↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート能力をもらって異世界に行ったら、全員チート能力持ちだった件  作者: ぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/37

10 異世界で仕事を始めました

 目を覚ますと、そこは昨日と同じ路地裏だった。


「……寒いな」


 俺は身体を起こし、壁に背中を預けた。どうやら、昨日はあのまま眠ってしまったらしい。


 今日はリナから教えてもらった職業案内所へ向かう予定だ。いつまでも路地裏で寝ているわけにはいかない。仕事を見つけて、まずは自分で生活できるようにならなければ。そう考えて立ち上がったところで、ふと違和感を覚えた。


「……あれ?」


 何かが足りない。昨日、ガルドさんから渡されたものを一つずつ確認する。スマホはある。母さんからもらった鍵もある。だが――。


「モンスター図鑑がない!」


 慌てて周囲を見回した。昨日、確かに持っていたはずだ。異世界の魔物について知るための大切な本で、昨日のワイルドボアとの戦いでも役に立った。あれがなければ、魔物の能力を知ることすらできなかったかもしれない。まさか、寝ている間に盗まれたのか?


 俺は路地裏の奥へ視線を向けた。すると、遠くで二人の子供が走っているのが見えた。そのうちの一人が手に持っているものを見て、俺は目を見開く。


「それ……俺のモンスター図鑑じゃねえか!」


 二人は俺の声に振り返った。一瞬だけこちらを見ると、顔を見合わせ、そのまま逃げ出した。


「待て!」


 俺もすぐに追いかける。


 くそっ、朝から何なんだよ!モンスター図鑑は、この世界で生きていくために必要な大切なものだ。昨日だって、あの本があったからワイルドボアの能力を知ることができた。こんなところで失うわけにはいかない。


「おい! 返してくれ!」


 必死に追いかけていると、前を走っていた子供の一人が突然立ち止まった。


「……ん?」


 何をするつもりだ?


 俺が警戒した次の瞬間、子供がこちらへ手を伸ばした。


 バチッ!


「――っ!」


 頭上から雷が落ちた。


「ぐあっ!」


 全身を駆け抜けるような衝撃に、俺はその場に膝をついた。


《電撃耐性+4を獲得しました》


「ぐっ……!」


 痛い。だが、意識を失うほどではない。


 顔を上げると、子供は得意げに舌を出していた。


「べーっ!」


「……お前なぁ!」


 能力を使ってまで逃げる気かよ!


 二人は再び路地裏の奥へ走り出した。俺は痺れる身体を無理やり動かし、その後を追いかける。


 くそっ、足がまだ少し痺れている。けど、ここで諦めるわけにはいかない。


 やがて、子供たちの足が止まった。その先には、一人の女性が立っていた。


「お母さん……」


 どうやら、この二人の母親らしい。女性は俺の姿を見ると、すぐに子供たちの前へ歩み寄った。


「あなたたち……何をしたの?」


「……」


 二人は気まずそうに俯いた。


「その人に謝りなさい」


「でも……」


「謝りなさい」


 母親の声は厳しかった。子供たちは渋々こちらを向く。


「……ごめんなさい」


「……ごめんなさい」


 俺は少し驚いた。てっきり、もっと悪びれない悪ガキなのかと思っていたからだ。


「どうしてこんなことをしたの?」


 母親に尋ねられると、二人はさらに俯いた。


「……欲しいおもちゃがあったから」


「おもちゃ?」


「うん……。お金がなくて買えなかったから……」


 どうやら、盗んだものを売り、そのお金で欲しいおもちゃを買おうとしていたらしい。もちろん、だからといって盗みが許されるわけじゃない。けれど、二人の様子を見ていると、単に面白半分で盗みを働いたわけでもなさそうだった。


「私が一人でこの子たちを育てていますから……」


 母親は苦しそうに話し始めた。


 父親は以前、この街の近くで仕事をしていた最中に魔王の手下と遭遇し、命を落としたらしい。それ以来、母親は一人で二人の子供を育てているのだという。


「だからって、人から物を盗んでいい理由にはならないわ」


 母親は改めて子供たちを叱った。


 俺は何も言えなかった。確かに、やったことは悪い。俺だって、モンスター図鑑を盗まれたのだから、腹が立っている。それでも――。父親を亡くし、母親一人で子供二人を育てている。おもちゃ一つ買うのも難しいほど、生活に余裕がないのだろう。


 俺は二人を見つめてから、ポケットに手を入れた。


「……これ、やるよ」


「え?」


 俺が取り出したスマホを見て、二人の目が丸くなった。


「金にはなると思う。電源は切れてるけど、売れば多少は足しになるだろ」


「本当に……?」


「ああ」


 俺はスマホを子供たちへ差し出した。元の世界では、毎日当たり前のように使っていたものだ。ゲームもできるし、連絡も取れる。けれど、この世界では充電する手段もない。いずれ使えなくなるのなら、少しでも誰かの役に立つほうがいい。そう思って渡したのだが、一人の子供がスマホを両手で持ち、不思議そうに眺めた。


「これ……どうやって使うの?」


「電源は……って、ん?」


 その瞬間、スマホの表面を小さな光が走った。


「え?」


 画面が点灯した。


「すげぇ……!」


 二人は驚いた様子で画面を覗き込む。


 ……いや、ちょっと待て。もしかして、さっきの電撃で電源が入ったのか?俺はスマホを受け取り、画面を確認した。間違いない。普通に起動している。


「まさか、電気を流したから動いたのか……?」


 元の世界でも、こんな使い方をしたことはない。そもそも、スマホに雷を通すなんて普通は考えもしないだろう。故障していないか気になったが、画面は問題なく動いている。俺は少し迷ったあと、スマホに最初から入っていたオフラインでも遊べるゲームを開いた。


「じゃあ、これで遊べるぞ」


「本当!?」


「ああ。ここを押すんだ」


「こう?」


「そうそう。それで敵を倒す」


「すごい!」


 二人は夢中になって画面を見つめ始めた。


 どうやら、売るよりも遊ぶほうがよくなったらしい。まあ、そりゃそうか。見たこともない機械があって、しかもゲームまでできるんだ。子供なら夢中にもなるだろう。母親も、楽しそうに遊ぶ二人を見て、ようやく少しだけ表情を和らげた。


「ありがとうございます……」


「いいって。俺も、あの本を返してもらえたしな」


 俺はモンスター図鑑を受け取り、軽く持ち上げた。


「ただ、もう人の物を盗むなよ。次はこんなふうにうまくいくとは限らないからな」


「……うん」


「わかった……」


 二人は素直に頷いた。


 これで少しは懲りてくれるといいんだが。


 俺は母親に軽く頭を下げ、その場を離れようとした。だが、ふと先ほどの話が頭をよぎる。魔王の手下に殺された父親。この世界では、そんなことが珍しくないのだろうか。


 俺は拳を握った。


 この世界に来て、まだ四日目。自分の能力のことも、この世界の常識も、分からないことだらけだ。昨日だって、ワイルドボアに吹き飛ばされて、何もできなかった。そんな俺が、魔王を倒すなんて口にするのは無謀なのかもしれない。それでも――。


「……魔王か」


 もし、何かの運命の気まぐれで冒険者になれたなら、いつか俺が魔王を倒してやる。そうすれば、魔王のせいで大切な人を失う人間を、少しでも減らせるかもしれない。もちろん、今の俺にできることは現状何もないし、簡単に成し遂げられることでもないだろう。だからこそ、まずは自分の生活を立て直し、力をつけることから始めよう。


 俺はモンスター図鑑を抱え直し、職業案内所へ向かった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 職業案内所は、グランツの街の一角にあった。


「冒険者以外にも、こんなに仕事があるのか……」


 建物の中に入ると、職員がさまざまな仕事を紹介してくれた。農作業、荷物運び、清掃、店の手伝い、街の整備。冒険者としてモンスターを倒す以外にも、働き口はいくらでもあるらしい。


 元の世界でも仕事を探した経験はあるが、まさか異世界で同じことをするとは思わなかった。俺は就活に不安を感じつつも、紹介された仕事の内容を一つずつ確認していく。できるだけ危険が少なく、今の自分でも続けられそうな仕事。その条件で選んだ結果、俺が希望したのは街のゴミ回収だった。


「ゴミ回収なら、冒険者みたいにモンスターと戦う必要もないですからね」


「そうだな。まずは生活を安定させることが大事だ」


 今の俺に必要なのは、無理をして強敵に挑むことじゃない。食事と寝る場所を確保して、地道に能力を鍛えていくことだ。


 職員は仕事の説明を終えると、続けて住む場所についても教えてくれた。


「低ランクの方には、こちらの社宅を利用していただくこともできます」


「社宅?」


「はい。家賃は無料です」


「無料……!」


 その言葉に、俺は思わず反応した。昨日まで路地裏で寝ていた身としては、無料で住める場所があるだけでもありがたい。


 さっそく案内された建物へ向かうと、そこには同じように低ランクの能力者や、仕事を始めたばかりの人たちが暮らしていた。


 ただし、想像していたような個室ではない。一つの部屋を数十人で共有する、いわゆる雑居部屋のような場所だった。床はかなり汚れていて、冒険者たちの荷物もあちこちに散乱している。誰の物なのか、一目では分からないものまであった。


「……まあ、無料ならいいか」


 贅沢を言っている場合じゃない。少なくとも、雨風をしのげる場所で眠れる。それだけでも、路地裏で一晩を過ごした昨日よりはずっとましだ。


 俺はその社宅を利用することにした。


 さらに、寝具や衣類、食器など、最低限の生活用品も支給されるらしい。必要なものを受け取っていくうちに、ようやく少しだけ生活の形が見えてきた気がした。


「では、仕事場へ案内しますね」


「お願いします」


 こうして俺の異世界生活は、冒険者とは少し違った形で動き始めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 街の外へ出ると、俺と同じ仕事をする男が一人待っていた。


「今日から一緒に作業することになった方です」


 職員がそう紹介すると、男は軽く頭を下げた。


「よろしく。俺はヴィル。元冒険者の召喚士だ」


 俺よりずっと若く見える青年だった。少し長めの黒髪に、落ち着いた雰囲気。服装も冒険者らしい装備ではなく、動きやすそうな簡素なものだった。


「こちらこそ。俺は綾瀬達也。タツヤでいいよ」


「タツヤか。よろしくな」


 挨拶を交わしたところで、俺は気になっていたことを尋ねた。


「元冒険者ってことは、何か事情があって辞めたのか?」


「ああ。召喚士をやってたんだけどな。まあ、色々あって辞めた」


「召喚士?」


「モンスターと契約して、召喚する職業だよ」


 俺は思わず興味を持った。モンスターを召喚して戦わせる。ゲームなら何度も見てきた職業だが、実際に存在するとなると話は別だ。


「じゃあ、強いモンスターも呼べるのか?」


「契約できればな。でも、俺の能力じゃそう簡単にはいかない」


 ヴィルは苦笑した。


「召喚士も楽じゃないんだよ」


「なるほどな……」


 能力があれば何でもできる、というわけでもないらしい。そもそも、この世界ではチート能力を持っていても、ランクによって制約があると聞いたばかりだ。ヴィルにも、何か事情があるのかもしれない。


 もっと詳しく聞きたいところだったが、まずは仕事だ。


 俺たちは街のゴミを回収しながら、いろいろな話をした。ヴィルが冒険者だった頃のこと、召喚士という職業のこと、そしてグランツの街での暮らし。


 話してみると、ヴィルは思っていたよりも気さくな男だった。初めての仕事で分からないことも多かったが、彼が教えてくれたおかげで、どうにか作業を進めることができた。気がつけば、仕事が終わる頃にはすっかり打ち解けていた。


 冒険者を辞めた理由については、まだ詳しく聞けていない。けれど、無理に聞き出すことでもないだろう。いずれ話してくれることがあれば、そのときに聞けばいい。仕事を終えた俺たちは、一緒に社宅へ戻った。


「今日は疲れたな」


「ああ。でも、明日も仕事だ」


「そうだな」


 同じ部屋に荷物を置き、俺たちは大浴場へ向かった。仕事で疲れた身体を引きずりながら浴場に入り、湯船に浸かる。


「……はぁ」


 思わず息が漏れた。全身の力が抜けていく。異世界に来て四日目。昨日までは路地裏で寝ていたのに、今日は仕事をして、風呂にまで入っている。たった一日で、ずいぶんと状況が変わったものだ。


「……大変だったけど、身構えてたわりには仕事も大したことなかったし、異世界の生活もいいもんかもしれないな」


 もちろん、楽なことばかりじゃない。魔物に襲われる危険もあるし、俺の能力だって、まだ分からないことだらけだ。それでも、こうして働いて、食べて、眠る。そんな当たり前の生活を自分の力で築いていくのも、悪くないと思えた。


 風呂から上がった俺は、支給された布団に潜り込んだ。


「……疲れた」


 目を閉じる。


 今日は、ぐっすり眠れそうだ。異世界に来て四日目。俺は初めて、安心して眠りについた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もし「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら評価やブックマークをしてもらえると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。