疑問の答え
───白金の剣が次々とクニアの全身に突き刺さっていく。
一切の抵抗も反撃も無いままディザベルの攻撃を受けたクニアの身体が、魔力の粒子となって霧散していき、最後には奴を封印していたキューブ型の魔道具だけが、白金の剣が1本突き刺さった状態で、その場に残されていた。
「……なん……じゃ……?」
直前、あれだけ大口を叩いていたというのに、余りにもあっけない幕引き。
流石にまだ生きているのではないかと、まだ何かあるのではないかと疑ってしまう程にだ。
しかし手応えはあった。
ワシの攻撃は確実に奴に命中した。奴の命を奪った確かな手応えがあった。
その証拠に、ワシ達の魔力と体力を吸収していた、あの忌々しい魔法は消えていた。
それに奴の気配も、汚物の様な魔力も、全て。
「終わった……のでしょうか?」
ディザベルの後ろに隠れていたアリアステルが不安そうに、クニアの入っていたキューブを見つめている。
「うむ、その筈じゃ。……まあ余りにも、あっけなさ過ぎて全く実感が湧かぬがな」
ディザベルは肩をすくめて他愛もなかったとアリアステルを安心させるように笑ってみせる。
「本当ですか?」
「ああ、本当だとも。これで全部終わった……と言いたい所じゃが、アリアステルよ」
ワシは先程から抱いていた、ある疑問を、アリアステルに尋ねる。
「はい、何でしょうか?」
「───アレは何時、何処で手に入れた?」
ディザベルは、床に転がった状態のままの、クニアが封印されていたキューブに視線を向ける。
「アレですか?」
「うむ。500年前に悪さをした人間を封印した魔道具じゃぞ?普通なら国が厳重に保管しているような代物が、まさか献上品として贈られてきた訳ではあるまい?」
「いえ、ルルさんの言う通りアレは、2年前……私が5歳の頃に、父への献上品として贈られたものです」
「…………何?一体何処の誰が───」
「あーあ、もう壊れちゃってる……もっと面白くなるかと思ったのに、期待外れ」
───女がいた。
先程まで、この場に存在すらしなかった白い服を着た水色の長髪の女が。
臨戦態勢でいたディザベルの、厳重に張り巡らされた魔力検知を易々とすり抜けて。
転がっているキューブをつまんなそうに見ていた。
「死ねッ!!」
急に現れた女に殺意を剥き出しにしたディザベルは、超巨大な白金の剣を10本召喚し、まるでまな板の上で食材をみじん切りにするかのように剣を女に向けて振り下ろした。
凄まじい轟音が、この玉座の間に鳴り響く。
「ル……ル……?」
アリアステルの見たディザベルの魔法は、自分のものとは、自分の知る魔法とは、1つも2つも次元が違う……まさに神の領域に達していると言っても過言では無いものだった。
その余りにも過剰すぎる攻撃、そして常軌を逸した神の如き魔法に、アリアステルは呆気に取られてしまった。
「…………ちょ、ちょっと!やめてください、ルル!?いくら何でも、これは───!?」
「あー、やっぱり『リリ』じゃん」
「…………え?」
轟音の中から聞こえて来た女乱入者の余裕そうな声に、アリアステルは言葉を失ってしまった。
「なん……で?あんな攻撃を受けて……なんで生きて……」
普通なら磨り潰されている。あんな攻撃を受けて生きていられる訳が……。
「100年ぶりくらいじゃない?まーだ生きてたんだ」
「リリ……?100年ぶり……?」
「……逃げろ、アリアステル」
「え?」
「邪魔だ!さっさと消えろ!!」
ディザベルは超巨大な白金の剣を更に1本、追加で召喚し、それを水色の髪の女に向けて投げつけた。
「ちょっとー、久々の再開なんだから少しくらい会話を楽しんだら?」
ディザベルの放った超巨大な白金の剣は、追加で投げた剣も含めて全て粉々に砕かれていた。
「チィッ!!」
全力の攻撃をぶつけたというのに、あのクソ女は涼しい顔で相殺して!
「うそ……」
「早く逃げて……今の私じゃ、アイツには勝てない」
「ルル!?」
これまで十数日、ルルと生活を共にしてきたアリアステルだったが、こんなに焦るルルを、こんなに余裕が無い姿を、そして自身の敗北を認め、諦めている姿を見た事は無かった。
いつも余裕があって、尊大で、力強いルルからは想像もつかない姿だった。
「わ、私も戦います!2人なら……!」
私が加勢した所でどうにもならないのは分かっている。
……でも助けてもらっておいて、このまま彼女を置いて逃げるなんて事、私には出来なかった。
「いいから早く逃げろッ!!」
「でも!」
「……へぇー、その子、そんなに大事なんだ?」
「───ッ!?」
まるで新しい玩具を見つけた子供のように嬉しそうな声を上げながら、あの女は私達を攻撃して来た。
得意な創造魔法によって創り出された大量のダイアモンドの剣を発射して。
「退け、アリアステルッ!!」
私はアリアステルを守る様に前に出る。
そして奴と同じ創造魔法によって創り出した100本の白金の剣で、降り注ぐダイアモンドの剣を空中で迎撃しようとする。
しかし、奴の創り出したダイアモンドの剣は私の創った剣の本数を優に超えていた。
迎撃し損ねた剣が50本か100本かは分からないが、多くの剣が私達に降り注いだ。
「ぐぅぅぅ!!」
私は自衛用に停滞させていた6本の白金の剣を操作して、降り注ぐダイアの剣からアリアステルを守り切った。
「はぁはぁ……はぁ……無事か?」
「ルル!?」
なんとか攻撃を防ぎ切ったディザベルだったが、呼吸は大きく乱れ、肩で息をしていた。
「やっぱり創造魔法は今も昔も私の方が上か。やっぱり才能の差?」
「黙れ、愉快犯」
ディザベルは目の前の馬鹿女『ヴィスタ』を睨みつける。
「その悪癖、100年経っても変わってないなんて、進歩の無い奴」
「そっちは随分縮んでるじゃん?最初に会った時くらい?」
「ふん」
クソ……!
よりにもよってこいつが黒幕とは、よりにもよって、こんな時に会うなんて。
「暇な奴。2年も前から、ちょっかいをかけてるなんて」
「昔の事すぎて、さっきまで忘れてたんだけどね。でも急にアレが動き出したから、どうなるか結構期待してたのに……まさか、リリに邪魔されるなんて、もう最悪」
「それはこっちの台詞だ。それに貴様……不老不死を手に入れたな?」
ヴィスタは私と同じ人間、本来なら130歳を超えている奴だ。普通ならとっくに寿命で死んでいる。
それが私の前に、20代の頃のままの姿で立っているという事は、ヴィスタは不老不死を得たという事に他ならない。
……という事はだ。コイツは以前私と殺し合った時よりも、今の私よりも格段に強くなっているという事だ。
「それはそっちも同じでしょ、私より若返っちゃってさー」
「……ふん」
ヴィスタは誤解しているが私のこれは不老不死ではない。
この若返った今の姿はキョウからの贈り物だ、私の力じゃない。
「どうする?折角だし、お喋りでもする?」
「目障りだ、さっさと消えろ」
「そう言うと思った。なら殺そっかな?なーんか今のリリ、かなり消耗してて楽に勝てそうだし」
……やはり見抜かれていた。
ヴィスタの言う通り、あの男と戦ったせいで、今の私は、たった4割程度しか魔力が残っていなかった。
加えて奴の吸収で体力まで持って行かれたせいで、立っているのもやっとな程に疲弊している。
こんな状態ではヴィスタには絶対に勝てない。ましてや逃げる事など不可能だ。
昔、本気で殺し合った時だって万全な状態で引き分けたというのに、昔よりも強くなっているヴィスタ相手では戦ったって嬲り殺しにされるだけ……。
「……時間は稼ぐから、逃げて」
それでも、アリアステルが逃げるだけの時間は稼ぐことが出来るはずだ。
「そんな……!ルルを置いてなんて……そんなの!」
「……なんて聞き分けの無い子だ、こんなに強情だったなんて……」
私は尚も食い下がるアリアステルに向け、白金の剣を突きつける。
「早く行け」
「……っ……待っててください!すぐに助けを呼んできますから!」
アリアステルは、力になることが出来ない足手纏いで無力な自分が悔しくて今にも泣きそうになりながら、ディザベルを置いて玉座の間から走って逃げていった。
「うーん……あの子を目の前で殺すのと、あの子の前で殺すの……どっちがいいかな?」
「お前が死ね!!」
激しく飛び交うディザベルの白金の剣とヴィスタのダイアモンドの剣。
もはや国同士の戦争としか思えないような激しい戦いが、ディザベルの負け戦が幕を開けた。




