チートと『じふんのなまえ』
「やあ。 NKS-168番。君も実験台の1人なんだね」
それは、いつも通り『実験』に付き合わされた後に放置されている牢屋越しに現れたぱっと見たらまるで鏡を見ているかの様だった。
その青年は、僕とは違う服を着てる事以外は髪の色や目の色、体格や目の形(一重二重等)まで酷似している。
それは宛ら、自分の双子か……いや、ドッペルゲンガーを見ているかと感じた。
しかし、当時の僕はそう感じなかった(そもそも何にも感じてない)のだ。勿論、『話す』事も知らない僕は返す言葉が出せなかった。
数秒の間、彼は沈黙した。恐らく僕の返答を待っていたのだろう。
「あー、そうか。話すことは出来ないのか。
少し待ってろよ……それ!」
彼の指から何かの光が出て来る。
その光は眩しかったがしかし暖かく、僕を包み込んだ。
刹那、僕の『何か』が吹っ切れた感じがした。
例えるならそう、頭の中の鎖がバチンと切れた感じかな。
その時。
「……まぶしい……」
僕は記念すべき第一声をあげた。
その時、僕は初めて自分の声と感情、それに『考える事』を手に入れた。
彼はこちらの状況を把握し、『人でない』僕に贈り物をしてくれたのだ。
どうして初対面の人にこうも優しくしてくれるのか。その後少し疑問に思っていた。
「これでよし……。試しに何か話してみな!」
「ここは……何処……?」
精一杯考えて出した答えはこうだった。
声を出す事はまだ慣れず、掠れた声しか出なかった。しかしその声も目の前にいた彼とそっくり。
本当にドッペルゲンガーみたいだ。
「ちゃんと話せるみたいだな。 僕の正式名称は『KWE25』。だけどそんな型苦しい数字やアルファベットは嫌だからね、『河津エイタ』ってニックネームで呼んでくれ」
「わかった」
微笑みながら彼……否、エイタが名乗りをあげる。
「そうだ、君も『正式名称』じゃ型苦しくて嫌だろう? 折角だから僕がニックネームを付けてあげるよ」
「え?」
一瞬、僕はエイタが何を言っているのか分からなかった。
その頃、僕は自分の名前を知らなかった。 ましてや自分が『NKS-168』だとも知らされていなかった。
だから自分の名前と聞かれた時にその話が理解できなかった。
「『NKS-168』だから……そうだな、『鳴神ソウタ』なんてのはどうだろう?」
彼は少し考えた後、こう僕に伝えた。
それは『意志』や『言葉』よりもっと大切な、世界で1つしかないものだった。
『鳴神ソウタ』。僕はこの名前を誇りに思うよ。




