第十五話 自分の弱さを認める時
第十五話です。
どうやら俺が受けた依頼は、書類の不備により誤った難易度のものだったらしい。
いや、誤ったというより時期により難易度が変わる特殊な依頼だったというべきか。
本来は俺が行った森はそこまで危険な場所ではないらしいし、今の期間だけとてつもなく強力な魔物が集まっているというだけだった。
「ゆ、ゆゆゆユーマ! 心配したんだよー!」
俺が危険地帯に行ったことを心配していたナナに猛烈な勢いでハグされそうになり、割と本気で死を覚悟したというくだりはあったものの、俺はなんとかギルドの中に入ることができた。
「ナナ、心配かけたな」
俺がクソ雑魚だと知っているナナからしてみれば身も凍るような事態だったはず。
彼女が心配してくれたことをありがたく思いながらも、俺は持ち帰った花と羽根を鑑定しているギルド長へと視線を向ける。
周りでは、遠巻きに冒険者たちがどこか浮足立ったようにこちらを伺っているが、それは今はスルーしておこう。
「……どうやら、私はまだまだ君を見縊っていたようだ」
「い、いえ、本当に大したことはしてないんです。ただ花を摘んできただけで……」
「グラミアルフラワーは、本来一輪しか咲くことのない花なんだ」
は? でも花めっちゃ咲いてましたけど。
「昼夜を問わず、自然に限りなく近い光を当てなくては開花することのない特殊な花。これが咲く地域には、レッドファルザー……君が持ち帰った羽根の持ち主の力がなくては不可能なんだよ」
「へー、あの鳥が……」
「しかし、レッドファルザーは気性こそ穏やかだが、縄張り意識が強く。その力も絶大だ。ましてや、羽根をこんなに綺麗な状態で持ち帰るなんて……」
「え、羽根も珍しいんですか?」
「それはそうさ!」
がたり、と立ち上がったギルド長が鼻息を荒くして身を乗り出す。
ものすごい探求心に溢れた彼女に引きつつ、話に耳を傾ける。
「レッドファルザーの羽根は、普通に抜ければ色を失い焦げた黒色へと変化してしまうんだ! そんなものは、もうそこらへんにある!! でも、彼の鳥が自らの意思で羽根を抜いた場合は、その赤き色は失われないんだ!」
「そ、そうなんですか……」
思ったよりすごいのをポンと渡してくれるなあの赤い鳥さん。
「じゃあ、お金に変えてください」
「いやいやいや!? ギルドとしては大歓迎だけど、君はいいのかい!?」
「俺が持っていてもしょうがないので、その花と一緒に」
ぶっちゃけ俺が持っていてもしょうがないからな。
むしろお金に変えたほうがずっといいだろ。
「いや、この羽根は君のものだ。今回、不手際で君を危険地帯に向かわせてしまった責任は我々にある。そのお詫びとしてこの特殊素材を装具に加工してみるのはどうかな? 勿論、SLは全てこちらが出す」
「装具……? ナナ、装具ってなんだ?」
ナナに訊いてみると、彼女はすぐに答えてくれる。
「魔物の素材を用いて作る装備のことだよ。強い魔物ほど加工が難しいらしいけど……」
「その通りだ。費用も何もかもをこちらで負担しよう。私が知る最も腕のいい技師に君のための装具を作らせたい……どうだろうか?」
な、なんかいやに信頼されてしまったな。
まあ、すごく珍しい素材だって聞くし、俺専用って考えると男の子としては欲しいと思えてしまう。
「じゃ、じゃあ、お願いします」
「ではどのような形がいいだろうか? 羽根となると、剣などは難しいが……」
どうせ武器持っても意味がないから、身に纏えるものがいいな。
この羽根、めっちゃ軽いしローブとかマントみたいな感じでお願いしよう。
「着れるものでお願いします。あと、できるだけ軽いもので」
「動きやすさ重視か。ん、了解した。今日中にでも頼むから、期待していてくれ」
ものすごく贔屓にしてくれるじゃん……。
どれだけこの人の中で俺は評価されてるの……?
「では次だ。グラミアルフラワーの納品についての報酬と、それに加えて余分に君が持ってきてくれたものの換金を合わせると……」
眼鏡をかけ、諸々の計算を行ったギルド長は、その報酬+換金額が記された紙を俺へと見せてきた。
「合わせて3000万SLだ」
「「ぇ?」」
とんでもない報酬に俺とナナの目が点になった。
●
テーブルの上に置かれためいいっぱいにメダルが詰め込まれた袋が三つ。
一袋、約1000万SLが詰め込まれたものが3つ揃っている光景に、未だに現実感が湧かないまま、俺と同じように困惑した顔をしているナナは呆然と言葉を零す。
「花を摘みとるだけでこんなにするなんて、すごいね……この時期じゃなくちゃ駄目ってことらしいけど」
他の時期だったらもっと換金額は低かったらしいけど、今の時期は危険度に加えて、花が大きく、その花を扱う職人にとっては幻どころのものではないらしいので、高値で取引されるらしい。
「私じゃこうはいかないと思う」
「ナナなら楽々取れるんじゃないのかな?」
「ううん。私、絶対レッドファルザーに襲い掛かられるから、戦ってる間に花が潰れちゃうと思う」
縄張り争いの相手に認定されちゃうのか……。
強すぎるのも困ったもんだな……。
「ナナ、俺は理解した」
「なにを? ユーマ?」
今日までの体験を経て、俺は認めなくてはならない。
俺は、元の世界で振りかざしてきた“強さ”と“傲慢さ”はなんの意味もないことを。
「俺の弱いって個性は、必ずしもマイナスじゃない」
「どういうこと?」
「俺は弱すぎて見向きもされないし、もっと言えば見向きされても路傍の石ころと同じように無視される。……つまり、それくらい弱い存在だ」
人間ならばそのあまりの弱さに、認識すら遅れてしまう。
だが、ギルドの彼らは俺がグラエスドラゴンを倒したという前提があったから、自分の実力を完全に隠せるほどの実力者だと勘違いさせてしまっている。
魔物なら、そもそも俺の存在にすら気付かないし、気づいたとしても歯牙にかけない。
弱すぎるから栄養にもならず、捕食の対象にもならず興味も抱かれないからだ。
「最弱なら最弱のままでいいじゃないか。強くなる必要なんかないじゃないか」
「なんかすごい悟った顔してる……?」
もう強さだけじゃ、どうにもならねぇ。
俺は弱い。
弱すぎて、逆にそれが強みになってしまうほどに弱い。
「だからな、ナナ」
ならば、どうするか?
その弱さのまま成長し、磨いていくしかない。
弱くてもいいんだ。
まずは自分の弱さを受け止めよう。
「ハッタリと姑息さを学ぼうと思うんだ」
「……うん?」
「俺は、俺の最弱を武器にするよ」
「いや、ちょっと待って? 言葉はかっこいいけど、なんか違う。違うよね?」
お金は溜まったがギルドの依頼を続けていく。
現状では、元の世界に帰る方法が分からないし、それを調べる術もなにもないからだ。
それなら、ギルドで人と関わり、この世界での俺だけの処世術を身に着けていくしかない。
「もう俺は強さにこだわらなくていいんだ。ああ、心が軽くなった気分だぜ……!!」
「なんだか私も泣きそうな気分になってきたんですけど……」
なぜかナナに目を背けられてしまう。
俺は、ここでようやくこの世界での自分の生き方を決められたような気がした。
元の世界での自尊心は跡形もなくなった主人公でした。
次回の更新は本日中に行う予定です。




