皇都への決意
翌朝、街の東門の前には、ロイドたちの旅立ちを見送るために多くの住民が集まっていた。
「ロイド様! どうかお気をつけて!」
「絶対に戻ってきてくださいね!」
温かい声援と無数の笑顔。かつて王国で裏切られ、失意のうちにこの国へ流れ着いた日のことを思い出し、ロイドの胸の奥が熱くなる。あのときは自分の存在理由すら見失っていたが、いまや守るべき人々がこんなにもたくさんいる。
「ロイド様」
人込みを割って前に進み出たのは、火鼠族の青年モルだった。その手には、丁寧に布で包まれた小さな包みが握られている。
「これは街の皆で用意した道中の糧食です。……本当なら僕も一緒に行って、お力になりたいのですが……」
「気持ちだけで十分だよ、モル。お前にはこの街を守るという大事な役割がある。街長や皆のことを頼むな」
ロイドが優しく微笑みながらモルの肩に手を置くと、モルは目元を少し赤くしながらも、力強く頷いた。
「はい! ロイド様たちが帰ってくる場所を、僕たちが絶対に守り抜きます!」
街長であるグルガも一歩前へ出ると、ロイドに向かって重々しく深々と頭を下げた。
「ロイド、そしてリアラにミラ。魔皇国の未来、いや……この世界の平穏はお前たちの肩にかかっている。魔王様のもとへ無事に辿り着くことを祈っているぞ」
「感謝します、グルガ様。行ってまいります」
ロイドたちは決意を込めた眼差しで頭を下げ、歓声に見送られながら街を後にした。
皇都へと続く街道を進むにつれ、周囲の雰囲気は徐々に重苦しさを増していった。空を覆う雲は日を追うごとに低く垂れ込め、街道沿いの木々は瘴気の影響か、どこか色を失って枯れかけている。
「雰囲気が重いわね……。北の山で瘴気を払ったとはいえ、世界中で着実に浸食が進んでいるのが分かるわ」
ミラが周囲の林を警戒しながら、静かな声でつぶやく。
「ええ。ですが、ロイドの光の力があれば、この暗雲もきっと払えます」
リアラはロイドの横顔を見つめながら、強い信奉を込めて言った。その視線に気づいたロイドは、苦笑いを浮かべながら後頭部を掻いた。
「あまりプレッシャーをかけないでくれよ、リアラ。あの光も、一人で出せたわけじゃないんだから」
「一人ではない……ですか?」
「ああ。あのとき俺の中に湧き上がったのは、『二人を守りたい』っていう想いだった。ミラやリアラ、それに街の皆が俺を信じてくれたからこそ出せた力だと思ってる」
ロイドの飾らない真摯な言葉に、リアラとミラは一瞬目を見開いた。
「……もう、そういうことをサラッと言うんだから」
ミラは少し照れくさそうに明後日の方向を向き、頬を赤らめた。
「ロイド……」
リアラも胸に手を当て、熱い眼差しでロイドを見つめる。
かつて王国の「王の盾」として共に過ごしていた頃のロイドは、どこか孤独を抱え、すべてを一人で背負い込もうとする危うさがあった。だが今のロイドは、仲間を信頼し、その絆を自らの糧へと変える強さを手に入れている。
(私はあの頃、ロイドの本当の孤独に気づいてあげられなかった。……でも、今度こそこの手を離さない)
リアラは心の中で固く誓った。
それから数日の旅を経て、三人の視界の開けた先に、途方もなく巨大な黒銀の城塞都市が姿を現した。
「あれが……魔皇国皇都『ヴォルガ』……」
リアラが感嘆の息を漏らす。幾重にも聳え立つ重厚な外壁と、天を突くように佇む魔王城。そこは魔皇国の心臓部であり、いまや世界の命運を決する作戦の最前線となっていた。
「行こう。魔王様が待っている」
ロイドは構え直し、力強い足取りで皇都の門へと向かって進み出した。
いよいよ、決戦の舞台へと足を踏み入れるのだった。




