冥界の神ノワール
早朝、薄霧の立ち込める山の中に私はアヌビスの仮面を被って仲間たちと忍者の襲撃を待った。隣に立つ赤毛のくノ一が私の全頭仮面をのぞき込む。
イスキア「その仮面よく見ると可愛くないですか?」
ルーカー「どこがだよ?どう見ても猛犬にしか見えねぇ……」
その言葉に後ろに控えている執事で忍者達の頭のアルゲンと黄色い瞳の魔女ドルガも口を開く。
アルゲン「ぱっと見、狼男ですな。」
ドルガ「黒いの(私のこと)は女だろ?」
ノワール「やっぱり、私はこっちね。」『表の世界はヴァイスに任せとけばいいんだわ。』
山の中は昨日の戦闘で倒した忍者の死体の一部がまだ散乱している。獣が持ち去ったのか一部欠損やかじられた跡がある。
ノワール「それにしても、なにあれ?」
全身炭化した忍者の死体をレイピアで指し示す。
アルゲン「魔女ドルガの雷です。」
ドルガはドヤってVサインをしている。昨日の雷は魔法によるものだったのか……
シンフィールド「私のは形が残らないからなぁ……」
長い柄の戦斧を担いだ魔女は言う。
ドルガ「お前も褒められたかったら、アレ使うなよ。」
シンフィールド「いいや!自分の戦略魔法を最大限活用するにはこうするのが一番さ!」
戦略魔法?
魔法にもクラスがあるのだろうか?詠唱魔法の他に紋章魔法があるとはマリアッチから聞いていたが。
そこへマリアッチも息を切らして私たちのいる場所に登ってきた。
マリアッチ「合法的に(?)人のサンプルをキャプチャーしていいって聞いて!」(ゼーハーゼーハー)
その言葉に忍者達は絶句して青ざめている。
ドルガ「みたいだぞ?」
マリアッチ「私にもください!」
シンフィールド「狩るぞ、狩るぞ。」(ニヤニヤ)
魔女達は人間を殺せると張り切っている。人をサンプルだ、標本だと言う魔女たち……。
人をものにしか捉えてない私はどちらかと言うと魔女の倫理観に近いのかもしれない。まぁ、大切な者達は違うが、他は損壊対象だ。
スタタッ!
しばらく待っていると、大臣達の雇ったであろう忍者達が山林に姿を現す。
「居ました!昨日の奴らです!」
「なんだあの犬の仮面のやつは?」
先頭の上忍が声を上げる。
上忍「顔を隠しても無駄だ!貴様を倒して街道敷設の話はなかったことにしてやる!」
ゾクゾク
ノワール「やってみろ。」
アヌビスの目から忍者たちを見据え、マフラーを駆けなおす。しぐさをする。
おっと、今はしていなかった。
ヴァイスの隣の物言わぬ自分に似せたホムンクルスの首に巻いてやったのを忘れていた。
しかし、この命のやりとりがたまらない。私の体は歓喜に震えた。レイピアを握る右手に力が入る。
その時、頭の中に声がする。
ー実行ファイル、検出。開きますか?ー
そうするとどうなる?
私は心のなかに芽生えた好奇心を止められなかった。
ノワール『答えは、はい。よ?』
頭の中心で何かが回転する。
上忍「やれ!」
上忍の後ろに控えていた忍者達がコチラに飛びかかってくる。
アルゲン「水遁、幻想郷!」
シンフィールド「そんなもんに頼るなよ!」
ルーカー「塵遁!雷神剣!」
シンフィールドとルーカーの二人が敵に切り込んでいく。
濃い霧が辺りに立ち込め。空には厚い雲が視界いっぱいに広がってきた。
マリアッチ「ドルガ先輩、残しといてくださいよ?」
ドルガ「わかってるさ。」
私も敵と切り結ぶ。
ボワッ
いきなり持っていたレイピアから炎が上がる。
「うぅ!?」
ノワール「なにこれ!?」
二人とも驚いて距離をとる。
ドルガ「もらった!」
ピカッ
忍者に雷が落ち内臓が辺りに弾けて、瞬時に炭化する。
また、頭の中に声がする。
ーウプウアウト、ダウンロード完了。ー
実行ファイルってこう言うのなの?私はレイピアの炎に見とれながら、愉快で仕方なかった。
ルーカー「ふっ!」
ズルル、ドサッ
ルーカーに持っていた刀ごと綺麗に切られた忍者の胸から上が地面に滑り落ちる。
忍者「ヒィ!」
シンフィールド「よそ見すんなよ!」
ドカッ!
忍者「へべっ!?」
立ち止まった忍者の頭がシンフィールドの戦斧で割れる。倒れた忍者の頭蓋から中身がドロリとこぼれてきた。
マリアッチ「あー!もったいない!」
スパ
マリアッチの切断魔法で頭蓋を綺麗に切取られた忍者の脳が露出する。
忍者「す、スースーする……」
ドサッ
マリアッチ「脳のサンプルいただきましたぁ!」
ドルガ「回収はあとにしろよ?」
そう言ってる間にマリアッチの首が飛ぶ。
ノワール「あ!」
アルゲン「幻術です。」
地面に転がったマリアッチの首が声を出す。
マリアッチ「フー、危ないなぁ。」
忍者「?!」
スパパパパ!
忍者の頭が何層にも細かくスライスされる。
マリアッチ「私、断面標本欲しかったんですよねー。」
シンフィールド「高いもんな!」
ルーカー「売ってんの!?」
イスキア「ひぇー!」
アルゲン「集中しろ!」
敵の忍者達は恐怖で足がすくんで立ち止まる。
後ろの上忍が恐怖を打ち消すかのように叫ぶ。自分の恐怖も。
上忍「ひ、ひるむな!相手は女ばかりじゃないか!?」
ノワール「仕事熱心ねぇ。」
ドルガ「まったくだ。」
ータールの沼、ダウンロード完了。ー
その声に私は“ソレはどんなの?”と思い。タールの沼をイメージした。
ヌプンッ!
目の前にいた数名の忍者達の足元が突然できた黒い沼に沈む。
「うわ!助けて!」
「オカシラ!」
アルゲン「好機!イスキア!」
イスキア「火遁!ヒトリウグイス!」
ボワッ
「「「ギャァァァ!」」」
沼にハマっていた忍者達は燃え盛る炎に巻かれのたうち回っている。
「ヒィィ!?」
「だめだ!かなわねぇ!」
シンフィールド「逃がすかよ!」
逃げる忍者が黒い空間に飲み込まれる。中から忍者の悲鳴と何かが焼けて溶ける音がする。
シンフィールド「戦略魔法、辺津鏡。その中に熱した強酸が入ってる。」
ドルガ「いいよな、辺津鏡。」
マリアッチ「インベントリとしても優柔な戦略魔法ですよねー!」
それを見たルーカーは口を押さえて冷や汗をダラダラ流している。アンナのどうやって回避するのだろう?
ドルガ「全部狩っていいんだろ?」
ノワール「全部よ!全部!狩り尽くせ!」
そこからは蹂躙だった。
逃げようとすれば落雷で炭化し、立ち向かおうものなら私達の誰かに狩られる。
周りで殺戮が繰り広げられているさなか、上忍は私の前に膝をついて懇願する。
上忍「アンタのことは忘れる!契約は破棄だ!この事も誰にも言わない!だから、命だけは助けてくれ!」
ノワール「え?嫌よ。」
スパ
上忍「あへ!?」
変な声とともに上忍の首が舞う。
ノワール「自分だけ助かろうなんて虫が良すぎじゃない?」
ーアヌビス、ダウンロード完了。ー
あ。
ノワール「アレ?」
アルゲン「ノワール様!」
イスキア「え?!」
ルーカー「今、仮面の口がしゃべったぞ?」
私の顔はアヌビスの仮面そのものになっていた。
私の自慢のツヤツヤのお肌がびっしり生えた細かい毛で覆われている。
シンフィールド「!おい、コレ!」
最後の敵の忍者が切り倒される。それと同時に魔女達が私に起こった異変に気がついた。
ドルガ「やっぱりな、普通の人間じゃないとはわかっていたが……」
ノワール「なんなのコレ?!」
ドルガ「黒いの、頭の中で声がしたな。」
私はハッとして、固まった。
ドルガ「お前は“神降ろしの巫女”だ。」
神降ろし?
マリアッチ「なんですかソレ?」
シンフィールド「いや、お前は知ってろよ。授業であっただろ?」
ドルガ「たまに人間にいるんだ、コトダマから神を降ろして自分の力にするやつが。」
ノワール「ソレが私なの?」
真っ黒のページから禍津神のクリオが。
そして、今回はアヌビスの仮面から本当のアヌビスを神降ろししたっていうの?
コレじゃ
ノワール「コレじゃ、人として生活できないじゃない!」
ドルガ「諦めろよ。」
シンフィールド「お前はこっち側なんだよ。」
マリアッチ「ノワール様!なら大歓迎です!」
情気するマリアッチの肩を揺さぶる。いやいや、コレはプレイの一環ではない、目を閉じるな。
ノワール「どうやったらもとに戻るの?」
ドルガ「?顔を変えたいのか?」
もとに戻る?
ドルガ「顔を人に戻すだけだが、他の神を上書きすればいい。」
思考停止して肩を落とす私にアルゲンが歩み寄る。
アルゲン「とりあえず、屋敷に戻りましょう。」
尻尾を巻くように大臣達も帰り、元の静けさを取り戻した屋敷に私は人目を避けて帰ってきた。
当然、マリアッチや他の魔女たちと共に、地下の隠し部屋に入る。
幽世から戻ってきた魔獣は私の匂いお覚えているのか、顔が変わっていても、喉を鳴らして甘えてくる。
大きいので猫のより、低くて大きな音だが。
ノワール『メイド達はこうはいかないでしょうね。』
魔獣の大きな頭を撫でながら私は思った。
ヴァイスは?
彼は今の私を見てどう思うのだろう?
そう思ったら居てもたっても居られずに彼を隠し部屋に呼んでこさせた。
ヴァイスは私を見るなり魔獣をかき分けて抱きしめてくれた。
ヴァイス「アルゲンたちから聞いたよ。一緒にもとに戻す方法を探そう。」
よかった、この人はちゃんと味方で居てくれる。
クリオに取り憑かれた時のように他の子分どもが逃げ出す中、彼は私を見捨てて逃げたりはしなかった。
今回もそう。
安心した私は濡れる鼻先を彼の胸に押し当てた。




