13 旅の始まりと闇の組織の刺客
グランツを出発して間もなく。俺たちは馬車に揺られながら、次の目的地であるベルドへ向かっていた。
「……ん?」
ふと、後方から何かが聞こえた気がして振り返る。
「ブオオオオオッ!」
「……なんだ?」
街道の向こうから、ワイルドボアが猛スピードで追いかけてきていた。
「しつこいやつだな……」
俺が呆れながら呟くと、リナが後方を確認しながら説明してくれた。
「ワイルドボアは縄張り意識が非常に強いモンスターなんです。グランツの近くを縄張りにしている個体は、そこを通る冒険者を威嚇するために襲ってくることがあるんですよ」
「なるほど……。だから、俺たちを追いかけてきてるのか」
ワイルドボアが地面を蹴るたび、遠くの土煙が大きくなっていく。しかし、しばらく様子を見ていると、あることに気づいた。
「……あれ?」
追いつかれるどころか、少しずつ距離が開いているのだ。
「この騎獣、速くないか?」
俺が御者に尋ねると、御者は得意げに笑った。
「こいつはホーンディアですからね! 普通の騎獣とは速さが違いますよ!」
「ホーンディア?」
「ええ。見ての通り、立派な角を持つ鹿型の魔獣です。力も強く、長距離の移動にも向いてるんですよ」
「へえ……」
異世界には、馬の代わりにこんな魔獣までいるのか、確かに、あの大きな角と逞しい脚なら、かなりの力を発揮できそうだ。
後ろを振り返ると、ワイルドボアは必死に走っていた。だが、こちらとの距離は広がる一方だった。
「……完全に振り切ったな」
「みたいですね」
リナも安心したように息を吐いた。そのとき、向かいに座っていたヴィルが、ふいにリナへ顔を寄せた。
「……」
「……?」
二人は俺に聞こえないよう、小さな声で何かを話し始めた。リナは最初こそ驚いたような顔をしていたが、話を聞くうちに困ったように眉を寄せていく。
「……」
「……」
なんだ? 何を話してるんだ?
気にならないと言えば嘘になるが、わざわざ聞き耳を立てるほどのことでもないだろう。俺は二人にも何か事情があるのだろうと考え、再び街道の先へ視線を向けた。しばらくして、ヴィルが何事もなかったかのように俺へ向き直る。
「なあ、タツヤ」
「ん?」
「せっかくだし、俺たちの能力について話さないか?」
「能力?」
「ああ。これから一緒に旅をするんだ。お互いに何ができるのか、知っておいた方がいいだろ?」
「確かにな」
仲間の能力を把握しておけば、いざ戦闘になったときにも役立つ。自分の能力についても、隠しておく理由は特にない。
リナも頷いた。
「私も、お二人の能力について、ちゃんと知っておきたいです」
「じゃあ、まずは俺から話すか」
ヴィルが自分を指差した。
「俺の能力ランクはCだ」
「お前もリナと同じCランクだったのか? 普段から仕事でも頼りがいがあったから、てっきりBランクくらいかと思ってたぜ」
俺が意外そうに言うと、ヴィルは少し気まずそうに笑った。
「ははっ、そう言ってもらえるのは嬉しいけどな。ランクだけで実力が決まるわけじゃないってことだ」
「それで、能力は?」
「チート能力は【媒介召喚】だ。触れた相手を媒介にすることで、その相手と繋がりのある物を召喚できる」
「へえ。じゃあ、前に俺の家にあったトランプやオセロを召喚したのも、それか」
「ああ。まあ、便利な能力ではあるんだけどな。有機物を召喚しようとすると、大量のMPを消費するんだ。だから、今の俺が実用的に召喚できるのは、基本的に無機物か、俺と契約したモンスターくらいだな」
「契約したモンスターって、何体くらいいるんだ?」
「今のところ数体だな。スライムとか、他にも何体かいる」
「数体もいるのか」
召喚できるモンスターが複数いるなら、戦闘でもかなり役に立ちそうだ。
しかし、ヴィルはそこで少し表情を曇らせた。
「ただし、俺もCランクだからな。能力にはデメリットがある」
「どんな?」
「召喚したモンスターが、俺の命令に必ず従わないんだ」
「……それ、結構致命的じゃないか?」
「まあな」
ヴィルは苦笑した。
「命令をしなければ勝手に動いてはくれるんだが、思い通りに動いてくれないこともある。でも、付き合いが長い奴なら、ある程度は行動を読めるし、意図を汲み取ってくれる。だから、使い方次第ってところだな」
「なるほどな……」
能力そのものは便利でも、思い通りに扱えないとなれば話は変わってくる。戦闘中に勝手な行動を取られたら、こちらまで危険に巻き込まれかねない。
次に、リナが口を開いた。
「私の能力ランクもCです」
リナは少し恥ずかしそうに笑った。
「私のチート能力は治癒魔法です。怪我や傷を、広い範囲にわたって治すことができます」
「この前、街の人たちをまとめて回復してたやつか?」
「はい。でも……」
リナは困ったように眉を下げた。
「私の治癒魔法には、少し問題があるんです。味方を回復させようとすると、その範囲内にいる敵まで回復させてしまうんですよ」
「それは……戦闘だと、かなり厄介だな」
ヴィルが苦笑する。
リナは小さく頷いた。
「そうなんです。味方だけを選んで回復させることができないので、戦闘では使いにくくて……。それに、強力な治癒魔法を使うほど、魔力の消耗も大きくなります」
「なるほどな」
広範囲を回復できるというのは強力だが、敵まで治してしまうのでは使いどころが難しい。しかも、威力を上げれば魔力の消耗も増えるらしい。
ヴィルは二人の話を聞きながら、どこか複雑そうな顔をした。
「……二人ともCランクか」
「そういうタツヤは?」
ヴィルが聞いてくる。
「俺はDランクだ。チート能力は【適応】」
「【適応】……」
リナが興味深そうに聞き返す。
「攻撃を受ければ、その攻撃に対する耐性を獲得できる。例えば、殴られれば打撃耐性を得られるし、刃物で斬られれば斬撃耐性を得られる。そういう能力だ」
「攻撃を受けるたびに、強くなっていくということですか?」
「まあ、そんな感じだな」
リナは感心したように頷いた。
「すごい能力ですね」
「ただし、俺の能力にも問題がある」
「デメリットですか?」
「ああ。まだ確証はないんだが……獲得した耐性は、一日くらいで消えるんじゃないかと思ってる」
「一日……」
「だから、昨日は効かなかった攻撃が、今日はまた効く可能性があるってことだ」
ヴィルは腕を組んで考え込んだ。
「なるほどな。強くなるためには、何度も攻撃を受ける必要があるわけか」
「そういうことだ。しかも、耐性を得るまでは普通にダメージを受ける。正直、使い勝手がいいとは言えないな」
俺はため息を吐いた。
「聞けば聞くほど、俺たち全員、どこかしら問題を抱えてるな。まあ、低ランクなんだから仕方ないのかもしれないけどさ。ゼニススキルやアルティマスキルも、今のところ使えそうにないし」
「……そうですね」
リナも苦笑する。
俺は腰に差した剣へ目を落とした。
「この剣も、同僚から譲ってもらったお古だ。俺自身、剣の扱いに慣れてるわけでもないしな。今の俺にできることなんて、せいぜい前衛で盾になるくらいかもしれない」
申し訳なさを感じながらそう言うと、ヴィルが意外そうに尋ねてきた。
「剣、使えるのか?」
「まあ、ゲームで散々見てきたからな」
「ゲーム?」
「ああ。剣の使い方くらいなら、ある程度イメージできるってことだ」
俺は剣を抜き、手元で軽く振ってみた。
「これくらいなら……まあ、戦えるだろ」
もちろん、実際に剣を使った経験なんてほとんどない。ゲームで見た動きと、実際に命の懸かった戦闘とではまるで違うだろう。それでも、異世界に来てから何度か命の危険にさらされたことで、敵への対応力は少しずつ身についているはずだ。……そう思いたい。
「クックックックッ……」
「……ん?」
突然、後方から不気味な笑い声が聞こえてきた。俺たちは一斉に振り返った。そこには、黒いコートを着た男が立っていた。
「お前が……あのDランクだったのか」
「……誰だ?」
男は口元を歪めた。
「街で待ち続けた甲斐があったぜ。まさか、街に来た新人冒険者がDランクだったとはな……。しかも、俺を何の疑いもなく馬車に乗せるとは」
男の手には、大きなハンマーが握られている。
「――それが、お前らの死を招くことになるとも知らずにな」
「……!」
男はゆっくりとコートを脱ぎ捨てた。
「俺はBランクのチート能力者だ。てめえらなんぞ、この俺一人で十分なんだよ」
その瞬間、男の手に握られたハンマーが、唸りを上げながら巨大化していく。
「お前らを――あの方のもとへ献上してやる!」
「なっ……!」
次の瞬間、男は巨大なハンマーを振り上げた。
「吹き飛びやがれ!」
ズドォォォン!!
巨大なハンマーが、馬車目掛けて振り下ろされる。
「危ない!」
俺たちは咄嗟に馬車から飛び降りた。直後、轟音が街道に響き渡る。馬車は粉々に破壊され、地面には大きな窪みができていた。
「ひえええええっ!?」
御者が悲鳴を上げる。
「お助けー!」
「おい、待て!」
御者は俺たちを置き去りにして、全力で逃げていった。
「……マジかよ」
俺は呆然とその背中を見送った。
「運転手が逃げたぞ!」
「そんなことを言ってる場合じゃありません!」
リナが叫ぶ。
「来ます!」
敵は巨大なハンマーを引きずりながら、こちらへ向かってきていた。
「くそっ……!」
俺は剣を握り直した。
相手の武器は、俺の身体よりも遥かに大きい。あんなものをまともに食らえば、耐性があったところで無事では済まないだろう。どうすれば、こいつを倒せる……?
考えを巡らせていた、そのときだった。
「タツヤ!」
ヴィルが叫んだ。
「すまん!」
「え?」
ヴィルはリナへ視線を向ける。
「リナ!」
「はい!」
「今だ!」
「分かりました!」
「……は?」
二人のやり取りについていけず、俺が間の抜けた声を出した直後だった。
「タツヤさん、ごめんなさい! ヒールゥゥゥウウウウウー!!」
「タツヤ、すまん! いくぞッ!」
ゴンッ!
「グハッ!」
ヴィルの棍棒が、俺の頭に直撃した。
「ベハッ!」
続けざまに、リナの杖が俺の身体を叩く。
「痛っ! ちょ、待て!」
ゴンッ!
「グハッ!」
ゴンッ!
「ベハッ!」
痛い。めちゃくちゃ痛い。何を考えてるんだ、こいつら!?だが、その直後――。
《打撃耐性+1を獲得しました》
「……!」
目の前に見覚えのある通知が現れた。さらに、淡い光が俺の身体を包み込む。リナの治癒魔法によって傷が癒えた、その直後。
ゴンッ!
「グハッ!」
《打撃耐性+1を獲得しました》
「ベハッ!」
《打撃耐性+1を獲得しました》
「ちょっ、二人とも! 何してんだよ!」
「すまん、タツヤ!」
「ごめんなさい、タツヤさん!」
「ならやめろよ!」
「もう少しです! ヒールゥゥゥウウウウウウウ!」
「何が!?」
ゴンッ!
「グハァッ!」
痛い。痛すぎる。だが、リナがすぐに治してくれるおかげで、致命傷には至らない。殴られては治され、治されてはまた殴られる。そのたびに、目の前で通知が現れた。
《打撃耐性+1を獲得しました》
《打撃耐性+1を獲得しました》
《打撃耐性+1を獲得しました》
……俺、死ぬのか?
痛みと混乱で、頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
そうか……俺は役立たずだから殺されるんだ……。さっき二人が小声で話してたのも、きっと……
ゴンッ!
「グハッ!」
「……お前ら、さっき小声で話してたのって、闇の組織が現れたら俺をボコして囮に使おう、とかそういう話だったんだろ……」
「違います! もう少し辛抱してください!」
リナが涙目で叫ぶ。
痛い……
ゴンッ!
悲しい……!
そんな俺たちの様子を見ていた男が、高らかに笑った。
「クハハハハハ! 仲間割れか!? いいねえ、そういうのは大好きだぜ!」
男は巨大なハンマーを肩に担いだ。
「どの道、全員ここで死ぬんだぞ。まあ仲間同士で殴り合って、勝手に弱ってくれるのはありがたい話だがな!」
「タツヤ!」
ヴィルが叫ぶ。
「今からタツヤを吹き飛ばす!」
「え?」
「すまん!」
「ちょっと待て、どういう――」
「フンッ!」
ヴィルが棍棒を握りしめ、俺の身体を思い切り殴り飛ばした。
「グハァァァッ!」
俺の身体が宙を舞う。
「タツヤさん!」
地面が遠ざかり、視界の先には、巨大なハンマーを構える敵の姿があった。
「俺はお前を殺そうとしたんじゃない!」
ヴィルの声が響く。
「耐性をできるだけ上げてたんだ!」
「……!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は目を見開いた。
そういうことだったのか……!
さっきから二人が俺を殴り続けていたのは、俺の【適応】を利用して打撃耐性を高めるためだったんだ。リナの治癒魔法で傷を治し、ヴィルとリナが攻撃を繰り返す。そうやって、敵の攻撃を受ける前に、俺の耐性を可能な限り上げていたのか。
俺を……強化してくれてたんだ。
だったら、やるしかない。
俺は空中で剣を握り直した。
「うおおおおおッ!」
敵がハンマーを振り下ろす。
「死ねぇぇぇぇ!」
俺は剣を横に構え、刃ではなく、剣の面でハンマーを受け止めた。
「ぐっ……!」
ズガァァァン!!
凄まじい衝撃が全身を駆け抜ける。
「ぐおおおおおおっ!」
足が地面にめり込む。腕が痺れ、歯が砕けそうなほど食いしばった。それでも――。
「止め……るッ!」
俺は全身の力を振り絞り、ハンマーを押し返そうとした。
「なにっ!?」
男が驚愕の声を上げる。だが、まだ足りない。
「くっ……!」
徐々に押し負け、俺の身体が後方へ弾き飛ばされた。
「うわああああっ!」
ドサッ!
「タツヤさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ!」
俺は痛む身体を起こし、すぐに立ち上がった。確かに、さっきよりは耐えられた。だが、あの一撃を完全に受け止めるには、まだ耐性が足りない。敵は俺を見下ろし、嘲るように笑った。
「Dランクにしては、少しはやるようだな。だが、無駄だッ!」
男はハンマーをさらに巨大化させた。その巨体に見合うだけの重量があるはずなのに、男は軽々と振り上げている。あれが奴のチート能力なのだろう。
再び、巨大なハンマーが振り上げられた。
「タツヤさん!」
「分かってる!」
俺はヴィルとリナを振り返った。
「もっとだ!」
「え?」
「俺をもっと叩いてくれ!」
二人が目を丸くする。
「……本気ですか?」
「ああ! 今のままじゃ、あいつの攻撃を受け止められない!」
リナは一瞬ためらったが、やがて杖を握り直した。
「……分かりました!」
「俺もやる!」
「頼む!」
リナの身体から淡い光が溢れ、治癒魔法が発動する。
「ヒールゥゥゥウウウウ!」
「いくぞ!」
ゴンッ!
「グハッ!」
《打撃耐性+2を獲得しました》
ゴンッ!
「ベハッ!」
《打撃耐性+2を獲得しました》
「まだだ!」
「もう一発!」
ゴンッ!
「グアッ!」
身体に痛みが走る。だが、今は耐えるしかない。
敵が巨大なハンマーを振り下ろす。
「死ねぇぇぇぇぇッ!!」
「来いッ!」
俺は剣を横に構えた。
「うおおおおおおおおッ!」
ズドォォォォォン!!
巨大なハンマーが、俺を押し潰そうと襲いかかる。
「ぐっ……!」
足が震える。腕が軋む。だが、今度は違った。さっきまでなら、受け止めた瞬間に押し潰されていたはずの一撃。それを、俺の身体が確かに受け止めている。
いける……!
俺は歯を食いしばり、剣を握る手に力を込めた。
「止まれぇぇぇぇぇッ!」
剣の面で、巨大なハンマーを押し返す。そして――。
止まった。
「…………は?」
男の動きが止まる。
「俺の……渾身の一撃を……止めただと……!?」
俺は歯を食いしばりながら、笑みを浮かべた。
「確かに俺はDランクだ」
剣に力を込める。
「でもな――」
ヴィルを見る。リナを見る。
二人とも、俺を信じてくれている。
「今の俺には、仲間がいる!」
「……!」
「低ランク同士でも――」
俺は剣を一気に振り上げた。
「連携すれば、お前にだって勝てる!」
「なっ――」
ガキィィィン!!
巨大なハンマーが、宙へ弾き飛ばされた。
「ぐっ……!」
俺は地面を蹴り、一気に距離を詰める。
「これで――!」
剣を横薙ぎに振る。
「終わりだぁぁぁッ!」
ドゴォォォン!!
剣の面が男の身体を捉えた。
「ぐおおおおおおおおッ!?」
男の身体が、街道の彼方へ吹き飛んでいく。
「低ランクどもの……くせに……!」
男は悔しげに叫んだ。
だが、その直後――。
「ブオオオオオッ!」
「え?」
さっきまで俺たちを追いかけていたワイルドボアたちが、吹き飛ばされた男へ向かって突進していった。
「ぐはぁぁぁぁぁっ!?」
ドゴォンッ!
男はワイルドボアたちに跳ね飛ばされ、さらに遠くへと吹き飛んでいった。
「……」
「……」
「……」
俺たちは呆然と、その光景を見つめた。
……なんだ、今の。
まさか、最後の最後でワイルドボアに助けられるとは思わなかった。いや、助けてくれたというより、単に邪魔なものへ突っ込んだだけかもしれないが。
「と、とにかく……!」
リナが我に返り、周囲を見回した。
「ワイルドボアたちも、すぐにこちらへ戻ってきますよ! どうしますか?」
「俺に任せろ!」
ヴィルが前へ出て、手を伸ばした。
「――召喚!」
地面に魔法陣が浮かび上がる。
「来い!」
次の瞬間、ポンッという軽い音とともに、一匹のスライムが現れた。
「スライム?」
「俺と契約してるモンスターの一体だ」
ヴィルはスライムを見下ろした。
「まあこいつは、俺の命令を絶対に従わないんだけどな」
「さっき言ってたデメリットか」
「ああ。だが――」
ヴィルはニヤリと笑った。
「だからこそ、逆に利用する!」
「え?」
ヴィルはスライムへ向かって叫んだ。
「スライム! 俺たちを攻撃しろ!」
「ぷるぷる」
スライムが身体を震わせる。
「そして――」
ヴィルは迫り来るワイルドボアの群れを指差した。
「モンスターの加勢をしろ!」
「……」
スライムはしばらく黙っていたが、やがて大きく身体を膨らませた。
「来るぞ!」
「えっ!?」
ドンッ!
スライムが地面を蹴り、こちらへ飛びかかってきた。だが――俺たちの頭上を飛び越え、そのままワイルドボアの群れへと突っ込んでいった。
「……成功した?」
スライムは着地と同時に巨大に膨らみ、ワイルドボアたちへ覆い被さった。
「ブオオオオッ!?」
「ぷるるるるっ!」
ワイルドボアたちが暴れ回る。しかし、スライムはなかなか離れない。身体を伸ばして何頭ものワイルドボアをまとめて絡め取り、足止めしている。
「ははっ、うまくいったな!」
ヴィルが笑った。
「命令を聞かないっていうのも、使い方次第なんだな……」
「そういうことだ。まあ、毎回うまくいくとは限らないけどな」
ヴィルは少し疲れた様子で息を吐いた。
「とにかく、今のうちに離れるぞ!」
「ああ!」
俺たちは周囲を確認し、街道の先へ目を向けた。次の街までは、まだ距離がある。しかし、街道の先には小さな村が見えていた。
「あそこだ!」
ヴィルが村を指差す。
「村がすぐそこにある!」
「よし、あそこで一旦休もう!」
俺は頷いた。
「走るぞ!」
「はい!」
「おう!」
俺たちは村へ向かって、一気に走り出した。背後では、スライムとワイルドボアたちが激しくぶつかり合っている。
ひとまず、敵の襲撃は切り抜けた。しかし――俺たちはまだ知らなかった。この先にある村で、さらなる騒動に巻き込まれることを。




