波乱の舞踏会
エンハンブルク首都
ノワール「いいな、これ。」(ポイ)
ルーカー「姫様ー!まだ、買うんすかー?!」(パシッ)
私の放り投げた鋼の剣をルーカーがキャッチする。もうどれだけこの動作を見ているのか、その度に店員から商品を壊さないか心配な声を漏らす。
武具屋で刀剣を漁る。
今後の鉄器開発のための資料として、鍛冶屋の魔女へパ、のホムンクルスの参考にしてもらうために。
ノワール『この店の全部買い占めたら、さすがに一ヶ月は乾パンになるかー。』
ルーカー『たしか工房は鉱山の近くだよな?』
(ドサ……)
レジカウンターには刀剣の山がすでに築かれている。誰がこれを山奥まで運ぶのだろう?今から不安になるルーカーであった……。
ノワール「ここまでだな、私は会計済ませる。ルーカーは店員と手分けして外の馬車にモノを運べ。」
ルーカー「うわぁ……」
店員「……無理せず行きましょう。」
ルーカー「ヒー、まだ半分残ってるぜ。」
店員「おっも。」
ノワール「休むな。」
私がルーカーと店員がチマチマ刀剣を馬車に運んでいるのを待っていると視界の隅で何かが光った。
ノワール「?」
そちらに目を向けると、一区画先の住宅街のT字路を丸い頑丈そうな箱車がいそいそと出発しているのが見えた。その窓には分厚いカーテンがされている。
ノワール「何だアレ?防寒対策か?」
刀剣を積み終わって自分の黒の箱車に乗り込む。
ノワール「いいぞ、ルーカー、だせ。」
ルーカー「へーい。」
私の向かいに護衛として乗っていたイスキアが変な質問をする。
イスキア「エンハンブルクに来てからのノワール様、なんか男っぽい。」
ノワール「そうか?」
あ、口調かな?
確かに、母と暮らしていたときもこうだったか。
周囲から女と舐められないよう、家を守るため、自分を守るため、男のように振る舞っていた。
ノワール『今もそうなのだろう。』
自分の意志を尊重してくれない、女を道具のように扱う、このイヤな婚約話に私は壁を作っている。
私は雪のちらついてきたエンハンブルクの町並みを箱車の窓から眺めた。
ノワール「なんとも、さみしい季節になった。」
イスキア「お気にのメイドさん。居ませんもんね。」
ノワール「……そういう事ではない。」(////)
舞踏会当日
私たちは予定通りに着いたつもりだったが、会場の駐車スペースは他の箱車で既にいっぱいだった。
ノワール「おや、この前、見かけたのがあるな……」
奥の方に丸い箱車を見つけた私はソレを指差して、近くにいたドアマンに尋ねた。
ノワール「おい、アレは誰のだ?」
ドアマン「どれでございましょうか?」
ノワール「あの質素な丸いやつだ。」
ドアマン「あー、それでしたら、今日の主役のカメテック伯のものでございます。」
ほう?
ノワール『私を下見に来たか。』
会場に入ると、すでにほとんどのものが集まっていたのか全員の視線がこちらに集まった。
「これはこれは、今日の主役のお出ましですぞ?」
「今日は漆黒ではなく、赤をお召しになられていらっしゃる。」
「コレコレ、アレは喪服ですぞ?父君は今年、急逝なさったとか。」
「いつも着ないドレスで着付けに時間がかかったのでしょう?」
「赤もお似合いですな。」
「まるで血のよう。」
「私、待ちくたびれましたわ。」
「ハハハ、ご気分は大丈夫ですか?」
ノワール「いっいえ、時間通りに来たつもりなのですが?」
しまった。
これは私に恥をかかせるために、わざと時間をずらしてたな?
ここまで手が込んでいたとは……。
ノワール『これは、こちらもやりがいがあるなぁ。』(ニチャ)
ゾワッ!
私の顔を見たのか会場は静まり返った。そうすると奥から体格のいい男が人をかき分けてやってきた。
カメテック伯「お待ちしておりました。私がカメテックです、オルクス伯。ソリタニアとエンハンブルクでは気候が違いますでしょう、体調はいかがですかな?」
ノワール「私のいるイスラは高度が高く、エンハンブルクとは大して変わりません。カメテック伯のプレサングはここより北にあるとか?」
カメテック伯「よくご存知だ。それではこちらへ。席を用意させてます。」
クリオ「デブ野郎の隣か?やだねぇ。」
宮廷楽団の演奏が始まる。集まった人々が部屋の端により中心に大きな空間が開く。軽やかな音楽に合わせて男女のペアが空間に出てダンスを始める。
ノワール『他の王族、貴族のお見合いも兼ねてるのか……』
クリオ「そりゃそうだろ。」
私の席の隣にはカメテック伯が小さな椅子にどっかりと腰を落として体ごとこちらに向いている。
この政略結婚に相手は乗り気のようだ。
カメテック伯「オルクス伯は寒いのは苦手ですか?」
ノワール「プレサングは1年の多くを雪に覆われているとか?私もアナタのように着込まないといけませんね?」
クリオ「脂肪をな?」
カメテック伯は苦笑いをして続けた。
カメテック伯「大丈夫です。暖房の予算は国が出してくれるんです。家の中でしたら一年中暖かいですから。」
ノワール「まぁ!それでしたら、運動器具を買いませんといけないですね!」
クリオ「ぐく、いわせておけば……!」
ノワール『クリオ、アテレコしなくていいぞ?』
クリオ「へへ!そうか?」
カメテック伯は顔を真っ赤にして震えている、今にもつかみかかってきそうだ。そうしてもらえると、こちらも今回の縁談を断りやすくなる。
カメテック伯「と、ところで。オルクス伯はエンハンブルクの観光はなさいましたか?きれいな街並みでしたでしょう?私のいる、プレサングも同じような作りなのです。」
ノワール「あら?そうなんですか?てっきりがっちり補強がされているのかと。」
クリオ「積雪量はそんなにないのかもな。」
カメテック伯「何か買い物でもされましたか?」
ノワール「はい、刀剣を少々。」
周りで聞き耳を立てていた王族、貴族がひそひそ話を始める。
カメテック伯「そう言う、男じみた趣味をお持ちでしたか、何かお気に召したものでも。」
ニヤニヤ
周りから気持ちの悪い視線が向けられる。
ノワール「剣の成分などを調べるんですよ。」
カメテック伯「ほお、何のために。」『…………。』
クリオ「国取り?」
ノワール「好奇心でございます。」
ハハハ
カメテック伯が笑い。周りからもクスクスと笑いが漏れる。
クリオ「ホントは鉄器を密造して売ろうとしてる、なんていえないわなぁ。」
ノワール『まぁ、笑わせておくさ。』
そこへ白髪の見知らぬ青年がダンスに誘ってきた。
白髪の青年「オルクス伯と一曲かまいませんか?」
カメテック伯「?どうぞ?」『あんなヤツ招待されてたか?』
ノワール『誰だ?』
立食コーナーに目をやると見知った丸眼鏡の巨乳が飛び込んできた。
頬袋でもあるのかというくらいに食事を詰め込んでコチラに手を降っている。
ノワール「マリアッチ?」
は!
ノワール「お前、どうしてここに!?」
私の目の前にいる青年は顔の整っているが、よく見ると少し顎のところにひきつれのような筋があった。
ワルツに合わせて2人の息の合ったダンスが始まる。
ヴァイス「オトモは必要だろ?」
見知らぬ土地、人の揚げ足を取ろうとしてくる見知らぬ人たちに囲まれて一人孤独に戦っていた私は彼の姿に安心感を覚えた。緊張してこわばっていた顔がほころぶ。
ヴァイス「ノワールでもそんな顔するんだね?」
ノワール「う、うるさい!怒るわよ!」
味方。私を守ってくれる後ろ盾。
そんな彼は急に緊張しだしてステップを間違い転びそうになる。ソレを支える私。
ヴァイス「ぼ、僕は、ずず、ずっと君のそばにいたい!」
ノワール「うん。変わらず私を支えてくれ。」
ヴァイス「そ、その、子分とか弟としてじゃなくて。」
ノワール「え?それってー」
その時、誰かの悲鳴とともに演奏が止まる。
「うわっ!」
「ほぷっ!」
周りの人間が次々と床に開いた穴に吸い込まれるように落ちていく。その場は騒然となる。
パニックを起こした夫人たちが気を失い、その場に倒れる。
その間にも男女関係なく、ランダムにまた1人、また1人と消えていく。
ヴァイス「これは?!」
ノワール「何なの?」
ガチャ
???「お代を頂戴しに来ましたー!」
突然、部屋に入ってきた女が高らかに言う。私も含めて何のことかわからない人々は唖然としていたが、マリアッチとヴァイスだけは違った。
ヴァイス「そんな?!タダじゃないの?!サディ!」
サディ「金は要らないって言ったんだ。お代は他で払ってもらうのさ。」
デコルテ部分が大きく開いたワイシャツ姿の魔女が言う。
サディに詰め寄るヴァイスの隣にクローサーも現れた。
クローサー「さぁ、私も紹介料をいただくとしよう。」
ヴァイス「!?」
驚いて固まるヴァイスの肩を持ったクローサーはヴァイスと共に姿を消した。
呆然とする私に急いで食べ終わったマリアッチが駆け寄る。
マリアッチ「あの2人に、お代として捕まった人は解体されてしまいます!ヴァイス様が!」
その言葉に私は奮い立った。
正直サディに捕まったエンハンブルクの奴らのことなんてどうでもいい。私の大事な子分。ヴァイスだけは返してもらう。
ノワール「紹介料とやらは別に用意してやるぞ!」




