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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
161/165

真相

お待たせしました。

 火の手が上がる宮殿内を、脩璃しゅり陽明ようめいは勝手知ったる足取りで駆け抜けていた。逃げ惑う女官の一人を呼び止めると、彼女たちは怯えきった様子で地に伏した。

「命ばかりはお助けください……!」

「案ずるな、危害を加えるつもりはない。我らは桃氏とうし様をお救いに参った。桃氏様はどこにおいでか?」

 陽明が優しく手を差し伸べると、女官は涙を流しながら答えた。

「桃氏様は……陛下のご指示で既に避難されたと聞いております」

「では、陛下――麟脩清りん・しゅうせいはどこだ?」

「後宮にはいらっしゃらないはずです。あちらは既に火が回っておりますので……」

 脩璃は彼女たちを安全な通路へと逃がすと、陽明と視線を交わした。


「脩璃様、桃氏様はひとまず難を逃れたようですが……」

「ああ。問題は脩清兄上だ。これからどう動くか……」

 二人が思案したその時、曲がり角から一人の官吏が姿を現した。瞬時に身構える二人に対し、その男は静かに跪いた。

「麟脩璃様、そして晏陽明あん・ようめい殿ですね。私は陛下に仕える廷尉ていいと申す者。陛下がお二方をお待ちです。どうぞ、こちらへ」

 男は「桃氏様は既に瑯喜逸ろう・きいつ殿の元へお送りした」と告げると、宮城の聖域である「太極殿たいきょんでん」へと二人を誘った。


 ◇


 太極殿の中央には、初代皇帝が龍の祝福を受けたという伝説の「うてな」が鎮座している。その傍らに、炎の照り返しを浴びて脩清が立っていた。

「脩璃か。ようやく来たな」

 数年ぶりに見る兄の姿には、かつての弱々しさはなく、昏い情熱を秘めた威厳が宿っていた。

「脩清兄さん。あなたには問いたいことが山ほどある。……なぜ、父上を殺したんだ!」

「だろうな。……だがその前に、お前に見せたいものがある」

 脩清が懐から投げ寄越したのは、一冊の古びた本だった。表紙には、この時代の文字ではない、だが見覚えのある言葉が記されていた。

『自由と平等』――。

 ページをめくった脩璃は、息を呑んだ。

「これは……僕の前世の記憶と同じ……! 兄上、あなたも転生者なのか!?」

「いや、俺にそんな記憶はない。それは魏封ぎふうの祖先が残した遺物だ。奴は、そこに記された理想の世界を創るためにこの乱を引き起こした」

「ならばなぜ、兄上はあんな男に加担した!」

「六国は腐敗しきっていた。お前も知っての通りだ。父上と秀史兄上もその事実に気づき、魏封の企みを利用して国内を一掃しようと考えていたのだがな……」


 脩清が語る衝撃の事実。かつて脩璃が摘発した贋銀貨事件をもみ消したのは、他ならぬ父・秀邦であったという。それは、魏封を泳がせ、膿を出し切るための危険な賭けだったのだ。

「なぜ……父上はそこまで……」

 脩清が答えようとしたその時、天井から黒影が舞い降りた。

「その先は喋りすぎだぜ、お二人さん!」

 現れたのは、ずぶ濡れの黒装束をまとった脩奏しゅうそうであった。

「脩奏兄上! 無事だったのか!」

「ああ。だが龍爪りゅうそうも形無しだ。この大馬鹿野郎が父上の計画を魏封に漏らしやがったせいで、すべてが狂ったんだよ!」


 脩奏の怒声を受け、脩清は哀愁を帯びた笑みを浮かべた。

「漏らしたのではない、既に知られていたのだ。……脩璃、父上はお前たち兄弟を深く愛し、信頼していたのだぞ」


 秀邦は、兄弟それぞれの才能を見抜いていた。義の秀史、武の脩晟しゅうせい、才の脩奏、そして発想力の脩璃。なかでも一番の切れ者と目されたのが、病弱を装い、影の宰相として育てられた脩清だった。

 秀邦の計画は壮大だった。脩璃を鵬国へ送り込んで立て直し、各国と連携して鍾国の魏封を制圧。その混乱に乗じて麟国の汚職官僚を一掃し、脩璃たちが起草した「貧民救済令」を皮切りに、真に民のための政治を創る……。

 だが、その過程で脩清は『自由と平等』を読み耽ってしまった。

 封建社会の限界を感じ、皇帝という存在そのものが悪の根源であるという結論に達した彼は、父の「漸進的な改革」をまどろっこしく感じたのだ。

「古い体制を壊すには、一度すべてを焼き尽くす必要があった。……皇帝という位とともに、な」


 語り終えた脩清の顔は、憑き物が落ちたように清々しかった。彼は台から降り、脩璃の前へと歩み寄った。

「さあ、時間だ。脩璃、俺を殺せ」

 脩清は、父・秀邦から譲り受けた宝剣を逆手に持ち、その柄を脩璃へと差し出した。

次回の更新は7月28日(予定)です。

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