザベルは、膝から崩れ落ち、血だまりの中に倒れた。
身体の至る所に裂傷があり、美しかった桃色の長い髪は乱雑に斬られ、以前の面影は無かった。
「あーあ、ボロ雑巾みたいになっちゃって……らしくない」
ヴィスタは、失望と軽蔑、そして呆れた顔で床に倒れているディザベルを見る。
「身勝手な理由で国1つを滅ぼした女が、子供を逃がして死ぬなんて……らしくないんじゃない?」
ヴィスタの言葉にディザベルは答えない。
「私、結構尊敬してたんだけどなー。ほら、私って破滅願望持ってるでしょ?リリみたいに多くの人間を不幸にしたいんだけどねー、これが中々出来なくて……だから尊敬してたんだけどなー」
ヴィスタは、身勝手極まりない憧れと尊敬を口にするが、そんな言葉はディザベルには聞こえていなかった。
…………時間は稼いだと思う……アリアステル……無事に……逃げてくれ……。
痛覚は鈍り、朦朧とする意識の中……ディザベルは、アリアステルの事を考えていた。
あの吸収のせいで国中の人間は倒れ、頼る事は出来ない……。
だが国外に出れば……運が良ければ他の誰かに助けて貰えるかもしれない……。
そうだ…………もしかしたらアリアステルは、キョウに助けて貰えるかも…………。
キョウは、いつも肝心な所で助けてくれるから……アリアステルの事も、きっと助けてくれる……私は無理だけど……。
修行に出たキョウが帰って来るのは、後2日か3日後。
今頃、無人島で鍛えているはず……だから私の事は助けられない……。
でも、それでいい。キョウじゃ、ヴィスタには勝てないから……だからどうか……復讐なんて考えないでアリアステルを守って…………。
「───まっ、別にいいけどね」
ヴィスタは、パチンと指を鳴らすと、それに呼応するかのようにディザベルの全身にある全ての傷口から美しくカットされたダイアモンドが生えて来た。
「う”ッ!?あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?」
失神する事も許されない程の常識を超えた痛みに襲われたディザベルは、ただ泣き叫ぶ事しか出来なかった。
「イ”ぎ……ッ!アああ、いギャアアアアアアアア!!」
傷口から生えて来るダイアモンドは、徐々に大きくなりながらディザベルを苦しませ続ける。
「ねぇ、リリ?私、考えてたんだけどさー」
「ヒギャあ”あ”あ”!!ア”っ!?い”……い”い”い”イ”い”い”い”!!」
先程まで血だまりの中で蹲っていたディザベルだったが、成長しきった傷口のダイアモンドに支えられる様な形で立たされていた。
「リリの大切なものって何?」
「あ”…………あぁ”……?」
常軌を逸した激痛によって朦朧としていた意識を無理矢理覚醒させられたディザベルに、ヴィスタは戦う前から感じていた疑問を投げかける、
「普通の人間なら金や家族、自分の命だったりするけど……リリは違うでしょ?金には興味無いし、家族もいない。そして復讐を完遂した今は自分の命に執着も無い。自分の命を捨ててまで王女を逃がそうとしたくらいだし」
ヴィスタは、まるで子供の様に楽しそうに笑いながら自分の推理を披露していく。
「じゃあ、あの王女が大切なもの?……けど違うよね?」
ヴィスタは、いじらしく笑いながら……ディザベルの目元を手で触った。
「自分の命よりも、あんな王女よりも、どんなものよりも大切なものが、リリにはあったよねー?」
「……や”…………め”……ろ”ぉ”……」
「あははっ!やっぱり正解ー?」
ヴィスタは、右手でディザベルの左目蓋を無理矢理開く。
「前から思ってたけどキレーだよね、この魔眼。私も貰っちゃおうかな、あの国の連中がやったみたいに」
ヴィスタの言葉を受けて、ディザベルの脳に、あの時の光景が想起される。
あの忌々しい過去が……頭部を持ち去られて死んでいた皆の姿が……ッ!
「はぁはぁ……はぁ……ッ!ヴィスタァ”ァ”ァ”!!」
ディザベルは声を張り上げ、ヴィスタを殺そうとするが、痛めつけられた身体は動かず、魔法を使う為の魔力も無い。
今のディザベルには、喚く事しか出来なかった……。
「あぁ……そういう顔が見たかった……」
ヴィスタは、ディザベルの目元に触れている右手の力を徐々に強めた。
ディザベルの魔眼を奪い取る為に、ディザベルの魔眼を抉り取る為に───!
「や”め”ろ”……!」
嫌だ……この眼は…………この眼だけは嫌だ……。
「大切なものを奪われる」
「やめろ、やめろ、やめろ……!」
この眼は、お姉ちゃんが死の間際にくれた大切なものだ……。
誰にも渡せない、誰にも盗られたくない、誰にも傷つけさせたくない。
大切な思いが、大事な思い出が、いっぱい詰まった私の宝物なんだ……。
「大切なものを踏みにじられる時の、その顔が!」
「やめろォォォォォ!!」
嫌だ…………嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!嫌だ!!
「リリのその顔が!私は見たかった!!」
「あ、あああああああ!!」
誰か!誰か誰か誰か……!!
「……助けて…………」
その時───!
「おッッッ……らァァァァァァ!!ギア・ザ・ボリック!!」
突如として現れた青髪の獣人、ナリバスの大剣がディザベルの左目を抉り取ろうとしていたヴィスタに迫る!
「はぁ……不意打ちなら無言でやりなよ」
ヴィスタは深いため息をつきながら、ダイアモンドの剣でナリバスごと攻撃を弾いた。
「ぐっ!?コイツ……ッ!」
ナリバスは、すぐに体勢を立て直して剣を構える。
「はぁはぁはぁ……っ!ルル!助けに来ました!!」
ナリバスの後ろから、アリアステルが遅れてやって来た。




