第二十七話 敵
三人は、集まると互いに頷いて、それぞれのエンバーミング・グロスを取り出した。
「「「≪エンバーミング・グロス≫!!」」」
彼女たちは、その二つの≪グロス≫を≪クロス≫させるように突き合せた。その瞬間、グロスの先端が光はじめ、一本の巨大な光の線が、トガニンに当たった。
その瞬間、≪裁判≫の始まりである。
瞬間、闇の空間に木づちの耳障りノいい音が聞こえて来た。
「静粛に! これより、トガニン№第零四一番の裁判を始める」
一人の桃色髪の少女。クライムが暗闇の向こう側から現れ、トガニンに向けて一枚の紙を見せた。
「トガニン№第零四一番。あなたは本世界において一人の人間を殺害し、さらに犯行を重ねようとしました。よって……刑法第2編26章に定める、刑法199条。殺人罪の適応が適切かと」
クライムの言葉に、頷いたパニッシュは言う。
「弁護人、異義はありませんか?」
純白の服を着た少女。アメンドはすぅと立ち上がるとただ一言いう。
「異議なし」
と。
二人の意見に耳を傾けた少女、パニッシュは立ちあがると叫ぶ。
「ここに、判決を申し上げます」
その瞬間、彼女の背後に落ちてきたのは巨大な天秤。
金色に輝くその天秤の片一方に、巨大な黒い塊、トガニンの罪が乗っかった瞬間、まるでシーソーのように秤の一方が地面に落ちた。パニッシュは言う。
「被告人は……死刑!」
ここまでは、それまでのソレと全く同じ。しかし、違うのはここからだった。エンジェル達の攻撃によって、恐怖におびえるトガニンは、刹那、≪手足を縛られた≫。
瞬間。
「「「審判の時が来た」」」
三人は刀三本を持つと、トガニンの背後に回る。
「一刀目」
と言うと、アメンドの持つ刀が浮かび上がる。
「二刀目」
と、パニッシュが言うと、彼女の持つ刀が浮かび上がった。
「そして、三つ目の刀」
最後に、クライムがその二本の刀を自分の刀に吸収するかのように集めると、その日本刀はとてつもなく大きな剣となり、クライムがソレを掴んだ。
死刑執行。
三人は、言葉を重ねた。
≪ジャッジカル・ディカピティーション≫
そして、刀が振り下ろされた。
背後を巨大な虫が通ったかのような音が聞こえたと思ったら、見たことのない漆黒の≪自分の身体が≫見えた。それが、トガニンが現世で見た最後の景色。
トガニンは再びその命を絶たれたのだ。
エンジェルたちの目の前には、首と胴体が離れ、木製の台の上に置かれているトガニンの頭があった。
そんなトガニンの姿を見下げた三人のエンジェルは、片膝を折るとそれぞれに祈るように手を合わせると言った。
「「「罪人に、永遠の苦しみがあらんことを……」」」
その時、どこからともなく鐘の音が聞こえて来た。
リンゴーン、リンゴーン、リンゴーンと―――。
牟六は、空に空いた大きな穴を見上げた。
その穴は、当然天への道標であり、つい先ほど極刑を下したトガニンの魂が、そして周囲を散会していたごく少量の浮遊霊―中にはミナトが事前に捕まえていた幽霊も存在している―が入っていく様子が見えた。
なるほど、現実感に欠けた光景だと思っていたが、実際には雲間から光が差すという自分たちがよく見る光景ではないか。なんだか、少しそれに安心した後に、彼女は語る。
「冷静になって考えてみると、私たちがあの三人が実際に戦っている姿を見るのって、これが初めてなのよね」
「あ、そう言えば……」
と、牟六に指摘されて鳴も気がついた。そう、彼女たちはこの戦いにおいて初めてライクたちが戦っている姿、それどころか転生を果たした姿を見たことになるのだ。
ソレをあまり認識していなかったのは、あまりにも現実から解き放たれたような光景が目の前で繰り広げられていたからなのか。でも、逆に言えば現実感のある光景がその目を覚まさせてくれた。
「アレが、エンジェル……ライクさんたちの本当の力なのですね……」
調は、三人が見せたいわゆる≪必殺技≫と言っていいが終わった後も、まだ祈りを捧げ続けている三人を見てそう言った。
「まぁ、まだあれでもアメンド以外が本気出していないのが恐ろしいところね」
「確かに……本気になったらどうなるんだろう?」
そう、クライムが銃火器を、パニッシュが体術を使用したら、一体どれほどの威力になるのだろう。どんな姿になるのだろう。ソレを想像してワクワクしてしまうのは、きっと彼女たちが≪まだ≫女の子であるが故の事なのだろう。
そう、女の子であるからこそ非現実的な光景を見てもワクワクすることができる。毎日の日常が学生生活という中に置かれているからこそ、非日常と言う物に興奮する。
まるで子供の頃に見ていた少女アニメのような、そんな光景を目の前で見させられたらきっと男女関係なくこんな感情になることだろう。そう、二人は思っていたのだとか。
とはいえ、だ。
『その場面が訪れないことを祈るわ』
と、ミズキは言った。そうだ、二人が本気を出すという事はそれに似合う敵が現れたと言う証拠となってしまう。もしそんな相手が出て来たとしたら、そんなトガニンが現れたとしたら、一体どれだけの被害が出ることか想像できない。
想像したくない。そんなトガニンを相手にして本気で戦うライクとホコリの姿なんて。
二人、いや天使たちを含めてすべてのモノたちが共通認識していた。
もし、二人が本気を出す。その時が来たのならばそれはきっと―――。
「え?」
「ぁ……」
「絞首刑の次は斬首……ね」
「私の本気を少し見たオマケってことで、ちょっとレベルアップしましたってね」
「うぅ……恐ろしかったです……」
と、三人の少女は祈りのポーズから解放されるとすぐさまそんな話をし始めた。
今回使用した技は斬首刑をモチーフにした物。はた目からでは分かりにくいのだが、その攻撃力は以前の技である≪ジャッジカル・ハンキング≫を上回る物があった。
クライムはこれを、覚悟の差であるのだろうとしている。
そもそも、≪ジャッジカル・ハンキング≫でどうして三人が別々のボタンを同時に押していたのか。
それは、日本で死刑として利用されているソレを模した物。その刑を執行する刑務官三人で、誰が罪人に処罰を与えたのかという物を分からなくさせ、精神的な負担、殺人を行うと言う負担を軽減させる物、ソレを真似していたのだ。
結果、三人の≪罪は分断≫され、クライムたちの精神的な苦痛も軽減されている、はずだった。
けど、そんなはずはない。≪殺人を分割≫することができないように≪罪を分断≫することなんてできるわけがないのだ。それが、クライムとパニッシュの共通認識だった。
それでも、これまでその方法を実施していたのは、アメンドのため。単純で、死刑に関与したという事実に対しても本当にいい解釈をしてくれる彼女の心を守るためだった。
対して今回使用した技≪ジャッジカル・ディカピティーション≫は違う。斬首は≪一人の人間≫が≪一人の罪人≫に対して刑を執行する物。つまり、分割する手段がない。ソレをなした人間は、生涯殺人者の汚名を背負ったまま生きなければならないのだ。
果たして、そのためにはどれだけの忍耐力が必要なのか。どれほどの覚悟が必要であるのか、想像することもできないだろう。だからこそ、クライムはその技を使うのにはそれほどの覚悟が必要なのだとしたのである。
そう、≪彼女の≫した事の罪は計り知れないほどに大きい物であろう。しかしただ一つだけ分かっていることがある。それは―――。
それはきっと―――。
ゾクッ!!
「「ッ!?」」
最悪な事なのだろうと。




