等々力に轟く
「そぅらっ!!」
紀三井寺陸上競技場。そのピッチで背番号9が豪快に宙を舞い、その右脚を振り抜く。オーバーヘッドから放たれた一撃は、見事にゴールネットを揺らした。ガリバー大阪のGK南口は立ち尽くすだけ。その瞬間、背後のゴール裏席は、選手と同じユニフォームを来たサポーターたちがどっと沸き、殊勲の剣崎が一目散に駆け
付け、チームメートも追いかける。その瞬間、試合終了を告げるホイッスルが響いた。
敵地にて浦和を葬ってから中3日で行われたガリバー大阪との試合。スタメンは次の通り。
GK1天野大輔
DF15ソン・テジョン
DF20外村貴司
DF3内海秀人
DF40吉原裕也
MF2猪口太一
MF46脇坂レイモンド
MF8栗栖将人
MF14世良樹彦
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
直前の練習で近森が右ハムストリングの違和感を訴え、結木はコンディション不良から、いずれもベンチ外となるなどスタメンの一部の変更を余儀なくされた和歌山。コンディション面で優位に立つ大阪に、押し込まれる展開が続き先制点を許して前半を折り返す。
後半、松本監督はもう一つ機能していなかった世良に代えて前田を投入。猪口とダブルボランチを組ませて、中盤の編成をダイヤモンド型から本来のライン状に変更。サイド攻撃に比重を置くと攻撃が活性化。代わった前田を起点に左サイドに展開してFKを獲得すると、栗栖が直接決めて同点に追いつく。その後再びリードを許すが、守備的なカードを切ってゴール前を固めた大阪を攻めまくると、最後の最後で冒頭の剣崎のゴールが生まれ引き分けに持ち込んだのであった。
しかし、前半のラストとなるアウェーでの川崎戦を前に、松本監督は頭を痛めていた。
「そうか…。結木はちょっと無理か」
「フィジコの報告だと、しばらくダメらしい。どうも長いこと気張ってたらしくて、それが一気に出たんだと」
宮脇コーチからの話を聞いて、松本監督はため息を一つはいた。村尾フィジカルコーチいわく、結木は尾道時代から足に何かしらの違和感を抱えていたが、A代表に選ばれたり、主力を張り続ける中で自分を休めるという選択肢を取れなかったという。元々横浜ユースからトップに上がれず地方のアマクラブでプレーしたという、典型的な叩き上げである結木からすれば、得たチャンスを失うものかと必死だったゆえに、この離脱につながったというわけだ。
「まあ、次の川崎戦も中3日だからな。どうにかするしかあるまい」
一方で剣崎は、川崎戦を前に胸を躍らせていた。
「次は川崎か…ってことは、あのデカブツとやりあうわけだな」
「デカブツ?ああ、渡のことか」
剣崎のつぶやきに、栗栖は一瞬首を傾げてから、一人の選手を思い出す。渡由紀夫は川崎の若き守護神であり、剣崎たちとはリオ五輪代表としてアジアを戦い抜いた間柄であった。しかし、直前の不調から本大会メンバーを外れたことで、その悔しさを血肉と化して急成長。大入道のような体躯を活かした守備力はもちろん、状況に慌てないメンタルとカウンターの起点となる足元の技術も磨いた渡は、友成(鹿島)や天野らとともに、年代屈指のGKとなり、近々の招集もうわさされている。
「まあ、おんなじことはあいつも考えてるだろうよ。特に、お前や竹内を擁する俺たちを無失点に抑えられれば、A代表選出への箔がつく。気合い入れないと、ヤバいかもな」
「はは、望むとこだぜクリ。だったらそれ以上のシュートをぶっ放して、俺がゴールをこじ開けりゃいいだけの話だ!」
そう言って、剣崎はニヤリと笑った。
そんな中で松本監督が決定したスタメン及びベンチ入りメンバーは次の通り。
スタメン
GK1天野大輔
DF15ソン・テジョン
DF3内海秀人
DF22仁科勝幸
DF7菊瀬健太
MF31前田祐樹
MF2猪口太一
MF46脇坂レイモンド
MF5緒方達也
FW9剣崎龍一
FW16竹内俊也
リザーブ
GK25野本淳
DF20外村貴司
DF40吉原裕也
MF8栗栖将人
MF10小宮榮秦
FW11櫻井竜斗
FW37イ・ジョンファン
「きたな、剣崎」
入場を待つ選手たち。その場で川崎のGK渡が声をかけてきた。剣崎も大柄ではあるが、渡はそれよりもさらに一回り大きく迫力がある。まさに「巨漢」であった。
「お前たちを抑えて、俺は次の代表戦に必ず呼ばれるようにする。覚悟しておけ」
「上等だぜ。そういうてめえからゴール挙げて、俺が日本のエースであるってことを教えてやらあ」
一方で和歌山の左サイドバックとしてスタメン起用された菊瀬は、表情に危機感を募らせて気負っていた。
「キク。表情が固いぞ」
「ああ、すまん。ヒデ」
ユースの年代別代表からのつきあいである内海に、菊瀬は笑みを見せるがひきつりは収まらない。単になれないポジションに緊張しているだけではなく、本来のポジションへの未練だ。
スタメン起用が決まったおり、松本監督は菊瀬にこう告げた。
「これはお前がプロ選手としていられるかどうか、その大一番と考えてくれ」
長らくサイドハーフという、中盤でのポジションで地位を築いていた菊瀬だが、和歌山ではその本職で精彩を欠いていた。若手のホープ緒方、成長著しい須藤と年下の選手に水をあけられて、たまの出場では目立ったパフォーマンスを残せないでいた。そんな中、指揮官から唐突に明示されたサイドバックのテスト。戸惑わないわけがなかった。そのなかであんなことを言われれば、否が応でも気負う。しかし、高低的にとらえている自分もいる。
代表選手を数多く抱えるクラブで、自分もその舞台に近づくためのチャンスかもしれない。肚をくくれたのはそんな思いだった。
(狙うは一発合格。やるしかない)
こうして、等々力での前半最終戦は幕を開けたのである。




