第十六話 順応と、新たなる波乱
本日二話目の更新となります。
第十六話です。
意識を変えてから俺の生活は激変した。
常に周囲の死の恐怖に怯えていた自分を変え、常に視野を広く持つようになった。
周りの人々はただ強いだけ、そう思うようにしただけで、俺とはなんの変わりのない人間だと考え、接するようにしたのだ。
『ナナ、今日も可愛いな!』
『え、ええ!? や、やめてよお世辞なんてもぉー!』
最初にした訓練は、恐怖に身体を慣れさせるためのもの。
ナナをべた褒めし、繰り出される照れ隠しアタックをその身で受け、時には即死無効で無効化しながら死に対する精神的な耐性を鍛えた。
事前に、ナナにそういう訓練だと伝えて了承をもらっているわけだが……。
『今日は褒めてくれないの? ねえ? ねえ?』
なんか最近、別の意味で怖くなってきたのはどうしてだろうか。
死の恐怖とは別の恐怖を抱きそうになったような気もしなくもない気もしないが、とりあえずは気にしないでおこう。
『グルァァァ!!』
『ワォォォン!!』
次に行ったのは平常心でいることの訓練だ。
それを用いたのは、俺がものすごく心配された危険地帯。凶暴な魔物が跋扈しているその場所を、ひたすらに歩き回り、平常心でいることを務めた。
中には、ティラノサウルスじみたドラゴンと、巨大な狼がこの世の終わりみたいなバトルを繰り広げている場面に出くわした時があった。
『平常心……俺は透明人間……誰も、俺を見向きもしない……』
今にもみじめに叫んで逃げ出したい衝動に駆られながらも、その横を歩いて通り過ぎる。
その後も何度も道ですれ違う感覚で、そいつらとも遭遇したが気にも留められなかったので、俺の弱さ故の無関心という仮説にも説得力が伴った。
次は訓練ではなく、この世界での身の振り方についてだが――、
『これをお納めくださぁぁぁい!!』
『クァ』
長いものには巻かれろ。
もしくは逆らうな、の心情で俺は大きな赤い鳥、レッドファルザーに果物をお納めした。
果物が気に入ってもらえるかは賭けであったけれど、なんとか受け取ってもらえた俺は、その代わりにグラミアルフラワーを一つ摘ませてもらった。
ここで重要なのは一つだけということだ。
『あぁりがとうございまぁぁす!!』
謙虚に、欲張らず。
敬意と礼を忘れずに行動していく。
あくまでこれは、俺の能力を試作する一環でしかない。
「グラミアルフラワーの納品を確認しました。いやぁ、やっぱり流石ですね。ユーマさん!」
一輪だけ摘み取った花を納品し、報酬を受け取る。
俺の働きぶりに受付さんは尊敬の眼差しを向けてくる。
「偶然、この依頼だけが向いているだけですよ。あぁ、他の採集依頼とかはありますか? ランクが低くても全然構わないので」
「えぇーと、あ、申し訳ありません。今日のところはありませんね。……他の依頼を受けてみますか?」
他の依頼をやるのは無理だ。
嫌そうな顔を表に出さずにあくまでにこやかに応対する。
「ははは、戦うのってあまり好きじゃないので、遠慮しておきます」
「そうですか……残念」
「機会があればその時にお願いします」
軽く言葉を交わした後に、受付から離れ歩き出す。
すると、入り口付近に腰に剣を装備したいかつい風貌の男が声をかけてくる。
「おお、ユーマ。また危険地帯に行ってきたんだってなぁ」
「ヴァッシュさん。依頼帰りですか?」
「いんや、これからさ」
ナナと出会った直後に遭遇した冒険者のヴァッシュさんだ。
彼は俺の言葉に肩を竦めて、首を横に振る。
「といってもオールタウロスの角を刈り取ってくるだけだがな。お前と比べりゃ全然大したことねぇよ」
「卑屈になんないでくださいよ。反応しにくいじゃないですか」
「はっはっは、冗談だ。気を悪くすんなよ」
時折、こういう面倒な冗談を言ってくるので真に受けないで答えるのが正解だ。
「強いやつは大いに歓迎だ。なにせ、うちの評判も上がるし、なにより俺らも楽できるしな!」
「そう言われると、働きたくなくなってしまいますけど?」
「そりゃ、いけねぇ! なんか奢るか!」
そしてこの世界の認識的に強いことが凄いと思われるよりも、難しい仕事をこなしてくれて凄い、という認識の方が凄いらしい。
なので、俺の実力そのものはそれほど気にされていないというのが、ある意味で好都合とも言えた。
「ははは、冗談ですよ」
「だろうな! ……じゃ、俺はそろそろ依頼に向かうとするか」
「頑張ってくださいね」
おうよ、と威勢よく返事をした彼はそのまま俺から離れていく。
周りに気付かれないように軽いため息を零した俺は、彼に続くようにギルドの外を歩いていく。
本当は、ギルドに通う必要はないのだ。
先日、三千万SLという大金を手に入れたことから、既に今後生活する資金は有り余っている。
なぜ、未だギルドに通っているかというと……。
「……まずはこの世界に馴染んで行かなくては……」
まずは知り合いを増やして、元の世界に帰るための手立てを探していかねばならない。
そのためにまずは人の集まるギルドで人脈を増やす。
「近道して帰るか」
特になんの考えもなしに路地へと入る。
道行く人と肩をぶつけないように一通りの道は覚えているので、すぐに家へと戻れるだろう。
……なんか、やけに人が多いな。
『手筈はどうだ?』
『順調だ。街の戦力の大体は把握した』
同じような黒づくめの人たちと何度かすれ違う。
『人払いの術式もかけたか?』
『ああ、ここにはネズミ一匹も通れないさ』
これまでにあまり見なかった人たちだが、まあ、別に俺に気付いてないようだしこのまま進んで行っちゃおう。
「しかし、そろそろ俺も部屋を借りないとな……」
ナナの家にいつまでもお世話になるわけにはいかない。
今日あたり、相談してみようかなと考えながら飲食店の積み荷などが置かれた路地を進んでいくと大通りが見えてくる。
「うぷ、うくく……」
「……ん?」
なにやら路地の木箱の影から通りを見ている少女の姿が見える。
フードを被った少女は、通りを歩く人々を見ながら非常に怪しい様子で笑みを堪えている。
「くーふっふっふ、見える見える、アホ面を晒して無駄な日常を生きる人間共め。そうしていられるのも今だけだぞぉ」
「……」
……なんかすっげぇ危ないやつがいるな。
でも、隠れている木箱の一番上にある空のガラス瓶が入っているそれが落ちそうになっているのを見て、どうしようかと悩む。
……。
「おい、木箱が落ちてくっからあぶねーぞ」
「ッッ!?」
なんだかんだで見過ごすと後味が悪いので、忠告はしておく。
俺の後ろからの声に、飛び上がるように驚いた少女は、驚きのままに俺へと振り返った。
「な、だ、だだ誰だぁ!! この私の背後を取るとはお前、ただものではないな!!」
「あー、はいはい。そういう感じね……」
ごっこ遊びかなにかでもしているのか?
背丈的に十代前半くらいに見えるが、そういう遊びは卒業していないようだ。
「ここらで、怪しい黒づくめのやつらとすれ違ったぞ? 危ないから、別の場所に行きな」
「あ、あいつら何してる!? なんでこいつを通したんだ!?」
「……知り合いなのか?」
「はう!?」
保護者かなにか?
それとも、お偉いさんの令嬢だったりする?
あの黒づくめ達はボディガード的なアレで。
「ま、魔力感知にも引っかかってない!? いや、そもそも人払いの術はどうした!?」
魔力感知ぃ? 人払い?
なんだそれ、そんな技術があるのか?
「俺ほどになれば、んなもん意味ないぞ」
「なんで!?」
魔力すらもゴミ過ぎて感知に引っかからないだろうしな。
いいリアクションを返してくれるフードを被った少女であるが、あまりそれに付き合う体力もないので、早く帰りたい。
「な、何者だ! お前」
「名乗るほどのものでもない。じゃ、気をつけろよ」
「え、あ、いや、ちょっと待ってぇ!?」
でかい声で呼び止められ、面倒くさくなりながら振り返る。
「なんだよ」
「いや、なにかしにきたわけじゃないの!?」
「……? 別になにも? ただ帰り道に君がいただけだったし。俺、君のこと全然知らないし」
「え、ええええ!?」
驚く少女を無視してそのまま通りへと出る。
まったく、この街が治安が悪いというわけではないが、たまに変わった人が現れるんだよな。
まあ、大抵悪い人ではないから気にするほどでもないんだけれど。
魔術的な結界も素通りオッケーされちゃう主人公。
ミジンコ魔力が本人の預かりしらないところで活躍してしまっている……。
本日の更新は以上となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




