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チート能力をもらって異世界に行ったら、全員チート能力持ちだった件  作者: ぱん


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14/35

14 闇の組織の最高幹部七刻ジェルド

 俺たちは、村へ向かって全力で走っていた。背後からは、先ほどのワイルドボアたちが追いかけてきている。


「急いでください!」


「分かってる!」


 前を走るヴィルが、村の入口を指差した。


「あれを見ろ!」


「ん?」


 村の周囲には、地面に等間隔で並べられた小さな長方形の石があった。石の表面には、見たことのない模様が刻まれている。


「あれは結界石だ!」


「結界石?」


「ああ! 村の周囲に配置して、魔物が中へ入ってこられないようにしてるんだ! 一応、グランツの街にもあったぞ!」


「なるほど!」


 全然気づかなかった……。


 俺たちはそのまま村の中へ駆け込んだ。直後――。


「ブオオオオオッ!」


 ワイルドボアたちが村へ突っ込んでくる。


 だが、その瞬間。


 ドンッ!


「ブオッ!?」


 先頭のワイルドボアが、何もない空間に激突したかのように弾き飛ばされた。後続の個体も次々と見えない壁にぶつかり、村の外へ押し戻されていく。


「すげえ……!」


「結界が効いてるんだ!」


 ヴィルが振り返り、安堵したように息を吐いた。


「これで、ひとまず大丈夫だ!」


 俺たちは息を切らしながら、村の入口で一息ついた。すると、様子を見に来たのか、村人たちが次々と集まってきた。


「おお! 旅の方ですか!」


「大丈夫でしたか?」


「怪我はありませんか?」


「よかったら、うちで休んでいってください!」


 驚くほど親切な人たちだった。先ほどまで命懸けで走っていた身としては、ありがたい申し出だ。


「ありがとうございます」


 リナが丁寧に頭を下げる。


 俺も礼を言おうとしたところで、ふと気になることを思い出した。


「ところで、ここに馬車が来ませんでしたか?」


「馬車ですか?」


 村人の一人が首を傾げる。


「いえ、そんなものは来ておりませんよ」


「そうなのか?」


「ええ。最近、この街道を通る馬車は、しばらく来ていませんね」


「……?」


 俺は眉を寄せた。


 確かに、御者は俺たちを置いて逃げてしまった。だが、この街道は一本道だ。逃げた御者も、いずれこの道を通るはず……。


 馬車が通った形跡すらないというのは、少し妙だった。


「せっかくですし、今日は村で休んでいきませんか? もうすぐ日も暮れますから」


「すみません。でも、そんな暇はないんです」


 俺は街道の先へ目を向けた。


「日が暮れる前に、できるだけベルドへ近づきたいので」


「ベルドへ?」


 村人が少し驚いた顔をする。


 すると、リナが口を開いた。


「でも、おかしいですね。グランツからベルドへ向かう馬車は、決まった時間に定期的に運行しているはずです。昼も夜も、何度かこの街道を通ると聞いています」


 その言葉を聞いた瞬間、村人の顔がほんの一瞬だけ強張った。


 ……気のせいだろうか。


「……実は、この先で事故があったらしくて」


「事故?」


「ええ。その影響で、今は通行止めになっているんですよ」


「そうだったのか」


 俺は街道の先を見つめた。


 それなら、馬車が来ないのも納得できる……のか?だが、何かが引っかかる。


「それなら仕方ないか。俺たちだけでも歩いて向かおう」


「お待ちください!」


 村人が慌てて俺を止めた。


「この先は危険です!」


「危険?」


「事故の影響で道も荒れていますし、モンスターも出るかもしれません。今から進むのはおすすめできませんよ」


「忠告ありがとうございます」


 俺は軽く頭を下げた。


「でも、どうしても先へ進まなきゃいけないんです。気持ちだけ受け取っておきます」


 そう言って、俺たちは村を出た。しばらく街道を歩いていると――。


「……ん?」


 道端の木に、何かが刺さっていることに気づいた。


「斧……?」


 一本の斧が、木の幹に深々と食い込んでいた。


「誰かが薪でも割ってたのかな」


 俺は特に気にせず、そのまま通り過ぎた。ところが、しばらく歩いたところで――。


「……あれ?」


 また、道端の木に斧が刺さっていた。


「……」


 俺は足を止める。


「これ……さっきの斧と同じじゃないか?」


 刃の部分には小さな傷があり、柄の部分にも特徴的なひびが入っている。見間違えるはずがなかった。


「偶然じゃないか?」


 ヴィルが斧を見つめる。


「いや、でも一本道だぞ。俺たちはずっと前に進んでるんだ」


「じゃあ、なんで同じ斧があるんだ?」


 リナが不安そうに周囲を見回した。


「……何かの魔法でしょうか?」


「分からない。とにかく、もう少し進んでみよう」


 俺たちは再び歩き出した。だが、しばらくすると――。


「……まさか」


 またしても、同じ斧が木に刺さっていた。


「嘘だろ……」


 俺は足を止め、周囲を見回す。道は一本道。脇には木々が生い茂り、遠くまで同じような景色が続いている。


 どういうことだ? 同じ場所をぐるぐる回ってるのか?。


 確かめるため、俺は剣の先で地面に印をつけた。


「これで分かるだろ」


 その印を目印に、俺たちは再び街道を進んだ。そして、しばらくして――。


「……マジか」


 目の前に、俺がつけたはずの印があった。


「同じ印……」


 リナの顔が青ざめる。


「俺たち……戻ってきてるのか?」


「でも、振り返っても道はずっと続いていましたよ?」


 ヴィルが腕を組んだ。


「おそらく、道そのものに何か仕掛けがあるんだ。幻覚なのか、空間を歪める魔法なのか……。どちらにしても、今のまま進むのは危険だな」


「……村に戻ろう」


「やっぱり、そうするしかないか」


 俺たちは警戒しながら、来た道を引き返した。


 村へ戻ると、先ほどの村人が笑顔で出迎えてくれた。


「お帰りなさい。どうされたんですか?」


「実は――」


 俺は、街道で起きたことを説明した。


「木に刺さった同じ斧が、何度も現れた?」


「はい。それに、地面に印をつけても、同じ場所へ戻ってきたんです」


「それは……おかしいですね」


 村人は困ったように笑った。


「では、やはり今日は村に滞在されたほうが安全です。無理に進んでも、危険なだけでしょうから」


「……」


 俺は村人の顔をじっと見つめた。何かがおかしい。だが、何がおかしいのかまでは分からない。


「確かに、今は徒歩で進むのは危険かもしれないな」


 ヴィルが言った。


「何か手掛かりを見つけるまで、この村に滞在しよう。街道の仕掛けを解く方法が分かるかもしれない」


「……仕方ないか」


 俺は小さく息を吐いた。


「分かった。じゃあ、お言葉に甘えるよ」


「ありがとうございます」


 村人は笑顔で頭を下げた。


 俺たちは村長の家へ案内されることになった。村の中を歩いていると、あちこちに畑が広がっていた。野菜や見慣れない作物が育てられており、収穫したばかりと思われる野菜が木箱に山積みにされている。だが、よく見ると、どこか様子がおかしかった。


 畑の一角には、収穫途中の作物がそのまま残されている。地面には農具が置きっぱなしになり、運びかけの木箱も道の途中で止まっていた。まるで、誰かが作業を中断し、そのまま戻ってこなかったかのようだった。


 ……何かあったのだろうか。


 疑問を抱きながらも、俺たちは村長の家へと足を踏み入れた。


「こちらが、この村の名物料理です」


 テーブルには、湯気の立つスープが並べられていた。


「おお、うまそうだな」


「どうぞ、召し上がってください」


 村人たちは笑顔で俺たちを勧める。しかし、家の中には大勢の村人が集まっていて、俺たちをぐるりと囲んでいた。歓迎されているはずなのに、どうにも居心地が悪い。


 ……なんだ、この違和感は。


 俺たちが席につくと、村人の一人が話しかけてきた。


「ベルドまで行くのは、さぞ大変でしょうね」


「まあ、そうですね」


「特に、Dランクの冒険者ともなれば、なおさらでしょう」


「……ん?」


 スープを口に運ぼうとしていた俺の手が止まった。ヴィルとリナも、同じように動きを止めている。


「今……なんて言った?」


「えっと、それは……」


 村長の顔から、ゆっくりと笑みが消えた。


「俺がDランクだって、どうして知ってる?」


「…………」


 村長は何も答えない。


 俺はゆっくりと立ち上がり、剣へ手を伸ばした。


「……あんたら、何者だ?」


 村長はしばらく俯いていたが、やがて諦めたように息を吐いた。


「……バレちゃあ、仕方ないわねぇ」


「……!」


 次の瞬間。


 ドゴッ!


「ぐあっ!」


 村長の背後から伸びてきた腕が、その横顔を容赦なく殴りつけた。村長の身体が勢いよく吹き飛び、床に転がる。


「村長!」


 俺たちは一斉に振り返った。そこに立っていたのは、派手な服を身にまとった一人の男だった。長い髪を揺らし、口元には不敵な笑みを浮かべている。


「余計なことを言うからよ。もう少しで猛毒入りのスープを飲ませて、あんたたちのパーティーを全滅させられたのに……」


 男は楽しそうに笑った。


「ふふっ。まあ、いいわ。それより――ようこそ、私の村へ」


「お前……!」


「初めまして。私はジェルド」


 男――ジェルドは、優雅に一礼した。


「闇の組織、その最高幹部――七刻の一人、ジェルドよ」


「闇の組織の最高幹部……!?」


 俺は剣を抜こうとした。だが、その瞬間。


「動くんじゃないわよ」


 ジェルドが小型のナイフを取り出し、村長の娘と思われる少女の首元へ突きつけた。


「お父さん!」


「アンナ……!」


 村長が叫ぶ。


「娘を離せ!」


「嫌よ」


 ジェルドは楽しそうに笑った。


「この娘は、私の人質なんだから」


「やめろ!」


 俺は一歩前へ出た。


「こいつらは関係ないだろ!」


「関係ない?」


 ジェルドが鼻で笑う。


「この村の人間は、みんな私の計画の駒よ」


「そんな……」


 アンナは震えながら周囲を見渡した。村人たちは、誰も動けずにいる。恐怖に顔を強張らせ、ただ成り行きを見守ることしかできないようだった。


「お願い……」


 アンナが小さく呟く。


「この人たちを、傷つけないで……」


「なら、あんたが私の言うことを聞けばいいのよ」


「……」


 アンナはしばらく黙っていた。そして、ゆっくりと首を横に振る。


「……そんなこと、やっぱりできない」


「何?」


「何の罪もない冒険者の人たちが……私たちを助けようとしてくれている人たちが……」


 アンナは涙を浮かべながら、周囲の村人たちを見た。


「何もできないまま傷つけられるくらいなら……」


 彼女はジェルドの手にあるナイフを見つめた。


「あたしが死んだほうがマシ!」


「待て!」


 俺が叫んだ。


 だが、間に合わなかった。


 アンナは舌を噛み切った。


「……!」


「アンナァァァッ!」


 村長が絶叫する。アンナの身体から力が抜け、その場に崩れ落ちた。


「……嘘だろ」


 俺たちは、目の前の光景に言葉を失った。村人たちが一斉にアンナへ駆け寄る。


「アンナ!」


「しっかりしろ!」


「誰か、治癒魔法を使える奴はいないのか!」


「私が――!」


 リナが治癒魔法を唱えようとした、そのときだった。


「使えない奴は……」


 ジェルドが冷たく笑った。


「私の操り人形になっていたほうがマシよ」


「……え?」


 ジェルドが両手を広げる。


「【人形支配】」


 その瞬間――。村人たちの身体が、ガクンと揺れた。


「……っ!?」


 まるで見えない糸で引っ張られた人形のように、村人たちが一斉に立ち上がる。


「な、なんだ……?」


 村人たちの目から、生気が消えていく。そして――全員が、俺たちへ向かって襲いかかってきた。


「村の人たちに、何てことを……!」


 リナが叫ぶ。


 ジェルドは笑った。


「私の能力はAランク。この手で触れた者を操ることができるの。元はただの村人でも、私の人形になれば十分に使えるわ」


 ジェルドは、操られた村人たちを見渡した。


「でも、気をつけてね。力はあっても、身体は脆いから。あまり無茶をさせると、すぐ壊れちゃうかもしれないわよ?」


「くそっ……!」


 俺たちは抵抗しようとした。だが――。


「ぐっ!」


 数人の村人に身体を押さえ込まれ、身動きが取れなくなった。


「離せ!」


「タツヤ!」


 ヴィルとリナも、別々の方向から村人たちに拘束されていた。


「くそ……!」


 俺は剣を振ろうとしたが、すぐに手を止めた。相手は、元々この村で暮らしていた人たちだ。操られているだけで、本人たちに敵意があるわけじゃない。


 ……斬るわけにはいかない。


 だからこそ、思うように抵抗できなかった。


「ふふふ……」


 ジェルドが楽しそうに笑う。


「優しいのねぇ」


「黙れ!」


「Dランクなんていう薄汚い冒険者を庇う村人を、傷つけられないんでしょう?」


 ジェルドは俺を見下ろし、口元を歪めた。


「だったら――その優しさごと、私の手で壊してあげるわ」


「……!」


「そいつを連れてきなさい」


 操り人形たちが俺を引きずり、ジェルドの前へ連れていく。


「タツヤ!」


「来るな!」


 俺は仲間たちに叫んだ。


 ジェルドが俺の顔を覗き込む。


「あなたが、この村の人間を守ろうとしたことだけは褒めてあげるわ」


 そして、小型のナイフを取り出した。


「でもね……あたしは、あなたみたいな薄汚いDランクが大嫌いなのよ」


「……このオカマ野郎が」


「……あら?」


 ジェルドの眉がピクリと動いた。


「言ってくれるじゃない」


 次の瞬間。


 ズブッ。


「ぐっ……!」


 ナイフが、俺の胸へ深々と突き刺さった。


《刺突耐性+1を獲得しました》


「……!」


 胸の奥に、焼けるような痛みが走る。


「タツヤさん!」


「タツヤ!」


 俺の身体から力が抜けていく。


「……ぐっ」


 胸から血が流れ落ち、視界が滲んだ。ジェルドはナイフを引き抜き、冷たく笑う。


「まずは一人」


 俺はその場に倒れた。


「タツヤさん!」


 リナの叫び声が聞こえる。ヴィルも必死に抵抗していた。


「やめろ!」


「次は、あなたたちね」


 ジェルドが仲間たちへ向かって歩き出す。


 そのときだった。胸元に身につけていたお守りが――淡く光った。


「……?」


 ジェルドが振り返る。


「何……?」


 光はどんどん強くなっていく。そして――。


 パキンッ。


 お守りが砕けた。


「……!」


 次の瞬間、砕けたお守りから溢れた光が、俺の身体へ流れ込んだ。


「……っ」


 指が動く。肺が空気を吸い込む。


「……はぁっ!」


 俺は大きく息を吐いた。


「な……」


 ジェルドが目を見開く。


「生きてる……?」


 俺はゆっくりと身体を起こした。


「……俺も、何が起きたのか分からない」


 胸には、さっきまで確かにナイフが突き刺さっていた。だが、今は傷が塞がり、血も止まっている。そして、胸元にあったはずのお守りは、砕けて消えていた。


 あのお守り……まさか。


 グランツを出発するとき、あの子供たちが俺にくれたものだ。弟が作ったと言っていた、あのお守り。それが、俺の命を救ったのだろうか。確証はない。だが、ほかに考えられることもなかった。


「でも……」


 俺は倒れていた剣を拾い上げる。


「まだ、死ねないらしいな」


「タツヤさん……!」


 リナが涙を浮かべる。


「タツヤ!」


 ヴィルも驚いた顔をしていた。


「な、なんで……」


 ジェルドが後ずさる。


「そんな……私のナイフで心臓を貫いたはずよ……!」


「知らねえよ」


 俺は剣を構えた。


「ただ一つ、分かることがある」


 ジェルドを睨みつける。


「お前を、ここで止める」


「……!」


 俺は一気に踏み込んだ。


「うおおおおおッ!」


 腰を入れ、思いつく限りの力で剣を振るう。


 だが――。


「そんなもの!」


 ジェルドが腕を上げた。


 俺は刃ではなく、剣を横に寝かせる。


「これで――!」


 ドゴォン!


 剣の腹が、ジェルドの胴体へ叩きつけられた。


「ぐはぁっ!」


 ジェルドの身体が吹き飛ぶ。


「やった!」


 リナが叫ぶ。


 だが――。


「……ふふ」


 ジェルドは、ゆっくりと立ち上がった。


「私を舐めてもらっちゃ困るわねぇ」


 その身体が、不自然に揺れる。


「【人形支配】――」


 ジェルドは、自分自身へ手を伸ばした。


「対象、私」


「……何?」


「私は、自分自身を操り人形にすることもできるのよ」


 次の瞬間、ジェルドの身体が、見えない糸に引かれたかのように跳ね上がった。


「これで――もっと強くなれる!」


 ジェルドは口元を歪めた。


「私があんたに触れるのが先か、あんたが私に攻撃するのが先か……勝負よ!」


 ドンッ!


 ジェルドが地面を蹴った。


 何だ、こいつの動き……! さっきとはまるで別物だ。とてつもなく速い!。


 俺は剣を構えた。だが――。


「随分とノロマね!」


 ジェルドの拳が迫る。


「くっ!」


 俺は咄嗟に剣を構え、その拳を受け止めようとした。


 ガキィィィン!


「ぐあっ!」


 凄まじい衝撃に、俺の身体が弾き飛ばされる。地面を踏みしめ、なんとか体勢を立て直した。


「……Aランクだけはあるな。なかなかやるじゃねえか、オカマ野郎」


 ジェルドが口元を歪める。


「どうしたの? その剣じゃ、私には勝てないわよ!」


「……そうかよ」


 俺は手にした剣を見つめた。


 確かに、今のあいつに剣で勝つのは難しい。さっきのように不意を突いて攻撃を当てることも、もうできそうにない。しかも、下手に剣を振れば、ジェルドではなく操られた村人を傷つけてしまう可能性がある。

なら――。


 俺は剣を地面へ放り投げた。


「……え?」


 ジェルドが目を丸くする。俺はゆっくりと拳を握った。


「だったら――」


 一歩、踏み込む。


「俺の拳でやる!」


「はぁ?」


 ジェルドが呆れたように笑う。


「馬鹿じゃないの? 武器を捨てるなんて――」


「うるせえ! 多少は素早くなったようだが、まだまだ本気の俺の方が速いぜ!」


 俺は一気に距離を詰めた。


「どりゃー!」


 ドゴッ!


「ぐっ!」


 拳がジェルドの顔面を捉えた。


「なっ……!」


 ジェルドがよろめく。


「まだまだぁ!」


 ドゴッ!


 バキッ!


 ガッ!


「ぐあっ!」


 右。


 左。


 さらに右。


 俺はジェルドの身体へ、次々と拳を叩き込んでいく。


「ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」


「待つわけねえだろ!」


「この……!」


 ジェルドが拳を振り返す。


 俺は身体を捻り、その一撃をかわした。


「どりゃあッ!」


 ドゴォン!


 拳がジェルドの腹へ突き刺さる。


「ぐはっ!」


 ジェルドの身体がくの字に折れた。


「これで――」


 俺は拳を強く握り締める。


「終わりだぁぁぁッ!」


 地面を蹴る。


「どりゃあああああああッ!!」


 ドゴォォォォォン!!


 全身の力を込めた拳が、ジェルドの身体を真正面から捉えた。


「ぐはぁぁぁぁぁぁッ!?」


 ジェルドの身体が猛烈な勢いで吹き飛び、そのまま家の壁をぶち抜いて、向こう側へと飛んでいった。


「……はぁ、はぁ……」


 俺は拳を握ったまま、ジェルドが突き破った壁の穴を見つめる。


「……剣じゃ勝てなくても」


 自分の拳を見下ろした。


「俺には、これがあるんだよ」


 しばらくの間、誰も言葉を発さなかった。


「……終わった?」


 ヴィルが呟く。


「ああ。たぶんな」


 俺は荒い息を吐きながら答えた。すると、操り人形にされていた村人たちの身体から、次々と力が抜けていった。


「……あれ?」


 一人、また一人と、その場に崩れ落ちる。


「俺は……?」


「何が……?」


「ここは……?」


 人形のようだった村人たちが、次々と我に返っていく。


「よかった……」


 リナが安堵の息を吐いた。


「みんな、元に戻りました!」


 俺はその場に座り込んだ。


「……終わったんだな」


 だが――。


「アンナ!」


 村長の声が響いた。


 村長は倒れた娘へ駆け寄っていた。


「誰か、治療を!」


「私がやります!」


 リナがすぐに駆け寄り、両手を広げた。


「ヒール!」


 淡い光が、一気に周囲へ広がっていく。リナの治癒魔法は、アンナだけでなく、村にいる人々をまとめて包み込んだ。


「……すごい」


 光は村全体へ広がり、傷ついていた村人たちの傷が次々と塞がっていく。


「傷が……!」


「治っていく……!」


 村人たちから驚きの声が上がった。村長の傷も、アンナの傷も、みるみるうちに癒えていった。


「……うっ」


 やがて、アンナがゆっくりと目を開けた。


「……お父さん?」


「アンナ!」


 村長は娘を強く抱きしめた。


「よかった……本当によかった……!」


「……ごめんなさい」


 アンナは涙を流す。


「でも……みんなが傷つくのが嫌だったの」


「もういい……。もういいんだ……」


 村長は娘を抱きしめたまま、何度も頷いた。その光景を見ながら、俺は小さく息を吐いた。


「……本当に、終わったんだな」


 ヴィルが、ジェルドの吹き飛んでいった方向を見つめる。


「闇の組織の幹部……か」


「まだ、仲間がいるってことですよね」


 リナが不安そうに呟いた。


「ああ」


 俺は頷いた。


 闇の組織。その最高幹部の一人、七刻のジェルド。俺たちが遭遇したのは、組織のほんの一部にすぎないのだろう。それでも――。


 俺は村人たちを見渡した。


 みんな無事だった。アンナも、村長も、操られていた人たちも、こうして生きている。


「でも、今は……この村を守れた。それでいい」


 俺は立ち上がり、剣を拾った。


 こうして俺たちは、村を支配していた闇の組織の幹部――七刻の一人、ジェルドを退けたのだった。

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