第十七話 小さな魔王の襲来
第十七話です。
不審な少女と帰り道で出会った後、普通に帰宅した後。
同じくギルドから帰ってきていたナナと夕食を共にしていた。
基本的に食事はナナの料理してくれているものを食べており、調味料関係も一通り似通ったものが多いので特に不満もなく食事できている。
つーか、ナナの料理が普通に美味い。
一人暮らしをしているってこともあるが、単純に働いていたカフェの店長レベルには料理上手なのだ。
「ナナ、俺はこの家を出ようと思う」
「ナンデ?」
肉と野菜の炒め物とスープを食べ終え、一息ついたところでそう言葉にした俺に、ナナは不思議そうに首を傾げた。
「いや、お金はたくさんあるから、そろそろかなぁって……」
実際、一人で余裕で暮らせるだけのお金は確保できている。
あとはどこか部屋を借りれたらいいし、なによりいつまでもナナの世話になっているのも申し訳ない。
「いつまでもここにいたら迷わ——」
「迷惑じゃないよ?」
「俺、男だし」
「気にしてないよ?」
「いや、でも……」
「ユーマが気負う必要なんて、ないよ?」
え、えぇぇぇぇぇ……?
予想外の返答に大分困惑しているんですけど。
「世話になった分、お金はちゃんと渡すし……」
「お金なんかいらない。……ユーマは、ここを離れたいの?」
「うっ……」
どこか悲しそうな目で言われて呻く。
べ、別にそういうつもりはないけど、なんだか申し訳なくなってしまう。
「この家さ、一人暮らしするときにお父さんとお母さんが用意してくれたんだけど、一人じゃ広すぎるんだ。だから、ユーマがいてくれた方が賑やかで楽しいんだ」
「ナナ……」
たしかに一人で住むには広すぎる家だ。
というより一軒家だ。
そんな広い家の中で一人っきりというのも寂しいのだろう。
「私さ、強い自分が嫌い。正直、今でも嫌い」
「……」
「皆と同じ普通になりたいし、ユーマみたいに弱くなりたいってそう思ってた」
ぽつり、ぽつり、と語り出した彼女に俺は無言のまま聞き手に徹する。
「でも、ここで頑張る貴方の姿は不格好で、カッコ悪くて……」
「おい……?」
「それでも、必死で、カッコ良かったって思えたの」
お、おう?
カッコ悪いのは自覚していたけど、面と向かって言われると凹むからな?
「だからさ、私も全部とは言わずに自分を受け入れられたらいいなって……そう思うようになってきて……」
「……」
「あ、あははは! お、おかしいよね……私とユーマは全然違うのに……」
「偉い!!!!」
「あひっ!?」
勢いと共に立ち上がり、声を張り上げる。
彼女のその自分の問題に頑張って向き合おうとするその姿勢に素直に感動した!!
「おかしくなんてない……!! 見ている視線の高さは違えど、立っている位置は同じだ!」
「そ、そうかな……?」
「ああ、そうだ……!!」
「そうだったかも……!」
俺は最弱、ナナは最強。
抱えている悩みは同じだ。
俺も最初は自分の弱さを受け入れられず、強くなろうとしていた。
ナナも俺と同じように自身の強さを受け入れられなかったから、弱くなりたいと願っていた。
「俺と君の出会いはまさしく運命……!!」
「う、うううう、運命!?」
まさしくなんらかの意志によって引き寄せたとしか思えないくらいだ。
頬に手を当て、顔を真っ赤にさせる彼女に構わず俺は決意を現すように拳を硬く握りしめる。
「これからも一緒に頑張ろうな……!」
「う、うん……え、えへ、えへへ……」
家を出ていくなんて考えは捨てた。
お互いの立場を理解しているからこそ助け合えるのだ。
今まで気付けなかった事実に気付き、感銘を受けていると不意にこの家の扉がノックされる。
金具の、ゴン、ゴン、ゴン、という音にナナと俺は首を傾げる。
「誰かな?」
「こんな時間に今まで人が来たことないよな?」
「うん……」
なんだか心配なので、ナナについていき扉まで行く。
まあ、ナナがいれば基本的に誰が来ても大丈夫なのだが。
「どなたですかー?」
「ようやく出たな!! この私を待たせるな!!」
扉を開けると、そこには一人のフードを少女がいた。
ん? この子、昼間に見かけた子だよな?
少女はフードを被ったまま、勝気な瞳でナナを見上げる。
「ここで一番強いのはお前だな!!」
「!!?」
「隠しても無駄だよ! 私の魔術でここで一番強い奴の場所は丸わかりなんだからね!!」
な、なにものなんだこの子……?
たしかにナナはこの世界基準でもやばいくらいにバグッている存在だ。
ナナは、それを隠しているのに……もしや、ただものではない……?
「ふふん、驚きのあまり声も出ないか。……ぁえ?」
見事なドヤ顔を浮かべた少女だが硬直するナナの後ろにいる俺を見つけ、呆けた声を漏らした。
そのままナナと俺を交互に見たその子は、震えた指を俺へと向ける。
「ああああ——!? お前ぇ——!?」
「俺?」
「お、おおお、お前だったのかァ——!? 一番強い奴は、この女じゃなくてお前かッ!!」
こっちから騙すのはいいけど、勝手に勘違いするのはやめろ。
いや待て、ナナは自分が強すぎることを隠したがっているから、ここは唯一彼女の事情を知る俺がフォローしてやらなければ……!!
「ナナ、ちょっとどいてもらってもいいかな」
「ぁ、はい……」
さりげなくナナの代わりに前に出て話をする。
そもそもこの小娘はどうしてここに来た?
「お父さんとお母さんはどうした?」
「……は?」
「こんな時間に一人で出歩いちゃ駄目だろ。親御さんが心配する前に帰りな」
とりあえずまだ悪戯の範疇かもしれないので優しく諭してみる。
すると、ぷるぷると肩を震わせた少女が勢いに任せて、頭のフードを外す。
「私に気付かれず背後に立つわ、追跡を軽く撒くわ、よりにもよって子供扱いとは……! この“魔王”を相手に随分と余裕だな、人間……!!」
「えっ、角?」
少女の頭に生えていたのはねじり曲がった角。
白に近いクリーム色の癖の目立つ髪と、目じりに涙を浮かべた少女は俺を睨みつけてくる。
「ここに来たのは、宣戦布告のためだ……!!」
「宣戦布告?」
「明日の正午、この私、魔王ロゥリが統べる魔王軍がこの都市を攻め入ってやる!!」
「はぁ……」
何言ってんだこいつ。
どこまで本気か分からないのでいまいちリアクションが取れない。
もしかして本当のことなのだろうか?
宣戦布告よりも、この子の角の方が気になるんだけど……。
「えーと、ロリ?」
「ロゥリだよっ!? 名前間違えんな!」
今、素が出たな。
普通に間違ってしまったので素直に謝っておく。
「ああ、ごめん。えぇと、今日のところは帰ってもらってもいいか?」
「……お前、信じてないな!? ほ、本当なんだぞ! 滅茶苦茶にしてやるんだぞ!!」
今の時点では冗談にしか思えないし……。
すると、ぐぬぬと呻いたロゥリは、気を取り直すように余裕の笑みを浮かべる。
「まっ、どうせ明日になれば分かる!! お前らの絶望する顔が目に浮かぶわ!! あーはっはっはっ!!」
高笑いを上げながら、その場を離れていく。
……。
「一人で帰るのが不安なら送っていくけど……」
「しなくていいよ! お前本当に許さないからな!?」
べーっ、と舌を出して走り去っていくロゥリ。
その様子にため息を零した俺は、両手で扉を閉めてナナへと振り返る。
「なんだったんだろうか……?」
「分かんないけど……ありがと、ユーマ」
礼には及ばない。
なにせ、同じ悩みを共有する同志だからな。
独り立ちしようとする主人公を全力で引き留めようとするヒロインでした。
そして、魔王ロゥリの侵略とは……。
次回の更新は本日中を予定しております。




