龍神と炎の巨神スルト
北西に位置する辺境領イスラから首都オクシドのあるズラートに入り、そこから船で川を下って港湾領エクシードの交易都市マエシドに入る。
ノワール「なんか暑いんだけど。」
私はヴァイスにもらった白いアヌビスの仮面をして外を出歩くことにした。
しかし、口が仮面の口にすっぽり収まっていて、しゃべりづらく感じた。
私がノワールだと思われないように服装も男装、腰にレイピアとかなり厳つい装いだ。屋敷の者には腕の立つ用心棒で通っている。
ルーカー「そりゃ、だいぶ南まで来ましたからねー。」
私とルーカーはヴァイスの助言を頼りに避暑地ロゼオ諸島に住むとされる龍神とやらに会いに来ていた。
その龍神に私の顔をもとに戻す方法を聞きに行こうと言う。
そのためには本人が行くのが話が早いということでイスラから遠く南の地まで出向いてきたわけだ。
ロゼオ諸島はマエシドから定期便がでている。らしい。
ノワール「当日券とかあるのかしら?」
ルーカー「あります。だいぶ昔のことですけど。」
ルーカーはオルクス家に来る前、任務でマエシドに長期滞在していた経験があり土地勘があった。
この旅の同行者としてはおあつらえ向きだろう。
ルーカー「お、つきました。降りましょう。」
マエシドの発着場について荷物片手に桟橋に降りる。
ルーカー「持ちますよ。」
ノワール「いいわよ、これくらい。自分のくらい自分で持つわ。」
(チリーン)
は?
ノワール「や、やっぱり、おまかせするわ!」
ルーカー「そうですよね!」
この選択がどう、この後、影響するのだろう?
“もっと仲間を信用しろ”とはこういうことなのだろうか?
ルーカーは両手に荷物を持っている。私達はそのまま港のロゼオ諸島定期便の発着場に向かった。
ルーカー「ダメでした。当日券は完売です。」
ノワール「えぇ?!明日以降のチケットは?」
ルーカー「明日から数日、シケる予報で定期便は出ないって言われました。」
ガーン
まぁ、長期滞在用に多めにお金もパンツも用意してきたけども。
ノワール『イスラの領地経営、試作ドラゴンの事もあるし、早く戻りたいんだけど……』
ルーカー「とりあえず、ホテル取りましょうか?」
ノワール「そうね、そこに荷物置いて。船がないか探しに戻ってきましょう。」
発着場から出てホテルに向かう道でルーカーの荷物をひったくろうと小汚い少年が飛び出してきた。
ガッ
カバンを奪い取れると思っていた少年はルーカーが離さなかったのでつんのめって後頭部から地面に勢いよく落ちた。
ルーカー「はぁ?俺が離す訳ねーだろ。もっと、違う人のを狙えよ。」
え?ひったくりの助言?
すごく痛そうに後頭部を両手で押さえてのたうち回る少年に私はレイピアを抜いた。
ノワール「いい度胸だな小僧。私の下着に興味があったのか?」
ルーカー『いやぁ、違うと思う……』
ボワッ
ダマスカス鋼の黒地に白で龍紋の入ったレイピアが火を噴くとその刀身は炎に包まれた。
驚いた少年はエラいのに捕まったと今にも泣き出しそうな顔をしている。
少年「ひぇぇ、こ、殺される……」
私とルーカーは顔を見合わせてコイツをどう処理するか思案した。
あ、そうだ。
ノワール「おい、小僧。お前、船はあるか?」
ルーカー「あぁ、定期便のかわり!」
私は頷いた。
ノワール「早く答えろ。」
切っ先の炎で少年の鼻先が焦げる。冷や汗をかき、恐怖でガタガタと震える少年の声は上ずっていた。
少年「と、父さんのがあるよ!」
ふーん。
ノワール「ソレで私たちをロゼオ諸島に運べ。礼金なら払ってやる。」
それを聞いて少年はキョトンとして、すぐパッと明るくなった。
少年「わ、わかった!父さんに言って見る!」
ルーカー「相手が俺たちで良かったな坊主。」
ロゼオ諸島のことがなかったら普通にこの後、めちゃくちゃになってもらったがな。さぞ、いい声で泣いたに違いない。(ニチャァ)
少年の家までの道中。彼の身の上話を聞かされた。
貧乏な家計を助けるためにひったくりをやっていた少年は6人兄妹の長男らしい。
ノワール「今後は定期便で漏れたやつらの観光でも観てやれ。」
ルーカー「いいか、坊主、ひったくりはもっとひ弱そうなやつを狙え。年配の女性とか。」
少年「定期便を降りた使用人は結構、気が抜けてて、行けると思ったんだ!」
ひったくりで会話に花を咲かすな。
あ、私はもっと、とんでもないことしてたな……
ついた家の外でアミの手入れをしていた少年の父親は私達から事情を聞くと快くロゼオ諸島まで船を出してくれた。
当然、少年のひったくりのことは伏せている。道端で観光案内を切り出されて知り合ったということにした。
親子喧嘩など見たくはない、めんどくさいだけだ。
ロゼオ諸島
夏は王族、貴族達が避暑のためにごった返すこの地もシーズン以外はひっそりとしたものだった。
私は船頭に、礼金を渡し、帰りの便もお願いすると、人の寄り付かない断崖絶壁を張り付きながら龍神の住まうとされる洞窟を目指した。
体にかばんをくくりつけたルーカーも私に続いた。
龍神「おや、珍しい。人の子が訪ねてくるとは。」
そこにはヘビに角を生やしたようなモンスターがいた。
アヌビスの仮面をした男装の女性(?)とカバンを体にくくりつけている使用人の青年の来訪に龍神は首を持ち上げてこちらを見据えるだけだった。
ノワール『敵意とか悪意とか欲していることとかわかるのかな?それなら話は早いのだけれど……』
私は挨拶もそこそこに全頭仮面を外して黒い毛のオオカミの顔を見せた。
龍神「亜人?にしては違うような?」
ノワール「魔女には神降ろしの巫女だと言われました。」
ルーカーが持ってきたカバンを開け、中からワインの瓶を数本取り出した。それを見た龍神は大きな目を輝かしている。
龍神「へぇ~、初めて見る。どこの酒だ?」
ズルッ
酒かい!
ノワール「私の所でとれたワインです。お近づきの印にどうぞ?」
龍神「おぉ!いただこう。」
フワリッ
ルーカーの持っていたワインが宙を舞い、勝手に蓋が開く。
ンガ〜!
龍神は口を大きく開けると一気に一本飲み干した。
龍神「ほほぅ、これはなかなか、いい酒じゃないか?」
ノワール「顔をもとに戻す方法を教えてくださればもっと持ってきましょう。」
龍神「その言葉忘れるな!定期的に持ってきてくれ!」
なんか、調子狂うなー。
ノワール「ソレで治す方法というのは?」
龍神「うむ、人の形をした神をその身に宿すと良い。」
ノワール「神に関する書物を読むだけではダメでした。」
龍神はしばらく考えた。
龍神「そうだとすると直接会えばよかろう。」
ノワール「神に?私どもには、あてがありません。」
龍神「ひとりおる。この国に封じられたやつが。」
そんな伝承あったかな?私はこれまでの記憶をたどった。
龍神「炎の巨神スルトよ。」
あの伝承は本当だった?!炎のキョジン、スルトが踏んだ土地。辺境地イスラの伝承は。
龍神「左様、奴は山の中、マグマ溜まりに封じられよった。今もそこにおろう。やつを降ろせば人の顔に戻るだろうて。」
ノワール「わかりました!顔がもとに戻ったらまた来ます!」
龍神「その時はまた酒を持ってきてくれ!たっくさんだぞ!」
私達は船でマエシドに戻ると、さっそくイスラにとんぼ返りすることにした。
ルーカー「えー、もう、帰るんですか?俺、観光とか期待してたんすけど……」
ノワール「顔がもとに戻ったら、いくらでも特別休暇あげるわよ。」
地質調査かぁ、確か魔女にそんなのを生業にしてた子が居たはず。
辺境領イスラ
屋敷に戻った私は隠し部屋のマリアッチに相談した。相変わらずここは獣臭い。今の私も獣に違いないが……
マリアッチ「あ、通訳のブレスレット届いてますよノワール様!」
ノワール「ありがとう、マリアッチ。ところで地質調査だか、地殻調査だかをやってる魔女知ってる?」
私はさっそく右の手首に天然石(?)のブレスレットをはめた。
マリアッチ「あぁ、ノリコですか?」
ノワール「その魔女は魔女集会に来る?」
マリアッチ「たまに見かけますよ?いっつも首にヘルメット下げてるから、すぐわかると思います!」
ノワール「わかった、今度探してみるわ。シンフィールドのドラゴンは?」
マリアッチ「さぁ?発掘された地下施設にドルガ先輩と籠もってるからなぁ。最近、コッチにはあんまり顔出さないんですよね?」
ノワール「わかったわ。そっちにも行ってみる。」
深夜、アルゲンから町の進捗状況を聞く。
アルゲン「春先には大型宿屋が一つ完成します。」
ノワール「結構、急ピッチじゃない?違法建築?」
アルゲン「いえ、公金注入と公爵家、ヴァイス様の尽力により、人手がたんまり集まってます。
街道の方も順調に伐採、整地が進んでいます。」
ノワール「いいわね!報告書でまとめてちょうだい?」
アルゲン「ヴァイス様にお渡ししてます。頼めば見せてもらえるかと。」
やったわ!これで今年の年末には街道が開通して宿屋もギルドもオープンになる。そしたら税収が一気に上位に食い込むはず!
ノワール「ンフフフフ!見てなさいよ!私達を、イスラを田舎だと侮って中央であぐらをかいてる貴族ども!ギャフンと言わせてやる!」
何が、禍津神のノワールだ!
何が、デスマスクのヴァイスだ!
今に見ていろ!絶っっ対に見返してやる!




