ノワールとホムンクルス
雪混じりの雨の日
私は自室の窓から外の往来を眺めていた。本格的に街道敷設工事が始まり、皆、忙しそうにしている。
ノワール「向こうに見えるのは建設中の宿屋かギルドの会館かしら?結構、大きいのを作るのね。」
ベントに負けない位の立派な街にしてみせる。
そう思っても、顔が人のそれではなくなって、暗い部屋に閉じこもって神にまつわる著書を読みふけっては、こうして休憩がてら外を見るのだ。
ノワール『神降ろしか……冥府の神、アヌビスの顔じゃ人前にはでられない。』
すると、ヴァイスと私が相合傘で屋敷に帰ってくるのが見えた。
私の複製。ノワールホムンクルス。
ノワール「ヴァイスったら、鼻の下伸ばして、何あのニヤけ面は。」
……………………
ズズッ
席に戻って紅茶を飲む。
ノワール「……あれ?」
砂糖を入れ忘れたのか、はたまた、淹れ過ぎて、時間が経って酸化したのか今日淹れた紅茶は苦い。角砂糖を追加する。
しばらくすると、
部屋の扉を誰かが開けようとする。
ガチャガチャ
メイド?ソレはダメ。今の顔はオオカミや犬科そのもの、卒倒するに違いない。それに、正教会にしれたら大変な騒ぎになる。
ノワール『下手すりゃ、火あぶりかしら?』「誰?アルゲン?」
扉の向こうから私の声がする。
ホムンクルス「ノワール様、私です。」
私が不在でもカッコがつくようにヴァイスにあげたもの。
すべてがそっくり、赤い瞳と白すぎる肌をのぞいて。いや、性格も違うか?
ホムンクルス「ヴァイス様から神にまつわる本を取ってくるようにと言われました。」
ノワール「そう、入りなさい。」
男勝りで加虐性癖な私とは真逆、大人しい、従順なお姫様。
……大人しいヴァイスとお似合い。
相合傘かぁ、普段の性格から言っても私じゃガラじゃないし、きっと似合わない。
ノワール「読むだけじゃダメだったわよ?」
ホムンクルス「どこにいるかとかを調べるんですかね?」
私の顔が喋っている、気がついたらホムンクルスの首に手をかけていた。
ハッ
ノワール「ごめんなさい!」
咄嗟に手を離す。
慈愛?憐れみ?
どこか、憂いを帯びた静かに光る赤い瞳がコチラを見据えている。
まるで心を見られているようだ。
ホムンクルス「私はアナタ。表舞台用のアナタ。」
そう。彼女は表舞台用。そのために用意した。
しかし、私の欲しいものが目の前にある。
ヴァイスとお似合いのおしとやかな、女性らしい性格。
私とは相容れない、悪徳とは無縁の存在。
今、一番欲しい、私の顔。
私がこうなりたいと願っても、なれなかった理想のノワール=B•オルクス。
あぁ、愛おしい
あぁ、憎らしい
私は首を振った。雑念を振り払う。きっとひどい顔をしていただろう。
ノワール「もう、行って。」
ホムンクルス「きっと、アナタの顔をもとに戻しますから。」
そう言うと、ホムンクルスは部屋をあとにした。
ノワール「何やってるんだろ私?」
きっと、ストレスのせいだ。夜になったら、遠吠えでもしようかしら?
夕食、
と言っても、みんなが寝静まった時間、厨房に行き。今日の残り物を取りに行く。
そこには先客に魔女たちが酒盛りをしていた。
ノワール「最近、ワインの減りが早いと思ったらこういう事……」
シンフィールド「おうい、ノワール!こっち来いよ。」
ドルガ「黒いのもやれよ!」
マリアッチ「うへ、ウヘヘヘへ!」
丁度いい、作業工程の進捗を聞こう。
ノワール「ドルガさん発掘は?畑は大丈夫なの?」
ドルガ「んー?結界は機能してるし、地下施設も入り口を見つけたぞ?」
後ろ手に上体を支えながら、コップのワインに口をつけてドルガが答える。
ノワール「へえ?中は?」
シンフィールド「聞いて驚け、ドラゴン精製施設だ!」
ワインの瓶ごと煽っているシンフィールドが嬉しそうに言う。
聞けば、シンフィールドはドラゴン研究をしていると言う。
ドラゴン
空を飛び、火を吹くオオトカゲ。昔は結構いたそうだが、人的被害が大きすぎるからと討伐が進み、今じゃめったに見られないレアモンスター。
シンフィールド「電源は生きてた。さっそく試作してみるつもりさ!」
ドルガ「私のお目当てのところじゃなかった。ざーんねんっ!」
ドルガとシンフィールドは温度差はあれど発掘結果に満足しているようだった。
あ、出来たら私も貰おう。
クエストランドが捗ること間違いない。エンハンブルクがどうなろうと知ったことか。
私をバカにした罰だ。しっかり後悔しろ。
ノワール『いっそ、国ごともらうか?』「マリアッチ、頼んでたブレスレットは?紋章魔法の魔女はつかまった?」
マリアッチ「うーん、両方まだまだですねぇ。ブレスレットは受注生産でしばらくかかるって言われたし、
紋章魔法の人は予約が一杯とかで、コッチは後回しにされるんですよねー?」
コッチはまだまだかかりそう。全部が全部うまくいく訳ないか。
私は二、三食べ物を見繕うと、その場を経った。
ノワール「あなた達、ほどほどにしときなさいよ?」
「わーってるってーwww」
本当かなぁ?
まだ日の出前の早朝、ドアが叩かれる音で目が覚める。
ルーカー「大変ですお頭!」
ノワール「お頭?」
あ、間違えた
っていう顔の青年が扉の前に立っていた。その騒ぎに隣の部屋で寝ていたホムンクルスも起きてきた。
ルーカー「今日、ゴブリンの所に食料輸送したんですが、洞窟から変な声がするんで、気になって見に行ったんです!」
ノワール「ソレで?」
ルーカー「そしたら、大怪我負った奴等が寝かされてまして、あの傷は多分クマですよ!」
私を襲った個体か?そうなるとヤツは手負い、ゴブリン達と戦って集団戦法も学習してるかもしれない。
が、今の私なら倒せる。
ノワール「アルゲン、イスキアを起こして?それから魔女も、山狩に行きましょう!」
ルーカー「魔女もですか?!」『俺を見る目が怖いんだよなぁ……』
ノワール「そうよ、多分みんな、厨房で寝てると思うわ?」
タール沼に落として、ウプウアウトで燃やしてやる。
ホムンクルス「私もお供します。」
アルゲン、イスキア
ドルガ、シンフィールド
マリアッチ、ルーカー
あ、私が一人か。
ツーマンセルで捜索するにしても人手が足りない。人は多いほうがいい。
ノワール「お願いね?」『麻薬畑、ゴブリンの巣の先だからなぁ、領民は使えない。』
ヴァイスはこういう荒事に向いてない、置いていこう。
山の中
ドルガ「おい、黒いの。お前、魔女使い荒くないか?」
ゴブリンの言葉は魔女が通訳してくれた。クマの出没ポイントは分かっている。私たちは麻薬畑に集まった。
ノワール「ワイン代。あれ高い値で売ってるんだからね?」
昨日の夜中に結構、開けたシンフィールドがバツの悪そうな顔をする。私が行ったときにはもう空瓶が何本かあったぞ?
マリアッチ「ワタシまだ。冬季ボーナスもらってません!」
コレが終わったら払ってやるか。ワイン代と差し引いて。
それぞれ得意な獲物を持って、2人1組で間隔を開けて入っていく。ここから地下施設までの間でクマと接敵するはずだ。
ドルガ「私とマリアッチは素手だね。」
マリアッチ「魔女の戦略魔法は即発動しますから!」
シンフィールド「お前らのは便利だよなぁ。」
ドルガ「カミナリと骨も断つ空気のメスだからな。」
シンフィールド「それに比べて私の辺津鏡は若干、発動が遅いんだよなー。」
だから、厳つい戦斧なんて担いでるのか。魔女はそれぞれ戦略魔法というのに個性があるのか?
ドルガ「家系だな。」
マリアッチ「血統の問題ですね。マタル様とグレダ様姉妹は中性子の雨ですし。」
何それ?なんか怖い。
マリアッチのチームが森に入っていく。残るは私とホムンクルスだ。
ホムンクルス「他の方たちが始末してくれてたら楽でいいんですけど。」
ノワール「なかなか言うわね?アナタも。」
アレ?にてるとこがあるのか?性格。
クンクン、あ、鼻が利く。
イスキアのあんこの匂い
シンフィールドの脇の匂い
アルゲンのポマードの匂い
マリアッチの魔獣の匂い
アヌビスになってから匂いに敏感になったなと思ってはいたけど、ちゃんとは自覚、認識してなかったかもしれない。
ノワール「この顔は案外、悲嘆に暮れるだけのものでもないのかも?」
この国では見ないけど、異国の地では猫型の亜人や狼型の亜人もいるらしいし。
けどまぁ、クマの匂いが近くにあることもしれたのだけど……
ノワール「ホムちゃん、離れないで。」
ホムンクルス「いえ、私が囮で前に出ます。」
え?一応、レイピアを持たせて入るけど……
ガサァ!
そう思ってる矢先にホムンクルスの目と鼻の先に大きなクマが立ち上がった。
ノワール「タールの沼!」
ヌプン!
クマは突然できた沼に体の半分が沈んでしまっている。
ホムンクルス「わ、ノワール様、引き上げてください!」
いっそこのまま、コイツ毎燃やしてー
ブンブン
邪念を振り払い、ホムンクルスを沼から引き揚げる。
ノワール「ウプウアウト!」
ホムンクルス「くたばれ。」
クマは激しい炎に巻かれて絶命した。
その炎を見ながら私はホムンクルスをそっと抱いた。
このコは私の大切な妹
私の分身
表の世界のノワール=B•オルクス辺境伯
私はホムンクルスの鼓動を愛おしく感じた。




