第十八話 赤き衣を纏う最弱
本日二話目の更新となります。
第十八話です。
いきなり家を訪ねてきた少女ロゥリに宣戦布告された翌日の朝。
いつも通りに起きて、支度をした後にギルドへ向かうべく家を出た俺とナナは、街がやけに慌ただしいことに気付いた。
「なんか騒がしいな」
「そうだね。なにかあったのかな?」
すれ違う人が皆、あわただしく動いておりまるでお祭りの前のような騒がしさを見せている。
ナナも知らないようだし、本当に何かあったのか?
人ごみを避けつつギルドへと到着すると、既にギルドには多くの冒険者が集まっており、その先頭には当然のようにギルド長がいた。
「ああ、ユーマ君、ナナ、今君達を呼ぼうと思っていたんだ!!」
「なにかあったんですか?」
「なにかあったもなにも知らないのかい!?」
……?
首を傾げる俺とナナに、ギルド長がやや呆れたため息を零されてしまう。
「昨夜、私と都の責任者の元に黒づくめの集団がやってきて宣戦布告をされたんだ!」
「……それってもしかして魔王軍って名乗ってませんでしたか?」
「知っていたのかい!? なら話は早い!!」
「……もしかして今日の騒ぎも……?」
「ああ……!」
するとギルド長は、俺とナナを建物の二階へと連れていくと、窓の外の景色を見せてくる。
見えるのは都市の外にある森。
その先の平原地帯になにか黒い点のようなものが見えるけど……全然見えないんだが。
「な、なんですかアレ!?」
「あれが原因だ……!! クソ、魔王軍と名乗る奴らは、とんでもない兵器を持ちだしたようだ……!!」
「……」
やべぇ、俺だけ視力が並だから見えてねぇよ。
「これは、厄介だな」
「ああ、まさしく緊急事態ってわけさ」
なんとなく分かった体を装って頷いていると、ギルド長が真剣な様子で俺の肩を掴んでくる。
「王都に援軍を頼んだけれど、これじゃあ間に合わない! ナナ、隠しているようで悪いけれど、君の力を貸してくれ!!」
「……分かりました。あんなものがここを攻めてきたら、大惨事どころではありませんから……」
「!?」
ナナが自分の力を使うと決断するほど!?
いったい、何が来ているんだ!? 黒い点としか分かってないよ俺!?
「勿論、ユーマ君。君の力も不可欠だ。これからギルドの冒険者及び、都市の警備隊の人員をかき集めてあの巨大移動要塞の足止めをする!!」
「きょだい、いどうようさい……」
とんでもない奴が来てるじゃん。
断片的にしか情報が分かっていないうちに、とんとん拍子で状況が動いていく。
「……そうだ! こんな時で悪いけど、今朝出来たものを君に渡すよ!!」
すると、二階のギルド長の部屋から、彼女が紙で包装されたものを渡してくる。
「これは……?」
「開けてみて」
ものすごく軽いけど、なんだろうか。
とりあえず包装を解くと、中に入れられていたのは赤い布のようなもの。
それを手に持ち広げてみると、それは先日ギルドに加工してもらうように頼んだレッドファルザーの羽根から作られたフード付きのマントであった。
金色の刺繍があしらわれたソレは、材質、デザイン共に最高級と言っていいほどの代物だ。
「うわ、めっちゃ派手……」
「確かに渡したよ。すぐに出発するから君達も準備して!」
「あ、はい!」
ナナが返事すると、そのままギルド長は布にくるまれた棒のようなものを持って下の階に降りて行ってしまった。
「ナナ、いったいなにが見えたんだ? 俺には黒い点しか見えないんだけど」
「とにかくおっきい何か。今は静止しているけど、もうすぐ動き出すと思う」
「……俺、いなくてもいいんじゃね?」
「その方がいいかもしれないけど……」
恐らく、ギルド長はナナと俺の力を当てにしている。
ナナはともかくとして、俺は良い意味でも悪い意味でも悪目立ちしているので、いなくなればすぐにバレるだろう。
「とにかく、まずは相手の正体を突き止めるべきだ。ナナ」
マントを翻し、身に纏う。
ピタリ、とマグネットのようにマントが自動で着られたことに地味に驚きながら彼女に振り返る。
「もしもの時は、助けてくれ」
「大丈夫、私が護る」
ならば、これ以上に安心できることはない。
傍から見ると滅茶苦茶カッコ悪いやり取りではあるが、これが俺達の信頼の形でもあるのだ。
「……で、どうやって移動するの?」
「そりゃ、走って……って、あっ……」
待って、馬車とか使わないの?
走っていくの? 俺、無理だよ?
●
都市の周囲には森や湖などが存在しているが、都市の東側、森を超えた先には広大な平原が存在している。
木々もなくぽっかりと開けた平原には採集用の植物も多く、俺とナナも何度か依頼関係で来たことはある。
つまり、平原の場所は分かっているので、都市の入り口に集められた警備隊とギルドの面々が出発するのに合わせて、俺はナナに抱えてもらい、他の面々を遥かに超える速度で先に平原地帯へと向かうという手段に出た。
正直、目と鼻を塞ぎ、呼吸すらもしないように努めなければ吐いていたことだろう。
「ユーマ、大丈夫?」
「だ、だいじょ……おろろろろ!!?」
とてつもないGがかかり、失神しそうになったがそれでも必死に意識を繋ぎとめ、ものの十数秒で平原地帯にまで到着したのはいいものの、俺は到着すると同時に吐いてしまった。
「み、みっともない姿を見せてばっかりだな……」
「今更だよ。私も、ユーマに迷惑かけてるしお互い様」
本当にできている子だ。
持って来た水筒で口を漱ぎ、気分を一新させた俺は、口元を拭いながら平原地帯のど真ん中に鎮座している巨大ななにかの姿を視界に納める。
「亀、みたいだな」
「それに、大きい」
黒い四足の機械の要塞。
頭部に当たる部分はなく、地面に突き刺さった四つの足と、胴体には砲台のようなものが取り付けられている。
ただ移動するだけでも危なそうだが、あの砲台から全部動くとなると、惨事は免れないぞ。
「……やっぱり、来たの間違いだったな」
「うん……」
あんな機械の塊相手に俺のようなクソ雑魚が何ができるとは思えないんだが。
むしろ、足手まといになるまであるんだが。
これは適当な言い訳して、街の防衛に回っていた方が—-、
「既に到着していたか! さすがだな!!」
背後の森林から大勢のギルドの冒険者たちと警備隊の面々がやってくる。
やっべぇ、逃げらんねぇ。
ナナは速すぎだけど、他の面々も化物級に速すぎだろ。
「あのギルド長、俺は……」
「ああ、分かっているとも! アレは絶対に街へ入れてはならない!! ここで破壊するか、食い止めるぞ!!」
「いえ、ですから……」
もう見損なわれてもいいので今から都市に戻れないか話しかけようとすると、俺の肩に手がのせられる。
「まさか先に到着しているなんて……さすがね、ユーマ」
「リ、リリア……」
にやりと笑みを浮かべたリリアに頬を引き攣らせる。
また意味のないところで俺の評価が上がって行ってしまっている。
「フッ、やっぱお前さんだけは頭一つ抜き出てんな。今回の戦い、期待してるぜ!」
ヴァッシュさん、期待されても何もできねぇわ。
待って、いつの間にか俺が先頭に立つ形になってないこれ?
気づけば、俺の後ろにギルドの冒険者たちと警備隊の皆さんが並んでいるではないか……!?
『あれが噂の冒険者、イズハラ・ユーマか』
『威風堂々とした立ち姿に、真紅のマント。まるで物語で描かれている英雄のようだ……』
『さすがだぜ……!!』
『彼さえいれば、もう勝ったも同然ね』
こ、このマントのせいかぁぁぁぁぁ!?
得体のしれない信頼を得ている事実に震えるしかない!!
「ど、どどど、どうしよう……」
なんでこんな俺みたいな奴がこんな多大な信頼を寄せられているの……?
矢面に立たされ、絶対に逃げられない状況に立たされじゃんこれ!
『くーふっふっふ! よーやく現れたわね!!』
平原全体に響き渡るほどの声。
その音の出所があの移動要塞から聞こえてくる。
絶望の顔のままそちらを見上げると、要塞の上部に映像のようなものが映し出される。
『我が名は魔王! 今日この日から“世界”に戦いを挑む悪逆の群!! 魔王軍の王なり!!』
仰々しい玉座に腰かけ、揚々と宣言したフードを被った少女の姿。
その姿を目にした俺は、いよいよ昨夜の宣言が冗談でもない事実なのだと理解するのであった。
さらっと巨大兵器が出てくる世界観。
本日の更新はこれで終わりとなります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




