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「いやー、図式もなにも、だって御手洗くんだしさ?」
まさかとは思うが、琴吹まで俺のことをそんな目で見てんのか? あの慈愛の琴吹珠美が?
この機会にはっきり確認しておこう。
「なあ、琴吹。俺って、変態なのかな?」
「えぇ? 急になにを言いだすの、御手洗くん」
「いやー、それがな。疲れた理由のひとつでもあるんだが、俺は昨日、変態って言われたんだ」
「うんうん、そうなんだ――って、え?」
「それも『やっぱり変態』ってな。この『やっぱり』ってのは予想どおりって意味の言葉だろ? 成績優秀で品行方正のクラス委員――琴吹たまちゃんはこのことについてどう思う?」
琴吹は「たまちゃんはやめて」と言ってから、目を閉じて「うーん」と首を傾ける。
「それは……言葉どおりにその人からして『やっぱり』ってことなんだと思うけど」
「それはつまり、そいつは俺を一目見てすぐに変態だと思ったってことか?」
「御手洗くんの説明を聞く限りだと、そうなんじゃないかな? ちなみにその人って、夜明ちゃんじゃないんでしょ?」
「あ、ああ、もちろん。はじめて会話したやつだった」
実際には夜明にも言われてるんだけど。どうしようもなく救いようがない変態ってな。
俺の説明に「初対面ですごいこと言う人だね」と苦笑する琴吹。そうなんだ、すげー失礼な女なんだ。ちなみに信じられないだろうけど、同じクラスにいるんだよな。
「でも、そうなってくると、一目見てそう思ったっていうのは、間違いなさそうだね」
まあ、そうなってくるよな。
夜明は一緒に生活しているから気配を感じ取っていてもおかしくないが、有栖川はなにを持って俺の見た目から変態だと想像したんだろうか。俺は妹と仲睦まじく帰宅していただけだ。むしろ変装というよりは自らが変質者になっていた有栖川のほうが変態だったじゃないか。
「ちなみに琴吹は、俺を変態だと思ってるのか?」
「御手洗くん!? あたしになんて言えと?」
「いや、べつに変態だと罵って欲しいって言ってるわけじゃないぞ?」
「あ、そうなの?」
「……おい、琴吹。なんでちょっと残念な感じの反応してんの?」
そんな地味な見た目して胸に凶器を隠し持っているように、いたいけな男に罵声を浴びせて愉悦に浸る嗜虐的な性癖でも持っているのか。大喜びする層がいそうだな。俺は違うけど。
「ち、違うよ! ただ、どうしてまた疲れるようなことを再確認したいのかなって思って」
「……それ、俺のこと変態って認識してるってことじゃん!」
しまった! みたいな感じで口元に手を持っていく琴吹。
「ち、違うんだよ、御手洗くん!?」
「いや、いいんだ。俺は琴吹にすら変態だって思われるような変態なんだ。どこまで行っても変態なんだ。きっとマリアナ海溝に行っても変態って言われてしまうんだ……」
「いったいなにを言っているの!?」
自分でもわからん。いったい俺は、なにを言っているんだろうな?
「しかしさ、おかしな話だとは思わないか、琴吹。少なくとも俺は、よこしまな思いは胸に秘めるタイプで、決して表には出していないはずなんだけど」
「もう、御手洗くん。そういうところがやっぱりなんじゃないかな?」
「待て、待て。琴吹は俺との付き合いがあるからこそ、普段の俺という先入観に惑わされてるんだ。……それはそれで問題なわけなんだが。だって俺、変態じゃないし」
「えーと、つまり?」
「いまこの瞬間、俺とのこれまでの想い出はすべて忘れてくれ!」
琴吹は「う、うん?」と困惑した様子ながらも、ひとまずは頷いて先を促してくれる。
「つまりだな。事前情報なくして俺を見たとして――はたして琴吹は、俺を変態だと感じるかどうかを判断して欲しい。さあ、どうだ?」
そう言って、俺は気持ちキメ顔を作って琴吹の目をまっすぐに見つめる。
「「…………」」
先述したが、琴吹珠美という女子はあくまでも地味に見えるというだけで、それなりに整った顔立ちをしている。ゆえに、まっすぐに見つめ合うと気恥ずかしさが芽生えてきた。
「ど、どうだ? 俺は変態に見えるか?」
面映ゆさに耐えられず、俺は努めて顔が赤くならないよう注意しながら訊いた。
琴吹は「うーん」とひと唸りしてから言った。
「とりあえず、変顔はやめてもらってもいい?」
「してねーよ!? どちらかと言えばキメ顔のつもりだったんですけど!?」
「えぇ!? そうだったの? ごめん、御手洗くん。気づいてあげられなくて……」
琴吹のその言葉に俺が「どういう意味だ!」と突っ込みをいれようと思ったその瞬間――、
「ぷっ!」
俺でも琴吹でもない噴き出した声。我慢しようとしたけど、できなかったときの笑い声。
ここは教室だ。べつのグループで行われていた会話での笑いにしてもやけにタイミングがいい。俺は椅子に座ったまま首を伸ばすようにして、琴吹の後ろ――声のしたほうを確認した。
なるほど、こいつか。
有栖川伊織――悪女がそこにいた。
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