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クエストランド エンハンブルク

雪のちらつくエンハンブルクの王都を出てソリタニアへと至る街道があるミラーフ領を目指す。箱車の中は比較的暖かいが外は風がある。


御者をしているルーカーの震えが後頭部の振動になってあまり深く座れないが、ヴァイス的にはそれが心地よく感じるのか眠ってしまっている。


マリアッチ「街道?東に位置するダシマ領からイスラに入れるじゃないですか?」


ノワール「宿場町がどういう作りか見ときたいのよ。」


イスキア「イスラにも将来的に街道を通す予定ですしね。」


マリアッチ「あー、そういうことか。」


おかっぱになった私のとなりには疲れて眠っている、もうデスマスクの要らない白髪のイケメン。

その向かいには赤毛のアンパン狂いのくノ一と丸眼鏡の巨乳の魔女が座っている。


イスキア「魔女の襲撃ですかー、また、大ごとになりましたねー?」


ノワール「そのおかげで、今回の婚約の話が流れたんだから、いいんじゃない?」


私はスースーする首の後ろを気にしてナデナデしていた。イスキアに少し整えてもらったがやはり長年、あまり短く切ったことがなかったので気になるし、寒い。


ノワール「マフラーがいるわねー。ソリタニアに入ったら買いに行こうかしらね?」


舞踏会が魔女に襲撃され王族、貴族が複数名行方不明になった。そのことについての詳しい内容を書いた号外をイスキアが読んでいた。


ゴトゴト……


マリアッチ「おっとっと。」


マリアッチもその記事をのぞき込んでいたが、石畳の道に出たのか馬車はゴトゴト揺れ始めた。

新聞の細かい字を読むどころではなくなって、ヒビの入った大きな丸眼鏡をこちらに向けてきた。


マリアッチ「そう言えば、ノワール様?依頼されてたゴーレムや魔導生物はどうしますか?」


あぁ、あれかぁ。


婚約をうやむやに、それどころではなくすためにエンハンブルクの各地に放つ予定だった奴等のことを私は思い出した。


ノワール「そうね?予定通り、エンハンブルクに放ちましょう。」


イスキア「また、国際問題になりませんか?」


ノワール「大丈夫でしょ?幽世かくりよ経由で送り込むんだし。」


水面、湖面などの“〜面”とつく場所、顔のように見えるシミ(モンヨウ=門妖)、常に闇の深い洞窟などは幽世の出口になる。


無職の魔女マリアッチの持っていた魔女の知識に触れられたのは大きい。


ノワール「今後、武器も売り出す予定なんだからいいのよ、使う場所ができて。」


イスキア「なるほど〜。さすが姫様、どす黒い!」


ノワール「ちょっとアナタ、褒めてるの?それ?」


マリアッチ「わかりましたー。イスラの屋敷に帰ったらあの子たちには予定通りエンハンブルクに行ってもらいます!」


馬車は街道を進んでエンハンブルクとソリタニアの国境を目指した。




ソリタニア マンテス領、宿場町ベンダ


ガヤガヤ


北西から南東に伸びる街道沿いに作られた宿場町ベンダ。


この街は緯度的に過ごしやすく、エンハンブルクからの行商人や旅をする冒険家たち、それらを相手に商売する者たちとたくさんの人で賑わっていた。


ノワール「私、街を見て回りたいから、2時間ほど自由行動にしましょう?」


イスキア「それじゃ私は食べ歩きでもしようかな?」


マリアッチ「わ、私も!食べ歩き、ご一緒してもいいですか?」


ぴょんこ、ぴょんこ


……その胸はブルンブルンでは?


イスキア「いいですよ!一緒に行きましょう!」


マリアッチ「ノワール様、お小遣い!お小遣い!」


クスッ


ノワール「まったく、二人ともはしゃいじゃって、はい。」


まとまったお金を渡すと2人の女子はいい匂いのする方へと仲良く駆けていった。


ヴァイス「ふわー、よく寝た。僕はノワールとかな?」


ルーカー「じゃ、俺は昼寝でもしとくかなぁ?」


いつものごとくルーカーは溶けた雪の水滴を手で払うと箱車の屋根で寝転がった。

私は子分のヴァイスを引き連れて宿場町の散策に出発した。


ヴァイス「どこも宿屋が大きいね?」


ノワール「馬車の駐車スペースも広い、宿場町ってこういうものなのね。」


私は宿場町の真ん中を街道に対して垂直に通る商店街に入った。

そこは野菜などの食品や服飾品、果ては武器屋、道具屋が立ち並んでいた。


行商の馬車の行き交う広い街道とは逆にこちら歩きづらいほどたくさんの人があふれていた。


ヴァイス「なるほど、あえて狭くして賑わってるように見せてるんだね。」


ノワール「ふーん、人がまばらよりギュウギュウしてたほうがいいのかぁ。」


その人混みの中を進む。


ギュ


ヴァイスがおもむろに私の手をとる。はぐれないようにとの配慮だろうが、なんだか恥ずかしい。


ノワール『結構、大きいのねヴァイスの手って……』


商店街に入っている店の種類を調べながら、スースーする首を左手で撫でていると私はマフラーの事を思い出した。

ちょうど目に服屋の看板が飛び込んでくる。


ノワール「あ、服屋。ヴァイス、私、あそこに入りたい。」


グイ


ヴァイス「わわ!ノワール!行くよ、行くよ!」




私は店内に入ると、ディスプレイされたマネキンにしてある赤い生地に白で幾何学模様のマフラーに一目ぼれした。


ノワール「店主、これはオイクラ?」


店主「これはお目が高い、それは希少なラクダの毛で編んだ一品でして、お値段は○○万円でございます。」


あ、足りない。


私はエンハンブルクでの買い物や今さっきイスキア達に渡したお金のことを思い出した。もうすでにかなりの額の散財をしている。


しかし、欲しい。


ヴァイス「店主さん、これは後払いが利くかい?」


店主「ええ。もちろんです。」


言い出せぬまま、私がまごまごしているとヴァイスが自分の名前を持ち出して小切手を書き始めた。

店主も小切手に書かれた公爵家の名前を見た途端に鼻の下を伸ばしている。


ノワール『マルフィールの名前も伊達じゃないわね。』


ヴァイス「はい、これ。」(ビリッ)


店主「確かに、頂戴いたしました!マルフィール様!」


丁寧に畳まれた商品を紙袋で受け取ると私はヴァイスにお礼を言った。


ノワール「ありがと!」


ヴァイス「どういたしまして!」(ニコッ)


ドキッ


あ、ヴァイスってこんな顔でいつも笑ってたのね?


屈託のない可愛い顔だ。まるで、子犬のよう。


…………いじめがいがありそうだ。


彼が笑う顔を最後に見たのは随分、小さい時分だ。その後はずっとサイズの合わない不格好なデスマスクの下に覆われて、ホントに久しぶりに見た気がする。


ノワール『お互い、失ったものは大きいけれど、得られたものもあったのね。』(ヴァイスはお○りのシ○ジョ、私は髪の毛、そしてクリオ。)


ヴァイス「?どうしたの?」


ノワール「ううん?行きましょう。」


私は未だに気になるウナジを気にしながら店を出た。




イスラの屋敷に戻り、さっそく地下の隠し部屋の魔導生物を起動させた。


「うごご……」


ノワール「今度のはバグらないわよね?」


マリアッチ「知り合いに命令コード見てもらってるので大丈夫です!」


隠し部屋の左右の壁一面に張られた鏡に魔導生物たちは入っていく。

今からエンハンブルクで起こる禍事まがごと、凶事の事を考えると顔のニヤニヤが止まらない。


ノワール『私に恥をかかせた報い。じっくりと味わうがいい。』(ニチャァ)




それと同時並行で鉄器の改良も進み、本格的に武器の製造がスタートする。


もう、高熱で腐った肉が削げ落ち、ほぼほぼスケルトンな屍兵達がタタラのフイゴを踏み、赤く焼けた鉄を金槌で叩いている。


へパ•ホムンクルス「プログラミングはこっちで書き換えた。あの刀剣達も参考になった。後は売り場だねぇ。」


ノワール「そこは心配いらないわ?地元の武器屋に卸すし、サメンフントのところにも流通させるつもりだから。」


へパ•ホムンクルス「エンハンブルクの裏社会は地獄と化すだろうね?」


ノワール「そうでなくっちゃ。」




エンハンブルク某所


「うわ、なんだこいつは!」


エンハンブルクの湖では舟ごと人を飲み込む大きな大蛇が。


洞窟にはそこに巣を作ったゴブリン達を守るゴーレムが。


鉱山や炭鉱にはよく切れる出所不明の鉄製の武器を持ったスケルトン、人を溶かすスライムが。


森の中には人を襲って食べるオオトカゲや毛むくじゃらのバケモノが。


各地に出現したそれらのモンスターの脅威に対抗するためモンスター達には賞金が掛けられ、それを求めて世界各地から冒険者が集まった。


ノワール「計画通り。」(ニタァ)


イスラ領ゲルブムントの町は格安で良質な武器が揃っており、宿場町並の機能があるということで、エンハンブルクに入る冒険者達の隠れた拠点となっていた。


サメンフントから供給される、麻薬で身を崩し風呂落ちした女性たちを土建屋の売春宿に回す。


ヴァイス「い、一応、ゲルブムントの治安維持はできてるのかな?」


私の自室の執務机を挟んで、ヴァイスと私はこれまでの経過をまとめた報告書に目を通す。

報告書から顔を上げたヴァイスは青ざめて苦笑いを浮かべている。


いいではないか。ソリタニアに被害は出ていない。


ノワール「性欲さえ発散させてやれば、どんな荒くれ者も大人しくなるのもよ。」


こうして、イスラ領の税収は一気に中堅クラスまで上り詰めた。

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