断ち切る意志
氷屑と暗黒の魔力が乱舞する狂気の祭壇。
「死になさい、ロイド!」
ジルバの掲げた杖から、幾重もの黒い雷光が解き放たれる。大気を引き裂き迫る極大の攻撃に対し、ロイドは一歩も引くことなく、白銀の光を纏わせた大剣で真っ向から受け止めた。
ガァァァン――ッ!!
激しい衝撃波が周囲の氷壁を粉砕し、雪煙が巻き上がる。
「なっ……魔力を帯びた一撃を、素の剣技だけで殺しただと!?」
「ジルバ、お前の攻撃には何の重みもない。己の野心と狂気に酔いしれ、他者を踏みにじるためだけに振るう力など……本当の強さとは言わない!」
雪煙を切り裂き、ロイドが地を蹴る。その踏み込みは祭壇の石畳を砕き、一瞬でジルバの目と鼻の先へと迫っていた。
「くっ……調子に乗るなよ、落ちこぼれの英雄がぁ!」
ジルバは顔を歪め、懐から怪しい不気味な黒い結晶を取り出すと、それを自らの胸へと突き刺した。
ドクン――と、不快な心臓の鼓動が祭壇全体に響き渡る。ジルバの全身の血管が黒く浮かび上がり、その肌は異質なウロコのように変化していった。
「これは……大魔神様の力を直接身に宿す秘術! ハハハ! 圧倒的な力だ! これぞ世界を統べる神の力だぁぁぁッ!」
人間をやめたジルバの手から解き放たれた爪の一撃が、超音速でロイドに襲いかかる。その威力が桁違いに跳ね上がっているのは一目瞭然だった。
だが、ロイドの足取りに揺らぎはない。
「ロイド! 横からくるわ!」
背後で異形の影を広範囲魔法で拘束したミラが、即座に弾幕を張ってジルバの機動力を削ぐ。
「今です、ロイド様!」
さらに、もう一体の異形を撃破したリアラが鮮やかな踏み込みで側面から突撃し、ジルバの防御態勢を完璧に崩してみせた。
二人の完璧なサポート。
かつて孤独に苛まれ、追放され、裏切られた痛みを抱えていた男は、いまや二人の愛すべき存在と深く固い絆で結ばれていた。
(俺に……災難を与えてくれて感謝したいくらいだ)
ロイドは胸の内で静かに呟いた。
もしあの時、婚約破棄されず、国を追われていなければ――俺は本当の仲間の温もりも、守るべき真の居場所も知らずに死んでいただろう。
(すべてがあったからこそ、今の俺がいる!)
ロイドの全身から放たれる純白の光が、太陽のごとき圧倒的な輝きへと昇華する。祭壇を覆っていた漆黒の瘴気が、その光に触れる端から消滅していく。
「バ、バカな……! 私の、大魔神様の闇が押し返されているだと……!?」
ジルバの瞳に、初めて圧倒的な恐怖の色が浮かんだ。
「これが俺の……俺たちの力だ! 【聖光天翔斬】(せいこうてんしょうざん)!」
全魔力を注ぎ込んだ渾身の一閃。
光の奔流となった刃が、ジルバの掲げた杖ごと、その肉体を一刀両断に切り裂いた。
「グガァァァァァッ!?」
激しい叫びとともに、ジルバの肉体から黒い瘴気が吹き出し、彼の体は祭壇の石畳へと崩れ落ちた。胸に刺さっていた黒い結晶が粉々に砕け散る。
「私……の……野望が…………」
憎悪に満ちた目をロイドに向けたまま、ジルバはついに意識を失い、完全に沈黙した。
「やった……のか?」
剣を収め、肩で息をするロイド。
長きにわたる因縁の結末に、ミラとリアラも安堵の表情を浮かべて駆け寄ってきた。
だが――事態はまだ終わっていなかった。
ドクン……ドクン……!
ジルバが倒れた瞬間、祭壇の中央に鎮座していた『原初の大魔神』の肉塊が、これまでにない激しさで咆哮を上げ始めたのだ。




