狂気の祭壇
シーザーたちの奮闘に背を押され、ロイド、リアラ、ミラの三人は吹き荒れる氷雪を突き抜けて谷の最奥へと辿り着いた。
そこに広がっていたのは、異様な光景だった。
無数の巨大な黒い結晶が全角を取り囲むように突き刺さり、その中央には禍々しい古代の魔法陣が刻まれた「狂気の祭壇」が存在していた。空からは漆黒の瘴気が滝のように降り注ぎ、魔法陣の中央で脈動する「巨大な肉塊」のような存在へと吸い込まれていく。
『原初の大魔神』――封印が解かれかけ、完全復活の時を今か今かと待つ絶対的な災厄が、そこにあった。
「くくく……よくぞここまで来ましたね、英雄ロイド」
祭壇の中央、不気味な黒光りを放つ杖を手にした男――ジルバが、ロイドたちを振り返った。その瞳は完全に正気を失い、黒い魔力で濁り切っている。
「ジルバ……! これ以上、世界の平穏を脅かす真似はさせない!」
ロイドが剣を抜き、鋭い殺気を放つ。
「平穏? ハハハ! 笑わせないでいただきたい! 偽りの平和の上でのほほんと暮らす豚どもに、何の価値があるというのです! 人間も魔族も、憎悪と恐怖に狂い、この大魔神様の糧となることこそが真の救済なのですよ!」
「狂っているわ……! 自分の野望のためにどれだけの人が苦しんだと思っているの!」
ミラが短杖を構え、怒りの声をあげる。
「野望? 違いますね。私は世界を正しているのです! ロイド、貴方も被害者面をするのはやめなさい。貴方を王国から追い出し、婚約者に捨てさせたのは私だ。だが、そのおかげで貴方はこの魔皇国で新しい居場所と力を得た! 私に感謝してほしいくらいですよ!」
ジルバの歪んだ言葉に、リアラの瞳が激しい怒りに染まった。
「黙りなさい! ロイドが歩んできた苦難の道を、あなたが汚していいはずがない! ロイドが手に入れた絆は、彼自身の優しさと強さが手繰り寄せたものです!」
リアラは剣を構え、ロイドの前に立ちはだかるように一歩踏み出した。
「ふん、哀れな元・婚約者め。……まあ良いでしょう。どうせ貴方たちは全員、ここで大魔神様の最初のエサとなるのですから!」
ジルバが杖を掲げると、祭壇を取り囲む黒い結晶から無数の邪悪な魔力弾が放たれた。
「【絶対防御】(イージス)!」
ロイドは間髪入れずに前へ飛び出し、純白の光で覆われた大盾の気流を展開した。激しい衝撃音とともに魔力弾が弾け飛ばされ、周囲の氷壁が崩れ落ちる。
「チッ……相変わらずの頑丈さですね。ですが、これはどうです!?」
ジルバが呪文を詠唱すると、彼の背後の空間が裂け、瘴気を纏った巨大な黒い影――『大魔神の分身』とも言える異形の怪物が三体、姿を現した。
「一つひとつ討ち取っている余裕はありませんわ! ロイド、ジルバを叩いて!」
「ロイド様、奴の詠唱を遮ってください! ここは私たち二人が食い止めます!」
ミラとリアラが同時に叫び、異形の影へと果敢に立ち向かっていく。ミラの広範囲爆破魔法と、リアラの隙のない神速の剣技が交差する。
「頼んだぞ、二人とも!」
仲間の信頼を背に受け、ロイドは光の尾を引きながら、一気にジルバの懐へと急接近した。
「来なさい、ロイド! 貴方のその甘い理想ごと、原初の闇で叩き潰してあげますよ!」
決戦の火蓋は完全に切って落とされた。すべての因縁を断ち切るための、命懸けの戦いが加速していく。




