第二十六話 いつもの、そして新技
「ん?」
この感じ、例の子達が戦い始めたのか。女性は、そう遠く離れた街で思ったそうだ。
のどかな農村にポツンと建った一家には、彼女の他にはあと二人、同居人がいる。まぁ、今はちょっとした用事で出かけているのだが、しかし≪この自分が目をかけた人間≫だ。間違いなんてないだろう。
しかし、だ。
「解せないねぇ……」
エンジェル、か。まったくもって不愉快な存在だ。ただでさえ眼中の敵たる存在や神江任三郎に敵対する存在がいると言うのに、まだ面倒そうな存在がいるなんて。
そう思った女性は、ふと出かけてみることにした。まるで、スーパーにでも買い物に行くかのようなノリで、彼女はスッ、と立ち上がると指を、一度弾いた。
瞬間だった。
女性の姿は、綺麗さっぱりなくなってしまい、後にはいつもそこにあった農村の一軒家があるばかり。
まるで、そんな女性いなかったかのように、静かにそこに鎮座していたのであった。
「さて、行くよアメンド!」
「は、はい!!」
そのころ、エンジェル達の戦いも始まろうとしていた。
アメンドはクライムが、先ほどのように刀や銃を使うのだろうと期待していた。なぜなら、それが彼女の特異な武器、本来の彼女の力であるのだから。
いや、そもそも法治国家であるこの日本に置いてそんなものを得意にしているという特異な人間がいること自体にツッコミを入れなければならないのだが、そのタイミングをついに逃してしまった。
とにかくだ、先ほどのような武器があればこれからの戦いも―――。
【D・シャイニング・ウィザード!!】
「ってえぇぇえ!!??」
と思った矢先の事だった。クライムは突然走り出したかと思えば、トガニンの膝の上に足を乗せ、そのままの勢いで頭部に膝蹴りをお見舞いしたのである。
それだけじゃない。
「アメンド、なにボーっとしているの! あなたも鎌を出しなさい!!」
「は、はい……ってパニッシュなに持ってるんですか!?」
「手榴弾、よ!」
と言いながら、パニッシュは手に持った手榴弾をトガニンめがけて投げ込んだ。
「ん? おっと!」
クライムは、自分の足下、にいるトガニンの腹部くらいにに転がってきたソレを見ると、すぐさまトガニンの上から飛び降り、退避する。そして、その瞬間。
≪グォォ!!≫
手榴弾が勢いよく爆発した。いや、これそもそも手榴弾なのだろうか。
本来、手榴弾という物は、爆発した勢いで破片を飛ばして、それで相手を傷つける物、と幼いころどこかで聞いたことがあるったアメンド。だが、目の前で起こった爆発はそれとは全く違う。まるで本物の―というのもおかしいかもしれないが―爆弾が爆発したかのような爆炎と煙を発生させ、地面を揺らし、周囲を焦げ付けさせた。
「ちょっとパニッシュ! 攻撃するなら銃使ってよ! 危なく私まで爆風に巻き込まれそうになったじゃん!」
「そんなまどろっこしい事、苦手な銃で戦うよりよっぽどいいでしょ? それに、あの程度の爆発でやられるような人間じゃないでしょ、アナタは」
「私を何だと思ってるの?」
まるで漫才のような会話だなぁ、と呑気に聞いていたアメンドはしかし、すぐに正気に戻ったうえで言った。
「そ、それよりどうしてクライムは武器を使わないんですか!?」
「ん?」
「パニッシュだって、格闘技や弓が得意だって!?」
「えぇ、そうね」
そうだ。さっき自分は聞いた。見た。彼女たちが生身でも十分いや、それ以上に戦えている姿を。
あれだけの銃や刀を扱えるのならばクライムは武器を、使用できる格闘技の数と種類を聞いた限りではパニッシュがプロレス技などの技をかければいいはず。
なのに、今の状態は完全に真逆。クライムが格闘技を使って、パニッシュが武器を使って。いや、と言うか確かに元々の戦い方としてはソレであってるのかもしれないが、アメンドは頭が混乱しそうになった。
「だったらなんで」
そんなアメンドに対して、二人のエンジェルは互いに顔を見合わせて言った。
「だって、ソレ使ってたらアメンドはずっと弱いままじゃん」
「え?」
「えぇ、確かに私たちの本来の得意分野なら、トガニンなんて瞬殺できるわ。でも、それじゃアメンドを鍛えることができないでしょ?」
「えっと、それって……」
つまり、二人は自分の力に合わせてくれていた。ゲームなどで例えると、レベルが一か二の自分をレベルアップさせるために同伴してくれている、レベル最上位クラスプレイヤーが彼女達、ということになるのだろうか。
そんな―――。
「そんな、今度死んだら魂が消える戦いで、手加減なんて……とか思ってる?」
「え、も、勿論です!!」
まるで自分の心の中を読まれたかのような発言に、アメンドは当然のように反論する。そう、自分たちには後がないのだ。だからこそ、本気で戦って、本気で勝ちにいかなければならないと言うのに、手心を加えてやられましたじゃすまないと言うのに、どうして。
「大丈夫。あの程度のトガニンだったら、さっきの十分の一以下、つまり今の戦い方でも十分勝てるから」
なんてクライムは楽観的に言う。そんな油断―――。
「そんな油断して大丈夫なのか、とか思ってるでしょ?」
「う……」
不思議な話だ。この二人の前ではまるで自分の考えが先取されているかのようにスラスラと言葉に出されてしまう。これもまた、彼女たちが日常生活の中で身に付けた技、なのだろうか。だとすると、あまりにも特殊すぎる話である。
「心配いらないわ。いざとなったらすぐに本気を出すから……そう、一瞬でね」
と、パニッシュは微笑んでアメンドの頭を撫でた。
全く持って、何て人たちだと改めて思う。こんな、命を懸けた戦いに置いて、他人を成長させるために危険な真似をするなんて。
いや、そんな危険な真似をする人たちだからこそ、人望を集めてたのかもしれないな。そう、思ったアメンドは深いため息をつくと言う。
「言っときますけど、私はいつだって本気で行きますから!!」
「当たり前でしょ?」
「むしろ手加減したら危ないわよ?」
「二人が言っていい言葉なんですかソレ!?」
ある意味、正真正銘のお前が言うな、であるがしかし彼女たちの実力が、自分よりもはるか格上である事はまごう事なき事実。アメンドは、鎌を構えると、念じた。
「ハァァァァァァァァ……ハァッ!!」
すると、その気合の入った声に呼応するかのように、鎌の柄についていた髑髏たちが蠢き始め、飛び出し、トガニンの周囲に散会する。そして。
「喰らいつくせ、【Dスカル・イート】」
その言葉と同時に、散会していた髑髏たちが一斉にトガニンに向い、その身体に歯を食い込ませていった。
トガニンも当然そんなものにやられてなる物かと言わんばかりに暴れまわるが、しかし無駄な事。アメンドの放った攻撃を払いのける事はできず、まるで鳥葬をするかのようにその身体から黒い肉片が飛び散っていく。
「うぅ……グロイ……」
「ララ、じゃなかった……アメンド、少しやりすぎよ」
「ある意味、一番怖い技使ってませんか、あの子?」
で、背後にいる現世組の面々の反応がこれである。確かに冷静になって考えてみれば、手加減がどうあれ本気がどうあれ、クライムはプロレス技、パニッシュは銃火器諸々と現実的な技を使用していた。
しかし、アメンドに関してはこの世界には全くない異様な技を使って、一番敵を惨い形で攻撃を仕掛けている。
知らない人間が見れば、この中で一番狂気的な人物はアメンドなのではないか、そう思えるくらいに狂気的な攻撃を≪笑顔≫を浮かべて行う。これに、恐ろしさを感じない人間などいるはずがない。
何より、一番かわいそうなのは今回のトガニンである。転生前のクライムであるライクには居合斬りで斬られるわ、そのライクが一瞬本気になった早撃ち六連発でヘッドショットを決められるわ、ホコリには合気道で簡単に攻撃を利用されるわ、転生したら転生したで一方的な戦いを繰り広げられるわで、ある意味で可愛そうになるくらいに悲惨だった。
哀れ、トガニンはそれらのダメージが蓄積していった結果、もはやその場から動くことができず、膝から崩れ落ちてしまった。
「決まりね」
「はい! 早く地獄に送り返しましょう!」
と、嬉しそうに言うアメンドにどこか素質を感じ取りながらも、パニッシュがエンバーミング・グロスを取り出した。その瞬間だった。
「待った」
クライムが、とても素晴らしい笑顔を浮かべて声をかけたのは。
「どうしたのよ?」
「いつも≪絞首刑≫じゃ面白みがないでしょ? だから今回は……」
と言って、クライムが取り出した物。それは、先ほども使用していた彼女の―――。
というか。
「処刑方法に面白みを感じている辺り、やっぱりあの子おかしいですね」
『確かに』
なんて調の言葉に納得する現世組と天使組一同がいたりする。
でも。
「そんなおかしな子に、私は助けられたんですね」
『それも確かに』
と再び同意した面々。もはや死者も生者も関係なく、目の前の三人のエンジェルの狂気は目に毒であり、なおかつ図々しく思う。それと同時にどこか安心感すらも覚えてしまう、そんな戦いであった。




