魔王との決闘
今日はついにユリスと戦う日だ。
ジルバから聞いたが、今日は闘技場で他の対決も組まれているようで、最後に俺とユリスの戦いをするので、始まる前に控え室に入れば良いと言われた。
この闘技場でのイベントを楽しみにしている住民は多いらしく大勢の観客が入るみたいだ。
俺とモルは他の戦いも見ることにしたので昼前には会場に入ることにした。
会場に入るとまだ第一試合の開始前にもかかわらず多くの人が観客席を埋めていた。
「すごい人ッスね。ヴェルサスじゃこんな大勢の人見たことないッス」
モルは周りを見渡して感心したように言った。
王国の都の方が人は多いだろうが、一箇所にこれだけの人数が集まることはあまりない。
たしかに力のある者同士の対決を見たいという気持ちは俺にもあるから、こう盛り上がるのも分からなくはないな。
「ヴェルサスはそこまで人口は多くなかったからな。あの中心で戦うんだな。観客席との境目にはちゃんと防御結界も張ってあるみたいだな」
「ロイドが全力で戦ったら観客席も危ないッスからね。オイラもロイドの本気を見るのが楽しみッスよ」
観客席の心配はしなくてよさそうで俺も安心だ。
自分の本気が確認できるなら俺にとっても良い機会と言える。
師匠を越えたあの日、俺には本気を出せる相手が居なくなった。
その相手が目の前に現れた。心がざわついて仕方がない。
◇
今日はモルは実況席に案内されたので、控え室に向かう俺と別れた。
メーンイベントのユリスと俺の戦いは、イーガルとリーザが実況するらしい。
そこでジルバとモルも一緒に見るとのことだ。
後一試合終われば俺の出番だ。
控え室は一人用で入ったら人の気配を感じずに済む。
何も考えずに精神統一をしよう。
どれくらい時間が経っただろうか。
控え室の扉をノックする音で我に返った。
入ってきたのはジルバだった。
「ロイド様もう少しで出番になります。ご準備はよろしいですか?」
「ああ、準備は万全だ。いつでもやれるよ」
調子も良さそうだ。イーガル達のおかげだな。
「すごい魔力をみなぎらせてますね。もしユリス様に負けたら私の旦那様になりませんか?」
ユリスが顔を赤らめて言う。美人にそう言われると悪い気はしないが結婚はもう少し時間を置いてから考えたい。
「嬉しい言葉だけど、俺はユリスに負けるつもりはないよ」
「そうですね。私も応援してます」
ジルバは勝って欲しいのか負けて欲しいのかよく分からないがまあ良い。
「それでは案内しますのでついてきて下さい」
よし。気合いは十分だ。
◇
入場口で待っていると、実況のイーガルとリーザの声が聞こえてきた。
「本日の最終戦、今日はこの戦いを見に来た方も多いでしょう。女王ユリス様と、王国から来た実力者、六神将第六席に先日就任したロイドさんの試合です。イーガルさんはこの戦いをどう予想しますか?」
「この一週間、ロイド殿と訓練を共にしたが、私は一度も敵わなかった。両方とも戦ったことがあるが、この戦いは私にも予想が出来ない」
「私も見ていましたが、ロイドさんはまだ底を見せてないように感じました。今日はその実力のすべてを見ることが出来るのか気になりますね。それでは入場してもらいましょう!女王ユリス様とロイドさんです!」
実況に促されて入場すると、少し遅れてユリスも入場してきた。
「ロイド君、今日は本気でやらせてもらうわよ。というか始まったら勝手に全力になるんだけどね……」
ユリスも準備万端のようで恐ろしいまでの魔力を漲らせている。
自然と俺の口角も上がってしまう。
「すごい魔力だな。ユリスが魔王なのが納得の威圧感だ」
「戦えば全てが分かるわよ」
それもそうだ。
「ご託はこれくらいにして拳で語ろうか」
「そうね」
そこで実況の声がかかる。
「それでは準備が出来たようなので本日の最終試合を始めさせていただきます。それでは試合開始!!」
開始の合図が始まった途端にユリスの表情が一変する。
「こちらからいくぞ!ロイド!」
表情だけじゃなく口調まで変わってるな。
それよりもどう攻撃してくるかしっかり見極めなくては。
すると目の前のユリスが気配ごと消える。
「私はここだ!」
背後から背中に一撃を受け、衝撃で飛ばされる。
何があったか理解出来なかったがかなりのダメージを受けたことだけは分かる。
体勢を整えようとするが、後ろに居たはずのユリスが目の前に居て、前からものすごい勢いで殴りつけてきた。
「ぐぅっ!!」
そのまま壁にぶつかり地面に落ちる。
小手調べと思ったがここまでとはな。
ユリスは一度追撃を止めて話しかけてくる。
「どうしたロイド?こんなものだったのか?正直がっかりだぞ」
失望の色を隠さずそう言うユリスだが、王国最強はこんなものじゃないということを教えてやろう。
「がっかりする前にとどめを刺せば良かったのにな。もちろんそんなことはさせないがな。今の技をいきなり見せたのは間違いだと言うことを分からせてやる」
そう言って俺は師匠を倒す時に使った技の準備をする。
「魔力兵装。アルティメットシフト!!」
これは、短時間しか使えないが、俺の使える魔力を全て使い、パワー、スピード、ディフェンスを最大限に引き出す。
それを見たユリスはにやりとする。
「私相手に本気じゃなかったのだな?面白くなってきたぞ!」
「これを見せたのは師匠以外ではユリスが初めてだ。もうさっきの転移は通用しないぞ」
「分かっていたのだな?まあ分かったところで防げるとは思わないがな」
ユリスは言うが俺相手だとそれは違う。
目の前のユリスがまた消えるが、今度は現れる直前のユリスを狙い撃つ。
アルティメットシフトを展開していると、自分付近に来た敵を感じることが出来る。
ユリスは右腕を振りかぶりながら、俺の右側に現れるが感知しているのでカウンターを合わせるだけで良い。
ユリスは短い悲鳴を上げて吹き飛ぶ。
体勢をを整えながらこちらを驚愕の表情で見る。
ユリスはさらに転移をして、背後を取ろうとしたが、俺が後ろを見たときにはすでに再転移をしていて上に現れた。
真上から全力で攻撃を仕掛けてくるが、それに反応してカウンターを撃つ。
なんとかユリスの攻撃を相殺する。
ユリスは距離を置いて様子を見てくる。
「どうしたユリス?その攻撃はもう通用しないぞ」
「たしかに今のロイドには攻撃を簡単には当てられないかもしれない。だが、その魔力を垂れ流した状態が長く持つのかな?」
ユリスはそういって、魔力弾を放ち転移を繰り返すという戦術に変えてきた。
大きなダメージは与えられないが俺を消耗させる狙いのようだ。
「ユリス。たしかにそれはひとつの正解だ。しかし、一対一のこの閉じられた空間では正着とは言えないな」
そう言って俺はユリスの魔力弾を無視しながら、俺の今の最強の攻撃の準備をする。
距離を取り細かく転移をするユリスの位置を把握するのは難しい。
だが、闘技場の全ての範囲を攻撃したらどうなるだろうか?
ジルバ特製の防御結界に感謝しながら、俺は全ての魔力を解き放つ。
「これで終わりだ!アルティメットバースト!!」
闘技場の内部全てを白い光が埋め尽くす。
これでユリスがどこにいようが関係ない。
この攻撃を防ぎきられたら俺が負けるだろう。
ただ、これを受けきれる者は今まで居なかった。
しばしの静寂の後、光が消えて視界が戻る。
周りを見渡すと、端の方でユリスが倒れていた。
息はあるようだが立ち上がれなそうだ。
近寄ってみると意識を失っているようだ。
全力を使わされたのは師匠に続き二人目だ。
なんとか勝てたが、転移の使い方次第では危なかったかもしれない。
そんなことを思っていると実況のリーザの声がした。
「なんと、ユリス様が立ち上がれないようです!この戦いは六神将第六席のロイドさんの勝利です!!」
その声とともに観客席大きな歓声が上がる。
リーザが続ける。
「そしてこの瞬間に魔皇国のしきたりにより、ロイドさんが女王ユリス様の婚約者に決まりました!!」
観客席の歓声がさらに大きくなる。
何を言ってるんだ?婚約だと?そんなこと一言も聞いていないんだが。
そう思い実況席を見てみると、ここから見ても分かるくらいにジルバが大爆笑していた。
そこで初めてはめられたことに気付き大きなため息が出る。
「マジかよ……」
どうやら俺の災難はまだまだ続くようだ。
これで50000字達成しました。
読んで下さった皆様のおかげです。
これで当初に想定していた場面を書けて嬉しく思っています。
まだ続きますので良かったら今後ともお付き合い頂けたら幸いです。




