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英雄ロイドの災難  作者: 古淵 有


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原初の覚醒

 倒れたジルバから溢れ出た狂暴な漆黒の魔力。それは散り散りになることなく、吸い寄せられるように祭壇中央の肉塊へと流れ込んでいった。


 ドクン……! ドクン……!


 地鳴りのような脈動が響くたび、谷全体を覆う氷壁に亀裂が走り、天を突く暗雲が渦を巻き始める。


「ジルバを倒したのに……魔力の暴走が止まらないわ!?」


 ミラが短杖を強く握り締め、顔色を変える。


「奴自身の命と膨大な負の感情が、最後の引き金になったのです! 封印が……完全に解けます!」


 リアラが叫ぶと同時に、肉塊が内側から弾け飛んだ。


 ドガァァァン――ッ!!


 天地を揺るがす衝撃波が吹き荒れ、ロイドたちは腕で顔を覆いながら踏みとどまる。

 霧散した黒煙の奥から現れたのは、巨大な四つの翼と無数の眼球、そして禍々しい角を持つ――千年前の絶望そのもの、『原初の大魔神』だった。


『オ……オオオオオオオオン……ッ!!』


 大魔神が放った咆哮一閃。それだけで空間が歪み、絶対的な死の威圧感がロイドたちの全身を押し潰そうとする。街で対峙したどんな魔物とも、そして決闘した魔王とも違う、桁外れの圧倒的存在感。


「これが……原初の大魔神……」


 ロイドは冷や汗を拭い、大剣を構え直した。恐怖がないと言えば嘘になる。だが、今のロイドの背中には、決して引くことのできない理由があった。


「大丈夫だ、二人とも。俺たちは勝つ」


 ロイドの力強い声に、怯えかけていたミラとリアラの瞳に再び強い光が宿る。


「ええ……! あなたと一緒なら、どんな絶望だって打ち破れるわ!」


「ロイド様、指示を!」


「ミラは後方から魔法で敵の眼球を狙って視界を奪ってくれ! リアラは俺と連携して左右から足元を崩す! 一瞬の隙を作って、俺が核を穿つ!」


「「了解!」」


 言葉が終わるやいなや、ロイドたちは一斉に地を蹴った。


『ハエドモガ……滅ブベキダ!!』


 大魔神の背から放たれる無数の黒い光線。大地を穿ち、空間を削り取る死の雨に対し、ミラが極大の障壁を展開する。


「【精霊の聖壁】(シルフィード)! くっ……長くは持たないわ、行って!」


「感謝する!」


 障壁を盾に一気に肉迫したロイドとリアラ。


「【神速連撃】!」


 リアラの刃が疾風のごとく煌めき、大魔神の巨足を削り取る。姿勢を崩した大魔神へ、ロイドは純白のオーラを全身に纏わせて跳躍した。


「ここだぁぁぁッ!」


 ロイドの一閃が大魔神の胸元を深く切り裂く。眩い光の打撃を受け、大魔神が苦悶の叫びを上げた。


 だが――その直後、驚愕の光景が目の前で起きた。

 切断された足と胸の傷口から、黒い瘴気が溢れ出し、一瞬にして元の姿へと再生してしまったのだ。


「何……!? 傷が、一瞬で直った……!?」


 着地したロイドが目を見張る。


『ハハハ! 無駄ダ! コノ世界ノ不浄ナ魔力ガアル限リ、我ハ不滅!!』


 大魔神の巨腕が薙ぎ払われ、ロイドとリアラは衝撃波に吹き飛ばされて石畳の上を転がった。


「くっ……!」


「ロイド様! リアラ!」


 ミラの悲鳴が響く。

 再生能力を持つ絶対的な悪意を前に、ロイドたちは最大の危機に立ち向かうこととなるのだった。

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