魔王との再会と告げられた真実
重厚な黒銀の重門を潜り、ロイドたちは皇都『ヴォルガ』へと足を踏み入れた。
普段ならば多くの魔族や人間が行き交い、賑わいを見せているはずの街道は、どこかピンと張り詰めた緊張感に包まれていた。行き交う人々の表情には不安の色が滲み、街の至る所で警備兵たちが厳重な警戒態勢を敷いている。
「街全体がピリピリしているわね……。瘴気の影響がここまで及んでいるなんて」
ミラが周囲を警戒しながら低く呟く。
「ええ。ですが市民の混乱が最小限に抑えられているのは、魔王様の統制が行き届いている証拠でしょう」
リアラの分析通り、混乱の中でも規律が保たれているのは流石というべきか。ロイドたちが感心しながら大通りを進んでいると、前方から一隊の騎兵が近づいてきた。
「ロイド殿ですね!」
先頭に立つ鎧を着た隊長らしき男が馬から下り、ロイドの前で恭しく礼をとった。
「魔王様よりお達しを受けております。直ちに謁見の間のほうへご案内いたします。……お連れのお二人も、どうぞこちらへ」
「案内を頼む」
ロイドが頷くと、案内された馬車に乗り込み、一行は一路魔王城へと向かった。
幾重にも重なる重厚な扉を抜け、到着した最奥の謁見の間。そこには、かつてロイドと一騎打ちの決闘を繰り広げた魔皇国の頂点――魔王ジルバートが待っていた。玉座の傍らには六神将の姿もあり、静まり返った部屋には圧倒的な威圧感が満ちている。
「よくぞ来た、ロイド。……それに仲間たちも無事なようで何よりだ」
玉座から響く魔王の声は深遠だが、その表情にはかすかな疲労の色が伺えた。
「魔王様、急ぎ参上いたしました。北の山での瘴気の件、そしてジルバの動向についてご報告いたします」
ロイドは片膝をつき、北の山で起きた出来事、ジルバが古代の宝珠を使って瘴気を集めていたこと、そして最後に放たれた「あの方」という言葉について克明に伝えた。
話を聞き終えた魔王は、重々しく息を吐き、深く頷いた。
「やはりな……。ジルバめ、ついに『あれ』を蘇らせる気か」
「『あれ』……ですか?」
ロイドが問い詰めると、魔王はゆっくりと立ち上がり、謁見の間の壁に掲げられた古びたタペストリーを指し示した。そこには、光と闇の軍勢が恐ろしい異形の存在と戦う姿が描かれていた。
「今から千年以上前、この大陸全土を壊滅寸前まで追い詰めた邪悪な存在――『原初の大魔神』だ。かつて人間と魔族が力を合わせ、かろうじて封印した古の災厄だよ」
魔王の言葉に、リアラとミラは息を呑んだ。
「ジルバの狙いは、世界中に放った瘴気と負の感情を集め、封印されている大魔神を完全復活させることにある。奴が暗躍していたのは、王国と我が国の間に再び全面戦争を引き起こし、絶望と憎悪のエネルギーを最大化させるためだったのだ」
「そんな……! では、最初から戦争そのものが奴の仕組んだ筋書きだったというのですか!?」
リアラが衝撃の事実に声を震わせる。ロイドが婚約破棄され、国を追われたことも、すべては二国間の均衡を崩し、混乱を陥れるための試みに過ぎなかったのだ。
「……許せない」
ロイドは拳を強く握り締めた。自らの私利私欲と狂気のために、何万人もの命と平穏を弄ぼうとするジルバの陰謀に、激しい怒りが胸の底から湧き上がる。
「大魔神が封印されている場所は判明しているのですか、魔王様?」
「ああ。王国と魔皇国の国境に位置する、極寒の地『絶望の谷』だ。……すでにジルバはそこに潜み、復活の儀式を進めている。猶予はない」
魔王はロイドをまっすぐに見つめ、その瞳に強い期待を宿した。
「ロイドよ。奴を止め、世界の破滅を防ぐため、我が総力を挙げた決戦部隊の先鋒を担ってくれぬか?」
「もちろんです」
ロイドは立ち上がり、剣の柄に手を置いた。その迷いのない眼差しに、魔王は口元を緩めた。
「頼んだぞ、英雄ロイド。世界の未来はお前たちの手にかかっている」
決戦の地は『絶望の谷』。すべての因縁を断ち切るための最終決戦に向け、ロイドたちの最後の戦いが始まろうとしていた。




