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21.就職した私

21.就職した私


仕事内容にたいしたこだわりはなく、自分の経歴に問題があることも理解していた私は高望みしなかった。

就活性が使う、マイナビだとかそういったものは利用せずにハローワークで求人を探した。

自分を卑下しすぎて可能性に蓋をしてしまう癖がでたのだろう。

冷静に考えられる今ならそう感じる。


だとしてもだ、土地家屋調査士事務所に就職できたことは嬉しかった。

自信を無くして、今まで散々回り道をして、強迫性障害を抱えて、就職できるとは思っても見なかった。

同時に、やっと人に後ろ指を指されないような場所にまで這い上がることができたとも思った。

強迫観念は一向に消えていないし、強迫行為を行わなければ日常生活をおくれない状態にはあったが、それでもまだ何とかなると思っていた。

こんな自分を拾ってくれた会社で頑張っていこうと思っていたし、幸いなことに仕事内容も嫌いじゃなかった。


しかし、そんな思いも虚しく、長く続かなかった。

所謂、ブラック企業だったのだ。

社内の雰囲気は険悪そのものだった。

誰だって、余裕がなければイライラする。

派閥があって、いがみあって、足の引っ張り合いをして、影口をたたきあって。

拘束時間も長く、試用期間を過ぎると、どんどん残業が増え、それは月100時間ほどにまで膨れ上がった。

それだけ、働いても給料は年収にして300万程だった。

法律によって定められた休憩時間や、昼御飯を食べてすぐ作業する時間も含めれば残業時間、時間外労働はもっと多い。

更に、求人票に有りと記載されていたボーナスは4万円で、人を馬鹿にしているのかと腹が立った。

誰の助けも無く、毎日の強迫行為があったうえで、それだけの残業をこなすことは無理があり破綻するのは時間の問題だった。


朝6時30分に起きて強迫行為をこなし、出社する。

休憩も無く作業して家に着くのは深夜の1時、2時、それから強迫行為をこなして、やっと休めるって状態だったのだ。

洗濯だってしなくちゃいけないし、睡眠時間が3時間未満何て日が何日も続いたりした。

それだけ、精神的に追い込まれると強迫行為はどんどんとエスカレートしていく。

精神的に不安定になればなるほど強迫観念も増すのだ。

わかっていてもやめられない。

もちろん、少しでも強迫行為の負担を軽くするための努力はしたし、業務の改善もした。

しかしそれは焼け石に水ってやつだ。

部屋の掃除なんてできるわけもなく、生活はどんどん荒んでいき比例して心身ともにどうしようもないところまで荒れた。

一度不潔になった場所、聖域と言えなくなった場所を元に戻すのは非常に困難だ。

この時のつけが未だに清算できずにいて、今でも私の生活を脅かしている。


ホームから通り過ぎていく貨物列車や特急列車を茫然と眺めたり、深夜にトボトボと歩いているときに橋の欄干から30分くらい川を見下ろしたりした。

飛び込めば楽になる何て考えは常に持っていた。

強迫性障害は重度の場合、自殺してしまうこともある。

そして、私の症状は軽いとは言えないだろう。

重度の強迫性障害は鬱病を併発する場合が多く、そうなってしまうと自殺するリスクが更に高まる。

実際のところ、一歩間違えたらほんとうに自殺していたと思う。

この時期、部屋のいたるところに「早く死ね」と書いた貼り紙をした。

何度か首を吊ってみたのもこの時期だ。


高校を卒業してから棒に振った3年間の間に覚えたインターネットが無ければ、死んでいたと思う。

近くの誰かではなく、ネット内の遠くにいる誰かがいて、それがあるから死ぬところまでいかなかった。

今だってそうだ。

身近な人間よりもよっぽどいい。


ほんとうに、頼る人がいなかった。

誰も助けてはくれないと思った。

アルコールに弱く、酔っぱらってしまうと強迫行為に支障をきたす為、それに逃げることは無かったが、煙草は随分増えた。

自分一人が、強迫性障害に苦しんでいるのに、他のところで助け合って生活していると思うと、やるせなさと、なさけなさと、ぶつけるあてのない憎悪に支配された。

今までの結果、こうなっているのかもしれないが、いつだって、その時々でいっぱいいっぱいだったと思う。

頑張って頑張った結果こうなってしまったのだ。


一人だけいた同期は、私より半年早く退職した。

私だってすぐにでも辞めたかったが、その時はまだ半年程かかる仕事が残っていたのだ。

早く辞めたらいいなんて言われもしたが、そういう時に辞めてしまえるような人間なら、そもそも強迫性障害になんてならないだろう。


私はボロボロになりながらも、その仕事を終えて、やっと退職することができた。

自己を犠牲にする無駄な責任感と義理人情だ。

その性格のせいで、強迫性障害にかかったのかもしれないが、未だに一部の人と付き合いがあるのも、その性格のおかげなのだろう。

でもやっぱり、凄く苦しむのだから良いことじゃない。

相手がよっぽど聖人君子でなければ、利用されるだけだと思う。


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