第一話 ファーストインパクト
DGエンジェルズ、アイドルとしての彼女達は学校終わりの放課後、自分たちが控室と呼んでいる学校の一教室に集まっていた。
壁には、≪目指せ! 日本一のアイドル!≫なんてどこかの野球強豪校のような旗を掲げていてララと鳴は少し恥ずかしいと思ってた。これは、ライクが作ったそうなのだが、一体いつの間にそんなことしていたし、一体いつの間に教室に持ち込んだのかが不明の恐ろしい物。
さらにそのための目標なども色々と掲げられている。ララのように≪歌が上手になる≫からはじめ、鳴の≪ダンスが上手になる≫、牟六の≪大事な人に届くように歌う≫。そして調の≪DGエンジェルズが皆の心に残るような楽曲を作る≫に至るまで。達筆で書かれているのは、全てホコリが書いてくれたからだ。調は、学校の人間でないのでここにはいないが、しかしその志は共にあると、そう言ってくれている様でララは心強かった。
因みに、残りのDGエンジェルズ三名は目標を掲げていなかった。別に他人に言ってもどうとなるわけではない、という二人。それとダーツェは極力現世に関与しないようにしたいかららしい。この時点で既に十分関与していると思うのだが、それはともかく。
内装として特筆すべきことと言えば、後は椅子とテーブルとそれからパソコンが人数分あることくらいか。まったく、簡素なのだか派手なのだかどちらかに決めてもらいたい者である、というのがララのこの教室を見た時の第一感想。
「は、反応はどうだったんですか?」
そして、次はパソコンの向こう側にいる人たちの第一感想が気になった。ホコリはパソコンの動画投稿サイトのコメント欄を上から下まで見回すとため息をつく。
「賛否両論ね」
他の面々が同じようにそのパソコンを覗き込む。すると、そこには―――。
≪アイドルにしては歌詞が物騒すぎる≫
≪あまりアイドルらしくない≫
≪怖すぎる≫
≪振り付けが卑猥≫
等のコメントが載ってあった。別にがっかりするわけではない。むしろ全部が全部予想通りで、あぁやっぱりですかというのがララ達の中でひしめき合っていた。
特に振り付けだ。ライクが提案した物だったのだが、ソレを見た瞬間自分たちは赤面した。理由は説明するのも憚れることなのだが、とにかくあまり淑女としては褒められた振り付けだった。ライクが言うにはアイドルグループのダンスではなく、とある小屋のダンスを参考にしたと言う。小屋ってなんのこと、と聞いてもララちゃんにはまだ早いと言われる始末だったので、結局なんのことかわからずじまいだ。
しかも、これでまだ一番だけ。ライクが言うにはフルバージョンがあるらしいのだがソレが投稿された暁にはさらに非難されるのは間違いないだろうとも言う。
一体どんなダンスを踊らされるのか、そう不安になっていた時だ。
「でも」
「ライク!」
「え?」
ホコリの言葉を遮るように廊下から続くドアの向こう側から数人の生徒が現れた。何人か見覚えがある、というかララ達のクラスメイトである。考えてみればDGエンジェルズは、完全部外者の人間とホコリを除けば全員が同じクラスの人間で出ているのだなと改めて感じたララ。
それはともかく、だ。どうやら自分たちがこの教室を根城、じゃなかった控室としていたことが学校中にようやく知れ渡ったのだろう。生徒の一人が代表する。
「動画、見たよ! すっごく格好よかった!」
「すごく歌、上手だったよ!!」
「あ、ありがとうございます……」
「そんな、褒められるようなことは……」
クラスメイトからの賞賛を受けて照れるララと鳴、そしていつも通り壁際でたたずんでいるだけのライクとそれに付き添って、というか真似て壁際にいる牟六。
そして、そんな少女たちを見ながらホコリがフッと笑った。
「アイドルらしくないダークな一面に引かれている人も、こんな感じで多いみたいよ。それに、歌唱力についてもね」
確かに、アイドルグループという響きと反比例するようなダークな一面と言うのは、強みの一部なのかもしれない。それに歌唱力も、彼女たちの歌唱は見ている人間たちの心を突き破り、天に昇るかの様に気持ちのこもった物である。
第一印象はダンスの振り付けのおかげでバッチリと言っても過言ではないし、一人歌唱力でやや劣っているララもコツさえ掴めば他のメンバー同様の歌声を響かせられる。
そんな面々で歌っているのだ。今はまだこうして地道な活動となってはいるが、いつかは―――。
「私たちの歌声が、世界中に響くといいわね……」
「ホコリン、自画自賛も過ぎると自惚れになるよ」
「言ってみただけよ。別に、自分の歌声に自信を持っているわけじゃない」
「でも、ホコリ先輩の歌声も、凄く感情が籠ってて痺れました! だよね、皆!」
『はい!』
「そう、ありがとう」
後輩一同に褒められたホコリはしかしいつものように笑みを浮かべることなく髪をファサッと書き上げると、周りを見渡す。
「私だけじゃない。みんなの声があったから、いい歌になる……裏方たち含めて、ね」
虚空を見つめるその行動、はたから見れば変人の取る者として他人には映るかもしれないが、当然この学校の生徒は違った。
「裏方って……もしかして、幽霊たちにも協力してもらっているんですか?」
「えぇ、そうよ」
「流石! 霊感持ちはやることもダークでいいね!!」
「普通怖がるところじゃありません?」
自分がおかしいのだろうか、ララはそんな反応を示した。この学校の生徒たち皆がライクとホコリの二人が霊感持ちであることを知っている。故に、普通の人間だったら悲鳴をあげてもいい様な事にすら肯定してしまう。少し感覚が麻痺しているのではないだろうか。
ついでにいうと、実際には幽霊ではなく天使なので、彼女たちが思っているのとは少し違うのだが、しかしソレを指摘するしないにしても特段問題ではないためここはスルーしておくとして、だ。
「ところで、ダーツェちゃんって子は近くの小学校の子なんですか?」
「なんだか、海外の子みたいだったけど……?」
「あ、えっと……」
やっぱり聞かれるか。さて、彼女の事はどう答えるべきか。まさか馬鹿正直に天使だ、なんて言えないしごまかしたとしても後で色々と面倒になりそう。とララが考えていると。
「あぁ、あの子その辺歩いていた時に見つけて拉致してきた」
ライクが爆弾発言をする。流石にそれは無理があるのでは。
「あ、そうなんだ」
「それで納得できるの!?」
「残念ながら、できちゃうんだよねぇ……」
「フフ、ララちゃんはまだまだライクとの付き合いが短いからねぇ」
自分も今までにライクの突拍子もない行動や言動に驚かされてきたから、確かに考えてみればそれくらい当たり前にやってのけそうと言うのが頭を横切ってしまう。自分のキャラと性格で押し切ろうとするその心意気は流石と言っていいだろう。
その後、しばらく雑談している最中だった。ライクは動画のコメント欄を見ながら自信たっぷりの笑みを浮かべる。
「ふぅん、やっぱり身体目当ての人間はいるみたい」
「え……」
その言葉に、ララ達がコメント欄を除くと。
≪ライクちゃんセクシー!≫
≪○○がお世話になります!≫
≪あぁ、もっとかがんでもらえれば○○が見えるのに≫
等など、いかにも卑猥と言わんばかりのコメントが羅列されていた。
「まっ、これも狙いの一つだけどね」
「え、まさかそのための振り付けだったんですか?」
「そう。まさか、私がただの趣味であんな下品な振り付け考えたと思ってるの?」
「え……えっと……」
自白すると少しだけ思っていた。だってライクだから。
ともかく、振り付けに関しては完全にライクの作戦だったそうだ。幼児体型のダーツェを除いた他の面々はライクも含めて容姿端麗。だからこそ、ちょっとだけ淑女としてははしたないと言われても仕方のない振り付けを入れ込んだ。おかげでこうして変態がわらわらと寄って来てくれる。
この振り付けだ。きっとソレ見たさによって来る男たちがどんどんと出て来て、自分たちの話題を四方八方に広げることになる。
不幸中の幸いにも、ダーツェやララ以外の面々はそう言った振り付けをしてもあまり恥ずかしがることがなかったため、臆面もなくやってくれたし、逆にララの恥ずかしそうな顔つきが男たちの目に留まったのかもしれない。
なんにしても、コレで自分たちの知名度を上げる下準備はできたと言う事だ。ライクはその場にいる面々に宣言する。
「これで、私たちは出るところに出た。もう後戻りはできない。ここから地道にアイドル活動、そして≪ベストアイドルコンテスト≫優勝まで突っ走るよ!!」
『オー!!』
「はいはい」
「ま、ここまで来たら引き下がれないよね」
ララと鳴の二人は元気よく、ホコリと牟六の二人はあきれ顔で、そして一般生徒たちは互いに顔を見合わせて言った。
「実は、私たちDGエンジェルズのファンクラブを作ろうって思っているんです!」
「ファンクラブ?」
「はい!」
ファンクラブというと、あれか。芸能人やスポーツチームで作られるファンの団体の事か。確かに作ってもらえるのは嬉しいが、何だが逆にそこまでしてもらわなくてもという気持ちになって―――。
「お、いいね! 自発的に作ってくれるのは心強い! そうだ、なんならそのファンクラブの子からもDGエンジェルズのメンバー募集しようか!」
「本当ですか! よし、頑張るぞ!!」
『オー!!』
るわけがこの少女にあるわけない。ある意味で予想通り過ぎるライクの反応にもはやツッコミすらもしなくなったララ達。というか、本当にこれ以上メンバーを増やすつもりなのだろうか。
いや、彼女は本気だ。だって彼女が言いだしたことで止まった事なんてほとんどないのだから。ホコリはとりあえずため息をつくと彼女に聞いた。
「それで、具体的にはこれからどうするのかしら?」
動画も出したし、ファンクラブという後には引けない要素も追加された。ここから先、どうやってアイドル活動をしていく予定なのか。
ライクは晴々とした顔をする。
「そんなの決まってるでしょ!」
嫌な予感はしなかった。なぜなら、そんな物常にしているから。だから、ララ達はその後の言葉を聞いても言葉が出ないだけで反対することはなかった。




