第二話 次の一手
日が傾きかけた夕方。ライクたちはダーツェや調たちとも合流して駅前に来ていた。
随分と人の流れの多い駅だ。それに似あった大きさと路線を持っているため、会社帰りに降りてくる人間でごった返し、駅中に入るのも困難になるくらいの規模で人の通る動線はめちゃくちゃとなっている。
さらに、中はショッピングセンターも書くやと言わんばかりにたくさんの商業施設が入っていて、目の前にあるデパートも含めると、一つの大きな複合娯楽施設だと思えてしまう。そんな駅を前にして、ララと鳴は戦々恐々とし、顔色を青く変えていた。
「まさか、路上ライブをすることになるなんて……」
「はい、ひ、人前で歌うなんて、き、緊張します」
当然ライクの発案である。明日、この駅前でDGエンジェルズの路上ライブをする予定にされてしまったのだ。一件突拍子もないような行動に思えるのだが、しかし自分たちが最初に出たところがまず動画サイトという見る人が限定的なところであったことに少し問題があると彼女は感じたのだとか。
そのため、不特定多数の多くの人間が乗り降りしているこの駅前で路上ライブをしよう。という話になった。最初は却下しようと思ったララと鳴だが、その場にいた同級生一同にも賛成されてしまったため、結果なすすべもなく路上ライブをすることとなった。
曲はライクの作った物とそれからホコリが作った物の二曲を披露する事になっている。が、ソレ以前の問題がある。
「こんな人が多いところで歌って大丈夫? 邪魔にならないかしら?」
牟六があたりを見渡し、ごった返す人々を見る。確かにここまで人通りのある場所であの歌とダンスを披露するともなるとかなりのスペースを取らなければならないし、道行く人々の邪魔になるのは確実の事。
あと、ついでに言えば自分たちのダンスは子供たちにはあまりお勧めできない振り付けが混じっているのだが、その辺り考えて居るのだろうか。
「いいのいいの、駅前でギターとか南米の民族楽器みたいなの弾いてる人よくいるでしょ?」
「前者はともかく、南米の民族楽器って何?」
「民族楽器は民族楽器!」
この、話を適当に流している様子から察するに何も考えて居ないようだ。まったくこれだから福宿来求という人間が時々分からなくなる。大胆な行動をとったかと思えばそれ以上の事を考えてないし、かと思えば静観しているうちに自体が好転するという事もある。
まぁそんな彼女の戦友になるというのを決めたのは自分達だからもはや何も文句を言うべきではないか、ホコリを含めて全員が諦めの境地に達していた。
というか民族楽器って本当に何の話だ。
「とにかく」
話を遮ったライクは、牟六と鳴の二人を指差して指示を出す。
「牟六、鳴! 告知頼んだらから!」
最終的には自分達だよりですか。牟六と鳴はため息をつく。
「全く、生きてる人間を酷使してもらいたくないわ」
「私も手伝いますから、牟六さん、鳴さん」
そう、言葉を繋げたのは調だ。彼女は前にライクに送られたイヤホン、そして牟六と鳴が普段付けているサングラスを着用していると言う万全の“半死人”状態。半死人に万全、と言うのもどうかと思うが。
「調さん……助かるわ、他人に仕事を押し付ける悪霊に比べれば、貴方は本当に天使に見える……と、スケッチブック……と」
なので、彼女との会話は手に持ったスケッチブックを使わなければならない。彼女にとっての生きている人間の声という悪魔の叫びは届いていないのだから。
そう考えたホコリではあったが、調は竹藪を流れる風のような穏やかさのこもった笑い声を交える。
「大丈夫です。私についていてくれている天使の子が、教えてくれますから」
「メアリー、ジョン、アントシアニン。調との会話の伝達要員と話し相手に輸送班から借りたの」
「……一応聞いておくけど、本名よね?」
「本名が長かったから私がコードネーム付けた」
「……」
「そんな目で見ないでよ。元々の名前が長すぎるから愛称として付けただけだし。あ、因みに皆女の子だから」
「女の子にアントシアニン?」
「ジョンの方じゃなくてそっちが気になるんですか?」
名は体を表すとは日本の言葉である。名前とは人間そのものを意味し、また人間が自分という個を認識するために必要な物だ。そこには親がそう名付けてくれたと言う大切な理由があるし、なおかつそれで呼ばれ慣れているという人間が大多数のはず。ソレを勝手に変えた上に変な名前を付けるなんて。
確かにララの言う通りジョンという名前も気になった。しかし、なんでアントシアニン。黒豆とかに入っている目の健康保持や老化防止の作用を持っている物質の名前を付けた。この辺りのネーミングセンスのおかしさもまた、ライクの悪いところ。
とにかく、そのメアリーとジョン、あとアントシアニンの三名に関しては同情するしかないとして、話を戻す。
「にしても悪霊はひどいんじゃないほこりん?」
「今その話に戻るの?」
「タイミングがなかったの」
「私たちからしたら、ほこりん先輩も十分悪霊ですけどね」
「フフ……」
「ララちゃん?」
ララはその様につい、笑ってしまった。勿論、二人が悪霊呼ばわりされた事に面白がっているわけではない。
「ごめんなさい。なんだか楽しくて、こんな楽しい生活が、毎日続けばいいなってそう思ったんです」
トガニンと戦いながら、でもこうして女子校生らしくたくさんの友達と出会って、ちょっと変わったアイドル活動なんてものをして、そんな生活がもっと長く続けばいいのに、そうララは思った。
茜色に染まった、その空を見上げながら。
「ララちゃん……」
「それって……」
「俗にいう……」
「フラグ、だね」
「え?」
誰がどう考えても嫌な予感しか感じない単純な言葉を発する。ある意味でこの子の天然さはライクを凌駕する悪魔的な物なのかもしれない。そう、その場にいる人間全員が思ったと言う。
その頃、某駅に向かっていた電車の中。
「先輩、次の駅、ですね」
「えぇ、でもこの駅で降りるわよ」
「え?」
その言葉に、少女は不思議な顔を浮かべた。一駅分歩くのは問題ないのだが、一体どうして直接電車で殴り込みに行かないのか。
「電車で町に入らず、徒歩で町に入りたいの念の為に、ね」
答えは念のために、だ。もしも≪あるタイプ≫が自分の思っている物であるとするのならば、電車で直接あの町の中に入り込むのはリスクが高すぎる。
なので、一度隣駅で降りてから街の方に向おう。そう判断したのである。
幸か不幸か、隣駅と例の町との境目はすぐ近くにある。歩いてもそこが知れているので心配はいらないだろう。
二人の女はこれまた帰宅ラッシュにある人の流れに飲まれて駅に降り立った。そして、そのまま出口に向かい、自分たちが向かう方角がどっちなのかを確認する。
特に少女の方。彼女は根っからの方向音痴であり、そのために駅にこうして降り立つたびにここがどこなのか、自分がどこに向かうべきなのかを毎度のように確認しているらしい。
因みに本人曰く。
『道は間違えても、今まで自分が歩んできた道に後悔はありません!』
だそうだ。よく分からないのだが、とにかく本人がいいと思っているのならいいのであろう。
とりあえず方向を確認した彼女たちは、駅前から離れると神江の街の方に向う。
しかし夕方、か。色々と大丈夫なのだろうか。女性は何か不安のようなものにかられた。
「どうしたんですか先輩?」
「いえ、ちょっと……」
そう、ちょっと気になるだけだ。でも、それがとても気になる、に至るまでにどれほどまでの時間を要するか。
一瞬の判断、それは命取りとなる。一瞬の迷い、それが致命傷となる。ソレを彼女は理解していた。だからこそ、だ。
彼女は知らない間に町の路地裏に来ていた。少女も知らない間にゆっくりと歩を進めて、暗く、狭くて窮屈な場所に辿り着くと、そこにはーーー。
「また会ったわね、どすぐらい闇……」
黒い体に凶器を持った異形の存在がいたのである。




