第二十五話 仲直り、そして解禁
『あら、もう仲直り?』
「アニメとか漫画だと何週間もかかるような話なのにね」
ライクとホコリの姿を少し遠めから見ていたミズキたち天使組と牟六達現世組の面々は、二人が拳をぶつけ合った様子を見て仲直りした様子と感じ、ララとトガニン達の方を注視しながら近づき、茶化した。
“少なくとも、ライクの正義で救われた人がいるのは確かだから、ね”
「……」
と言って、ホコリは調の方を向いた。調は、そのホコリの顔をみて微笑んだ。なお、現在調はダーツェから提供されたサングラスによって、幽霊や天使の姿も目視できる状態になっている。勿論、イヤホンは外していないため、半死反生の状態は変わらない。
幽霊のように空を飛ぶことはできないのに、幽霊の姿を見れて。
人間であるのに、生きている者の音や声は聞こえず、幽霊と天使の声しか聞こえない。同じ世界にいるはずなのに別の存在になってしまったかのように、鳴と牟六は一時は錯覚してしまった。
でも、彼女に触れることができるし、彼女とは書き物を通じてコミュニケーションができる。そして何より、鼓動を感じ取ることができる。確かに調は半死人状態になってしまったかもしれない。でも、それでもまだこの世界と少しでもつながっている。ソレを感じることができることの嬉しさを、現世組三人は噛み締めた。
“まぁ、ライクの特徴が一つなくなった、とも言えるけど”
“なにそれ?”
“正義とか自分の生き死にとか関係なく無邪気に笑う馬鹿みたいな特徴の事”
と、ホコリはやや貶し気味に言った。が、ライクはすぐさま言う。
“大丈夫。楽しく笑顔で戦うのはこれからも一緒だし、これからも思い付きの提案もしていく”
「楽しく戦うって……」
「それ、生き死に関係なくって言うのに矛盾してません?」
調にツッコミをいれられたライク。確かに、真剣勝負の場に置いて笑顔、というのは不釣り合い。だから、生きるための戦いで笑う事なんて絶対におかしな話だ。そう、思うのだがしかし彼女はそんな言葉も呑み込んで言う。
“まぁ、今のところトガニンの強さは私たちが敵いっこないってぐらいの強さじゃないから。そんなに真剣にならなくていいかなって”
「……え?」
つまり、どういうことだ。今までのトガニンは弱いのだと、そう言いたいのだろうか。いや、しかしトガニンの恐ろしさは今までの戦いで、戦いで、戦い―――。
『そ、そう言えばアメンドしゃんはともかくとして、ライクしゃん達が苦戦している姿は見たことなかった気が……』
思い返してみて、ダーツェは気がついた。これまでの戦い、この間の地獄の門事変での戦い以外に置いて、ライクもホコリもピンチと言うピンチなんて一切なく、ただただトガニンを殴って撃って殺して地獄に送り返すと言う明らかにトガニンを圧倒していた事実を。
唯一、戦いになれていなかったアメンドが、何度か苦戦していた様子あったが、二人はそれをサポートして、何ならアメンドの戦う姿を観察するくらいの余裕すらもあった。
それにさっきも、トガニンを相手にしてミナトの力添えがあったとはいえ、ライクは刀一本でトガニンを倒しかけていた。まさか、ライクの言うように今まで真剣で戦ってなかった、本気を出していなかったと言うのだろうか。けど。
『……』
ダーツェには、何か違和感のようなものがあった。拭いきることができないような、何か矛盾した感情が、いつの間にか生まれていた。
「まぁ見てなって」
「私たちの本気、少し見せてあげるから」
果たして、そのことを知ってか知らずか、ライクとホコリの二人は自分たちの殻堕に入るとそのままトガニンの方に向っていく。エンジェルへと、転生することなく。
「ライク! ホコリ先輩! 何してるんですかエンジェルにならないと」
「待って、鳴」
「牛頭さん、でも!」
止めようとした鳴を、これまた止めたのは牟六だった。そして、彼女は言う。
「あの二人の考えは私たちには分からないわ。その自信の根拠も。それに、前までの二人だったら私は止めてた……でも」
「でも?」
牟六はそう言うと、二人の頼もしい背中を見る。
正義の味方になることを決意した二人。生き返ることを決めた二人。二度目の人生を受け入れた二人。
その覚悟ある姿を見て、牟六は言う。
「今なら、大丈夫」
と、そして。
「ハァァァ!! ッ! ライクさん!? ほこりん先輩!?」
「アメンド! 後ろに下がって!」
「は、はい!!」
アメンドは、再びその声に従ってしまった。二人が転生もせずにこちらに歩いて来ていることを認識しつつも、しかし先ほどのように後ろに飛びのいてしまったのである。
次の瞬間だった。
花火のような音が連続して六回、鳴り響いたのは。
「え、爆弾? じゃない、あれって!?」
ライクが持っていたのは、拳銃だった。となれば、先ほどの花火のような、爆弾のような激しく、そして耳どころか脳内まで揺さぶるような破裂音は、それにこの鼻の奥に抜ける香ばしいけど、どこか痛々しさも感じる匂いは、銃弾。でも、ライクの持っているものは、ホコリが作り出したソレよりも明らかにリアリティがある物だ。と言うことは。
「ほ、本物の拳銃ですか!?」
「コルト・シングルアクション・アーミー。西部開拓時代から愛用されている由緒正しき銃」
と言って、彼女はまるで投げ縄でも投げる直前のように、引き金を囲っている輪を中心にクルクルと回し始めた。いや、驚くべきはそれだけではない。色々とツッコミたいことが山ほどあるのだが、まずは現実的なところを見ることにしよう。
≪グオオォォォォォォ!!!≫
トガニンが、苦しんでいる。見ると、その顔面には六つの穴が開いていた。全部頭に当てたと言うのだろうか。いや、もしそうだったとしてもこの世界の普通の武器はトガニンには通用しないのではないか。
一度エンジェルになって出した銃じゃないか、そうララが自分の中で納得しようとした時だった。
「い、今銃ライクの家の方から飛んできたよね」
「えぇ、刀と同じようにね」
鳴と牟六の言葉がララに届いた。なるほど、どうやらその銃は刀の時と同様にライクの家から飛んできた物―そもそもその時点で何かおかしい気がするが―のようだ。では、どうして。即刻の疑問を定義する前だった。
「ハァッ!」
次に動き出したのはホコリである。彼女に至っては何も持っておらず、素手でトガニンに向っていく。
「だ、ダメですほこりんせ」
アメンドがそんな彼女を止めようとした直前だった。回復したトガニンが刀を振り上げたのである。
力を持たぬ、裸単騎の身体を抉るべくソレが振り下ろされる。
「フッ!」
≪グオオォォォォォォ!!≫
「え……」
そう、思った瞬間。トガニンが突っ伏していたのだった。
一瞬だった。ホコリは刀の刀身を見極め、すぐさまその懐に入ると、トガニンの手を持ち、さらに肘も固めてトガニンの力を利用して地面に放り投げた。いや、地面に陥没させたのだ。その陥没の痕跡が、その技がいかに強力な物であるかを表している。
今のはもしかして。
「合気道、ですか?」
「その中でも、四ヶ条って呼ばれている技」
と補足するようにライクが言った。そう言えば、とララは思い出した。
「確かホコリン先輩って合気道に精通しているって……」
転校してきたときにリリが言っていたような気が。そう言葉に出すと、続けてライクがまたもや補足するように言う。
「柔道剣道弓道空手、ボクシングプロレスフェンシングテコンドーアーチェリー……カポエラもだっけ?」
「マーシャルアーツと少林寺拳法、あぁ、あと八極拳その他もろもろも忘れないでね」
「ほ、ホコリン先輩って武術の達人ですか!?」
まるでどこかのサイトで武術と調べれば出てくるような物のオンパレードである。というか、その他もろもろって一体何なのだろうか。いや、それはともかくだ。
「というか、ライクさんの銃とか刀はなんなんです!?」
知っての通り、というか当然のことだが日本では護身用に銃器や刃物を持ち歩くのは基本的に一部の例外を除いて禁止されている。しかし、ライクはソレらを一切躊躇することなく使いこなし、なおかつ、銃を撃てば百発百中、居合をすれば素人の目から見ても華麗で繊細とも言えるくらいに静かに相手を切り抜く。
一体、どうしたらそんな使い手になれ―――じゃなくてどうしてそんなものを持っているのか。
「ふふん、あッ……ララちゃんのお母さんと一部の公務員にはナイショね」
「え、あ、はい……」
何か闇が深そうなのでこれ以上聞くのはやめとこう。何だか恐ろしい、ララはそう自分にいい聞かせてこれ以上の詮索をやめるのであった。
「よぅし、ウォーミングアップはここまで」
「えぇ……後は……」
“あのトガニンを”
“地獄に送り返すだけ”
と言って殻堕から出た二人は、アメンドの前に立ち、並ぶ。
『ん』
因みに殻堕の方はミナトの超能力によって移動させられた。
そして―――。
“行くわよ、ライク”
“うん、ほこりん!”
““エンバーミング・リィンカーネーション!!””
二つの霊体が光に包まれ一度上昇し、そして生まれ堕ちた。
「我、汝の罪を暴く者。クライムエンジェル」
「我、汝の罪を裁く者。パニッシュエンジェル」
「我、汝に償いを求める者。シスターアメンド」
『われら、DGエンジェルズ』
「清算できぬ汝の罪」
「今ここに、我らが罰しよう」
「さぁ、償いなさい」




