白光の絆
ロイドの全身から溢れ出る眩いばかりの白いオーラ。それは重苦しく立ち込めていた瘴気を次々と浄化し、周囲の空間を真昼のような光で照らし出していく。
「バカな……! これほどの聖なる魔力、いったいどこに隠し持っていたというのだ!?」
ジルバは顔を歪め、眩しさに目を覆いながら後退った。
かつて王国で「王の盾」のリーダーを務めていた頃のロイドの力は、屈強な剣技と堅実な守りにあるとされていた。だが、今のロイドが放っているのは、誰かを守りたいという強い意志が形となった、純粋で圧倒的な生命の光だった。
「俺は一人じゃない。背中を託せる仲間がいて、待っていてくれる人たちがいる。……それが、今の俺の力だ!」
ロイドは地を蹴った。光の尾を引くようなその踏み込みは、音をも置き去りにする速度だった。
「させるかぁっ!」
ジルバは焦燥感を露わにし、手に持った漆黒の宝珠へ過剰なまでの魔力を流し込んだ。宝珠から放たれた無数の黒い触手が、ロイドを握り潰そうと襲いかかる。
しかし、ロイドの剣が一閃するたび、黒い触手は一瞬で浄化され、光の粒子となって消えていく。
「なっ……!?」
「これで終わりだ、ジルバ!」
一瞬で間合いを詰めたロイドは、過剰な防壁を巡らせるジルバの宝珠目がけて、光を纏った一撃を叩き込んだ。
「【聖耀斬】(せいようざん)!」
輝く刃が漆黒のバリアを打ち破り、完璧に宝珠の核を捉える。
カキン――と、澄んだ高音が響き渡り、ジルバの手にあった黒い宝珠に一筋の亀裂が入った。
「ぐ、ああああぁっ!?」
宝珠の損壊とともに、制御を失った黒い魔力が暴走し、衝撃波となってジルバを吹き飛ばす。崖の壁面に叩きつけられたジルバは、血を吐いてその場に崩れ落ちた。
同時に、崖の下で暴れていた巨大な古代の魔物にも異変が起きていた。
「魔法が……弱まっているわ! リアラ、今よ!」
「はいっ!」
ミラの束縛魔法によって動きを封じられていた巨獣に対し、リアラが渾身の突撃を敢行する。鋭い刺突が巨獣の核を貫き、叫び声とともに巨獣は泥のように崩れ去っていった。
「やった……!」
息を切らしながらも笑顔を見せるリアラとミラ。二人は顔を見合わせると、すぐさまロイドのいる崖の上へと視線を向けた。
崖の上では、ロイドが剣を収め、膝をついているジルバへと歩み寄っていた。
「がハっ……バカな、この私が……こんな辺境で、追放された男に敗れるなど……」
ジルバは憎々しげにロイドを睨みつける。その手の中で、ひび割れた宝珠はかすかな不気味な光を失っていなかった。
「もうやめるんだ、ジルバ。これ以上、誰も傷つけさせるわけにはいかない」
「く、くくく……甘いな、ロイド。お前はどこまでも甘い……! 私が敗れても、計画は止まらんぞ……! この宝珠に蓄えられた瘴気は、すでに『あの方』のもとへ送られているのだからな……!」
「あの方……? いったい誰のことだ!?」
ロイドが詰問しようとした瞬間、ジルバの体が黒い煙に包まれ始めた。
「いずれ知ることになるさ……お前が守ろうとしたこの世界が、どうやって滅びに向かうのかをな……! ハハハハハ!」
高笑いとともに、黒煙が弾ける。ロイドが手を伸ばした時には、すでにジルバの姿は消え去っていた。転移の魔導具を使った逃亡だった。
「逃げられたか……」
ロイドは深く息を吐き、空を見上げた。立ち込めいていた瘴気は徐々に薄れ始め、雲の隙間から温かな日光が差し込み始めていた。
「ロイド!」
「ロイド様、ご無事ですか!?」
ミラとリアラが駆け寄ってくる。二人の無事な姿を確認し、ロイドの表情に和やかな笑みが戻った。
「ああ、二人とも無事でよかった。ありがとう、助かったよ」
「もう、ヒヤヒヤさせないでよね。でも……最後の一撃、すごかったわ」
ミラは少し照れくさそうに微笑み、リアラも安堵したように胸を撫で下ろした。
街を守り抜くことはできた。しかし、ジルバが残した「あの方」という言葉と、世界を揺るがす暗雲は、確実にロイドたちの足元へと忍び寄っていた。




