英雄の選択と繋がる未来
吹き荒れる極寒の嵐の中、ロイドの足元を中心に眩いばかりの純白の陣が広がっていく。
それは単なるロイド個人の魔力ではなかった。
背後に立つリアラとミラの深い愛情。シーザーをはじめとする「王の盾」の仲間たちの信頼。上空から援護を送る魔王と六神将たちの強い意志。そして、この国で出会いロイドを温かく受け入れてくれた市井の人々の祈り――その全てが、ロイドという存在を媒介にして一つの巨大な光の渦となっていた。
『グ、オオオオオン……! 不快ナ光ダ……滅ブベキハ、キサマラニンゲン・魔族ドモダァァッ!!』
己の存在を脅かす光の充満に危機感を募らせた大魔神が、全身の眼球と口から全開の黒い殺界線を解き放つ。空間そのものを穿ち潰す死の豪雨。
「絶対に行かせないわ! 【精霊の極光壁】(オーロラ・イージス)!」
ミラが持ち得る全魔力を振り絞り、七色に輝く極大の障壁を展開する。
「ロイド様の道は、私が拓きます! 【秘剣・鳳凰閃】!」
リアラが光の尾を引く神速の連続突撃を繰り出し、大魔神の吐き出す暗黒弾の軌道を次々と打ち払っていく。
「今だ、いけぇぇぇッ、ロイドぉぉぉッ!」
シーザーと仲間たちの怒号のような叫びが谷に響き渡る。
「みんな……ありがとう!」
ロイドは地を蹴った。
踏み込んだ足から放たれた衝撃波が氷床を粉砕し、ロイドの身体は光の矢となって大魔神の眼前にまで跳躍した。
『ナニッ……!?』
大魔神の巨体と目の前で交差するロイドの視線。
かつて婚約破棄され、王国を追放され、自分の居場所も価値も見失っていたあの日の記憶が一瞬だけ脳裏をよぎる。
(あの災難があったから……俺は大切なことに気づけた。一人で戦う英雄なんていらない。互いに支え合い、守り合える仲間がいるからこそ、人は強くなれるんだ!)
ロイドの掲げた大剣に、全天を埋め尽くすほどの純白の聖光が収束していく。それは世界を覆っていた瘴気をも一瞬で浄化し、夜空の雲を切り裂いて太陽のような温かな光を注ぎ込ませた。
「これで終わりだ! 世界の災厄よ……俺たちの絆の前に消え去れ!」
「【聖輝・幾千の絆】(アルティメット・ブレイド)!!」
一閃。
放たれた真白き光の奔流が、大魔神の巨体を頭上から足元まで完全に呑み込んだ。
『ガ……グ、アアアアアアアアアアアアアアッ―――!?』
再生の速度すら遥かに置き去りにする、完全なる浄化の光。
大魔神の核が、その巨大な肉体が、そして千年にわたり渦巻いていた絶望と瘴気のすべてが、光の粒子となって世界から消滅していく。
天地を揺るがした叫びがやみ、静寂が『絶望の谷』に訪れた。
空を覆っていた不気味な黒雲は完全に晴れ渡り、澄み切った青空から温かな陽光が降り注いでいる。
「勝った……のか?」
シーザーがポツリと呟いた。
やがて、大魔神が消え去った中央の地に静かに着地したロイドの背中へ、温かな光が差し込む。
「やった……やったんだぁぁぁぁッ!!」
魔王軍と「王の盾」の精鋭たちから、割れんばかりの歓声が上がった。
お互いに抱き合い、勝利を称え合う人間と魔族たち。そこにはもはや、過去の歴史が作った壁など一切存在しなかった。
「ロイド!」
「ロイド様!」
膝をつくロイドのもとへ、ミラとリアラが駆け寄ってくる。二人の目には涙が浮かんでいた。
「二人とも……守れたよ。俺たちの居場所を」
ロイドは二人に向かって、心からの柔らかい笑みを向けた。
世界を救う戦いは終わりを迎えた。
そして物語は、英雄ロイドが選ぶ「これからの未来」へと最後の一歩を踏み出していく。




