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チート能力をもらって異世界に行ったら、全員チート能力持ちだった件  作者: ぱん


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24 セシリア・グランベルの正体

 舞い上がった粉塵が、ゆっくりと街を覆い尽くしていく。崩壊した城と大樹の残骸。その周囲には、瓦礫に押し潰された建物がいくつも横たわり、逃げ遅れた人々が混乱の中を駆け回っていた。


「お、おい……城が……」


「領主様はどうなったんだ!?」


「騎士団長はどこにいる!?」


 街の人々も騎士たちも、目の前の惨状を前に呆然と立ち尽くしていた。やがて、粉塵の向こうから三つの人影が姿を現す。俺とリナ、そしてノノだ。


「……あれが、領主様と戦った連中か?」


「城が崩れたってのに、まだ生きてるぞ……」


 周囲から驚きの声が上がる。けれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。俺は瓦礫の向こうに浮かぶ赤髪の女を見据えた。


 セシリア。服には煤がつき、髪も乱れている。それでも、宙に浮かぶその姿には、まだ余裕が残っていた。


「……しぶとい奴らだ」


 セシリアが吐き捨てる。


「こっちの台詞だよ。城ごと崩れておいて、まだ戦う気か?」


「当然だ。貴様らを生かしておく理由などないからな!」


 セシリアが両手を広げた。俺たちは同時に地面を蹴る。俺は剣を抜き、刃を横に構えた。


「バッタの時みたいに……もしかしたら、今回もいけるかもしれないよな!」


 剣を横薙ぎに振り抜く。


「《飛刃(ひじん)》!」


 ブォォォォンッ!!


 刃が空を切った瞬間、凄まじい風圧が生まれた。目には見えない斬撃が砂埃を巻き上げながら、一直線にセシリアへと迫る。


「何っ!?」


 反応が遅れた。


 ドゴォォォンッ!!


「ぐあっ!?」


 風圧がセシリアの身体を捉え、そのまま後方へと吹き飛ばした。


「よし、通った!」


 思わず拳を握る。この技を思いついたのは、現世でファンタジーRPGを遊んでいた頃だった。当時の俺は剣士の職業を使い、オンラインで知り合ったフレンドと一緒に冒険していた。ある時、巨大な昆虫型モンスターが仲間を捕まえ、そのまま空中へ飛び立ってしまったことがある。普通に剣を振っても届かない。ジャンプしたところで、どう考えても高さが足りない。


 なら、どうすればいい?その時、俺は閃いた。――剣そのものが届かないなら、剣を振った時に生まれる衝撃を飛ばせばいい。そうして生み出したのが、風圧を飛ばす《飛刃》だった。ゲームの中で何度も練習し、最終的には空を飛ぶモンスターを撃ち落とせるまでになった技だ。


 まさか、異世界に来てから役に立つとは思わなかったけどな。セシリアは重力を操る。だが、風圧まで自在に操れるとは限らない。だからこそ、試す価値はあった。


「重力は操れるみたいだけど……風圧なら、どうかな!」


「小癪な真似を!」


 セシリアは空中で体勢を立て直すと、周囲に散らばった城と大樹の残骸へ手を向けた。


「ならば、これでも食らえ!」


 ゴゴゴゴゴゴッ!!


 瓦礫が次々と浮かび上がる。巨大な石材。折れた柱。燃え残った大樹の幹。そのすべてが重力によって持ち上げられ、俺たちへと狙いを定めた。


「うおっ、ちょっと待て! リナたちまで巻き込む気か!?」


「潰れろ!」


 セシリアが腕を振る。次の瞬間、無数の瓦礫が弾丸のような勢いで飛んできた。


「リナ、ノノ! 後ろに下がれ!」


 俺は二人の前へ飛び出し、剣を振り抜いた。


「《飛刃》!」


 ブォンッ!!


 風圧が先頭の瓦礫にぶつかり、その軌道を逸らす。巨大な石材が俺たちの頭上を通り過ぎ、地面に激突した。


 ドゴォォンッ!!


 だが、一つを弾けば次が迫る。


「くそっ、数が多すぎるだろ!」


 俺は立て続けに剣を振り、風圧を飛ばした。


 ブォンッ! ブォォンッ!


 瓦礫の軌道を逸らし、石材を砕き、なんとかリナたちへの直撃を防ぐ。しかし、その間にセシリアは距離を詰めていた。


「よそ見をするな!」


「しまっ――!」


 セシリアが空中を滑るように接近し、俺の身体を重力で捕らえた。


「ぐっ!?」


 足が地面から離れる。身体が見えない手に掴まれたように動かなくなった。


「貴様は、我が直々に始末してやる!」


 セシリアは俺を拘束したまま、街の上空へと飛び上がった。そして――。


 ドゴォォォンッ!!


「ぐああっ!」


 俺の身体が建物の壁に叩きつけられた。衝撃で壁が砕け、瓦礫が飛び散る。だが、セシリアはそれで終わらせなかった。


「まだだ!」


 グンッ!!


 再び重力が働き、俺の身体が壁から引き剥がされる。


 ドゴォォォンッ!!


「ぐっ……!」


 今度は別の建物へ叩きつけられた。


「はははははっ! どうした、さっきまでの威勢は! 貴様が死ぬまで、何度でも街に叩きつけてやる!」


 ドゴォォォンッ!!


「ぐあっ!」


 ドゴォォォンッ!!


「がはっ!」


 壁、屋根、石造りの塔。俺の身体はセシリアの思うがままに振り回され、街の建物へ次々と叩きつけられた。


 ……くそっ! さすがに、これはきつい!。


 【適応】のおかげで、以前よりは耐えられる。だが、衝撃そのものが消えるわけじゃない。身体が建物にぶつかるたび、鈍い痛みが全身を駆け抜けていく。耐性があるから平気、なんて都合のいい話ではないのだ。


「まだ耐えるか! ならば、これならどうだ!」


 セシリアが俺を引き寄せ、街の中央にそびえる教会の塔へと向きを変えた。塔の先端は、鋭く尖っている。


「……おい、まさか!」


「貫かれて死ね!」


 ドゴォォォンッ!!


《斬撃耐性+13を獲得しました》


「ぐあああああっ!!」


 腹部に鋭い衝撃が走った。教会の塔の先端が、俺の腹に深々と突き刺さっていた。


「タツヤさんっ!!」


 遠くからリナの叫びが聞こえる。


 くそっ……!。


 痛みで視界が揺れた。腹部を貫く異物の感覚に、思わず息が詰まる。


 ……マジかよ。これは、さすがに洒落にならねえぞ……!。


 それでも、俺はまだ意識を失っていなかった。セシリアが俺の様子を見て、にやりと笑う。


「ほう……貴様の弱点は斬撃か。ならば、街中の物で串刺しにしてやろう!」


 セシリアは街を見下ろし、片手を掲げた。


「街にある鋭利な物よ、我のもとへ集まれ!」


 ゴゴゴゴゴゴッ!!


 剣、槍、折れた柵、尖った鉄材。街に散らばっていた無数の鋭利な物が、重力によって空中へと浮かび上がる。


「まさか……!」


「その腹に刺さったものを見れば、答えは明らかだろう? 斬撃への耐性が足りぬのだ!」


 セシリアが手を振り下ろした。


「ならば、そこを徹底的に攻めるまで!」


 無数の鋭利な物が、一斉に俺へと向きを変える。


「おいおいおい! それは反則だろうが!」


 俺は歯を食いしばり、腹部に刺さった塔の先端を両手で掴んだ。


「こんなもん……!」


 ミシミシミシッ!!


 石材が軋む。俺は痛みをこらえながら身体をひねり、腹部に食い込んだ石材を力任せに引きちぎった。


 バキィィィンッ!!


「なっ!?」


 砕けた塔の先端を引き抜き、俺はセシリアへ投げつけた。


「これでも食らえ!」


 セシリアは慌てることなく、重力を操って石材を横へ弾き飛ばす。


「そんなものが当たると思ったか!」


「当たらなくても、時間稼ぎにはなるんだよ!」


 俺は剣を握り直し、飛んでくる鋭利な物を迎え撃った。


 キィンッ! ガキィンッ!


 いくつかは叩き落とせた。だが、数が多すぎる。重力で加速した武器が、四方八方から襲いかかってきた。


「ぐっ……!」


 一本が肩をかすめ、別の一本が脚に突き刺さる。さらに鋭い破片が腕や脇腹を切り裂いた。


《《《《斬撃耐性+4を獲得しました》》》》


「くそっ……数が多すぎる!」


 俺は歯を食いしばりながら、どうにか致命傷を避けようと剣を振るった。しかし、セシリアはその隙を見逃さなかった。


「まだまだだ!」


 再び重力が俺の身体を捕らえる。


「ぐっ!?」


「そのまま潰れてしまえ!」


 俺は街の建物へ叩きつけられ、さらに重力によって方向を変えられた。身体が瓦礫の間を飛び回り、最後にはリナとノノがいる場所へ向かって弾き飛ばされる。


「うおおおおっ!」


 ドゴォォォンッ!!


 俺は二人のすぐそばにあった瓦礫へ叩きつけられた。


「タツヤさん!!」


 リナが駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか!? 今、治療を――」


「待って……!」


 ノノは、リナの肩を掴んだ。


「まずは、周りを……!」


 顔を上げた瞬間、俺は息を呑んだ。騎士たちが、俺たちを取り囲んでいたのだ。


「領主様に逆らう者を逃がすな!」


「全員、能力を使え!」


「ここで始末するんだ!」


 騎士たちの手から、炎、氷、風の刃、光の矢が次々と放たれる。さらに、街の人々の中にもセシリアに従う者たちがいた。彼らまでが能力を発動し、俺たちへ攻撃を仕掛けてくる。


「ちょっと、ちょっと! いくら何でも多すぎるでしょ!」


 ノノが杖を構えた。


「《紅蓮焼野(クリムゾン・カタストロフ)》!」


 ゴォォォォッ!!


 杖の先から放たれた炎が一気に広がり、迫っていた騎士たちの攻撃を飲み込んだ。炎は敵の進路を塞ぎ、何人もの騎士を後退させる。だが、ノノの魔法は制御が難しい。広がった炎は敵だけでなく、周囲の瓦礫にまで燃え移ってしまった。


「うわっ、危なっ! ちょっと、燃え広がりすぎよ!」


「ノノさん、空から来ます!」


 リナが頭上を指さした。複数の騎士が空中から俺たちを狙っていた。炎や氷の刃を構え、こちらへ急降下してくる。


「だったら、まとめて痺れなさい! 《雷鳴轟界(サンダー・ドミニオン)》!」


 ……しかし、何も起こらなかった。


「……あれ?」


 ノノが杖の先を見つめる。


「ちょっと! 今は失敗してる場合じゃないんだけど!?」


 慌てて魔力を練り直す。だが、杖の先で小さな火花が散っただけで、雷は一向に発生しなかった。


「くっ……! なんでこういう時に限って!」


 騎士たちが空中から一斉に攻撃を放つ。炎と氷の刃が迫り、俺は剣を振っていくつかを弾き飛ばした。それでも、すべてを防ぎきることはできない。


「ノノ、急いでくれ!」


「分かってるってば!」


 ノノは歯を食いしばり、もう一度杖に魔力を集中させた。頭上から迫る騎士たちを見上げ、杖を振り上げる。


「――今度こそ、決まりなさいっ!」


「《雷鳴轟界(サンダー・ドミニオン)》!」


 バリバリバリバリッ!!


 ノノの杖から凄まじい雷光が弾け飛んだ。空気が震え、広範囲に雷が降り注ぐ。青白い稲妻が地面を走り、騎士たちの足元で次々と弾けた。空から攻撃しようとしていた者たちにも雷が直撃し、何人もの騎士が悲鳴を上げて地面へ落ちていく。


「ぐああっ!」


「か、身体が……!」


 騎士たちが次々と倒れ、攻撃の手が一瞬だけ緩んだ。


「よっしゃ! 今度は成功!」


「危うく全滅するところだったぞ……!」


「うるさいわね! ちゃんと発動したんだからいいでしょ!」


 ノノが頬を膨らませる。けれど、言い返す余裕があるだけ、まだマシだった。俺たちが必死に応戦していると、空からセシリアが降りてきた。


「そこまでだ!」


 その一声で、騎士たちの動きが止まる。


「皆の者、攻撃をやめよ!」


 セシリアはゆっくりと俺たちの前へ降り立った。周囲の騎士たちは一斉に武器を下ろす。


「この者たちは、我に歯向かった愚か者だ。ここで見せしめとして処刑する!」


 セシリアが俺たちを見下ろし、冷たい笑みを浮かべた。


「貴様らの命をもって、我に逆らえばどうなるかを街の者どもに教えてやろう」


「……ふざけんな」


 俺は剣を握り直した。だが、身体はすでに限界に近い。腹部も肩も脚も痛み、立っているだけでも精一杯だった。リナが俺のそばに駆け寄り、杖を構える。


「タツヤさん、今すぐ治療します!」


「リナ、頼む……!」


 リナが俺の傷に手をかざし、治癒魔法を発動させようとした。その時だった。


「誰の許しを得て動いている?」


 セシリアは重力を操り、リナの身体を拘束すると、そのまま勢いよく地面へと叩きつけた。


「かはっ……!」


「リナ!」


 リナの身体は宙を舞い、瓦礫の上へと転がった。治癒魔法を発動しようとしたものの、治癒魔法の光は、発動する前に直前で消えてしまった。


「弱者が余計な真似をするな。貴様らは、仲間がそこで死ぬのを見ているのがお似合いだ」


「この……!」


 俺はセシリアに斬りかかろうとした。だが、足に力が入らず、思うように身体が動かない。セシリアはそんな俺を見て、嘲るように笑った。


「どうした? 先ほどまでの威勢はどこへ行った?」


「くっ……!」


 リナが腹部を押さえながら、必死に立ち上がる。


「リナ、大丈夫か!?」


「だ、大丈夫です……。それより、タツヤさん。このままでは全員やられます」


「分かってる……。だけど、正面から戦っても勝ち目がない」


 セシリアは余裕たっぷりに俺たちを見下ろしている。周囲には騎士たち。背後には負傷したリナと、魔力を消耗したノノ。そして俺自身も、まともに動ける状態じゃない。このまま戦えば、全員まとめて潰される。だが――まだ手はある。


 俺はセシリアに聞こえないよう、ノノに顔を寄せた。


「……いいか。今から作戦を伝える」


「作戦……?」


 ノノが小さく頷く。


「ノノ。お前のゼニススキルを使って、単体の火炎魔法を強化してくれ。威力は出せる限り最大で頼む」


「……なるほどね」


 ノノの目つきが変わった。


「リナは、杖でセシリアを攻撃してくれ。攻撃を当てることより、あいつの意識をこっちへ向けさせるのが目的だ」


「分かりました。でも、さっきの蹴りで少し動きにくくなっています。長くは持たないと思います」


「それで十分だ。無理はするな」


「はい……!」


 二人は短く頷いた。


「貴様ら……何をこそこそと話している?」


 セシリアが眉をひそめる。


「まさか、まだ勝てるとでも思っているのか?」


「さあな。試してみなきゃ分からないだろ?」


 俺は剣を握り直し、セシリアへ向かって駆け出した。


「また動く気か、諦めの悪いやつだ!」


 セシリアが俺へ手を向ける。だが、俺は真正面から突っ込まず、直前で地面を蹴った。


「おおおおっ!」


 高く跳び上がり、セシリアの頭上を越える。そのまま背後へ回り込んだ。


「ちっ、ちょこまかと!」


 セシリアが俺を振り返ろうとした、その瞬間。


「えいっ!」


 リナが杖を振り上げ、セシリアへ叩きつけようとした。


「小賢しい!」


 セシリアは片手を動かす。


 ズンッ!


「きゃっ!?」


 リナの身体が宙に浮き上がった。見えない力が全身を締めつけるように拘束し、そのまま空中へ持ち上げていく。


「リナ!」


「うっ……!」


「はははっ! 愚かな! 貴様らの考えなど、すべてお見通しだ!」


 セシリアはリナを拘束したまま、俺へと顔を向けた。


「次は貴様だ!」


 だが、俺は止まらなかった。


「《飛刃》!」


 ブォォォンッ!!


 剣を横薙ぎに振り、風圧を飛ばす。セシリアは空いている手を動かし、風圧を重力で弾き飛ばした。


「無駄だと言っている!」


「そうかよ! じゃあ、もう一発だ!」


 ブォンッ! ブォォンッ!!


 俺は連続して風圧を飛ばした。セシリアはそのたびに片手を動かし、攻撃を逸らしていく。


「何度やっても同じだ!」


「……今ので分かった」


 俺は剣を振り続けながら、声を張り上げた。


「お前の能力には、弱点がある!」


「何だと!?」


「お前は両手で、最大二つの攻撃にしか同時に対処できない! 今、その片手はリナを拘束するために使っている。つまり――!」


 俺はさらに強く剣を振り抜いた。


「お前が俺の攻撃を防げるのは、あと一つだけだ!」


 セシリアの顔が強張る。


「まさか……!」


「そういうことだ! お前の両手は俺とリナに使われている! だから、もう一つの攻撃には対処できない!」


 もちろん、完全な確信があったわけじゃない。だが、これまでの戦いを見ていれば、そう考えるだけの根拠はあった。重力を操って攻撃を逸らす時、セシリアは必ず手を動かしていた。複数の攻撃を同時に受けた時も、すべてを完全に防げていたわけじゃない。ならば、限界があるはずだ。


「ノノ! 今だ!」


「待ってました、王子様♡!」


 ノノが杖を掲げた。その身体から、凄まじい魔力が溢れ出す。


「ゼニススキル――《魔力極大(マナ・マキシマム)》!」


 ゴォォォォォッ!!


 膨れ上がった魔力が杖の先へと集まっていく。普段のノノからは想像もできないほどの魔力が、ひとつの火炎魔法へと注ぎ込まれていた。


「この一撃で……決めるわ!」


 セシリアがノノを振り返った。


「なっ……! その魔力は――!」


 だが、もう遅い。ノノの杖の先に、巨大な火球が生まれていた。先ほどの《焔獄崩星》とは比べものにならないほどの熱量。紅蓮の炎が渦を巻き、周囲の空気を歪ませる。


「《焔獄崩星(フレア・ノヴァ)》――最大出力!」


 ドゴォォォォォォンッ!!


 火球が放たれた。


「しまっ――!」


 セシリアは慌てて手を動かそうとした。だが、片手はリナを拘束し、もう片方は俺の風圧を防ぐために使っている。


 防げない。そう判断した瞬間、セシリアの顔から血の気が引いた。


「ば、馬鹿な……!」


 巨大な火球が、セシリアへと迫る。そして――。


 ……あっ。


 俺は、その軌道を見て気づいた。


 これ、俺も巻き込まれるんじゃねえか?。


 今さら気づいても、もう遅い。


「おいおいおいおい! ノノ、俺がいるって――!」


 ゴォォォォォォォッ!!


 炎が、俺とセシリアをまとめて飲み込んだ。


「ぎゃあああああああっ!!」


「きゃあああああああっ!!」


 視界が紅蓮に染まる。凄まじい熱と衝撃が身体を襲い、俺はセシリアとともに吹き飛ばされた。


 ドゴォォォォォォンッ!!


《火属性耐性+99を獲得しました》


 轟音が街中に響き渡った。やがて炎が消え、黒煙が立ち上る。瓦礫の上に倒れていたのは、全身が煤に覆われた俺とセシリアだった。


「…………」


 身体が動かない。


 ……あの野郎。味方ごと撃ち抜きやがった……。いや、作戦を提案したのは俺だ。文句を言うのは筋違いかもしれない。それでも、せめて一言くらいは言わせてほしい。……さすがに、あの火球はデカすぎて避けられないだろ……!。


 俺は心の中でそう呟き、意識が遠のきそうになるのを必死にこらえた。


「セ、セシリア様ーっ!!」


 騎士たちが悲鳴を上げ、慌てて領主のもとへ駆け寄ってくる。


「領主様! しっかりしてください!」


「おのれ、よくもセシリア様を!」


 騎士たちが俺たちを睨みつける。だが、俺にはもう反論する余裕もなかった。


「王子様! ちょっと、しっかりしてよ!」


 ノノが慌てて駆け寄ってくる。


「タツヤさん! 今、治療しますから!」


 リナも杖を構え、俺のもとへ近づいてきた。その時だった。――ふわり。


 倒れていたセシリアの身体から、黒い何かが浮かび上がった。


「……え?」


 最初は、炎によって生じた黒煙の残りかと思った。だが、それは煙のように散ることなく、空中でうごめきながら、徐々に人の形を成していく。


 黒い靄。輪郭の定まらない身体。そして、その奥で不気味に光る、二つの赤い眼。それは人間でも魔物でもない。まるで、生き物のように蠢く――呪いそのものだった。

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