↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/44

和歌山進化中

「うおぁっ!!」


 ゴール前の攻防。左サイドからのクロスに、剣崎はDFを背負いながらも飛びかかる。だが、その頭に触れるよりも先に、キーパー渡の丸太のような腕がボールをガッチリつかむ。渡はそのまま卵を暖める親鳥のように、ボールを抱え込んで突っ伏した。

 剣崎は苦虫を噛み潰した表情で渡を見下ろす。


「くそったれ。てめえとじゃまともに空中戦になりやしねえ。んな図体で身軽になりやがって」

「フン。それはお互い様だろう。むしろ、反則的な存在ってのはお前のほうが当てはまってるんだ。だからこそ、お前にゴールを割らせなければ、自ずと俺の株が上がるわけだ」


 渡は見上げながら、にやつきつつ剣崎を挑発した。



 もともと渡は空中戦に定評のあるGKだった。長身長躯であり、腕っぷしや下半身の太さはほぼプロレスラーのそれであり、それでいてジャンプ力も高く、ハイボールの処理やパンチングの巧さは育成年代から群を抜いていた。オリンピック代表においてはメンタル面の弱さが仇になって本大会出場を逃したが、逆に血肉と化して猛練習を積む一方、自分の精神的な優位性を高めるべく、視野の広さと相手の動きに対する予測力を磨いた。


「これでどうだ!」

「甘いぜ!!」

 結果、空中戦がだめならパスワークで地上から崩すというパターンに対しても強みを見せ、今やリーグを代表するGKとなった。竹内のコントロールショットも、見事に反応して防いでみせた。


(くそ。ただでさえゴールが狭く見えるのに、あれだけうまく反応されたら…。これはゴールがなかなか取れないぞ)


 シュートを止められた竹内は、そう首を傾げた。


 一方で和歌山のゴール前も、それはそれで忙しかった。ボールを支配し、どんな状況でも「持たされている」という展開にならない、川崎の精錬された攻撃は和歌山を圧倒。チャンスを作られ、バイタルエリアからのシュートも飛んできた。ベテラン司令塔仲村を軸に、イキのいい前線のFW大林、安部が襲い掛かる攻撃はすさまじかった。


「ぬっ!しまった!」


 自分の真横をスルーパスで通され、仁科は慌てて反転する。しかし、安部がシュートする寸前に、天野が飛び込んでこれをキャッチした。


「ナイスセーブ。すまんな、大輔」

「いえ。でも仁科さん、あんまりあわてないでください。最低限、バイタルを締めてくれればやりようはありますし」

「ぬう…。そうはいってもなあ。あいつらの攻撃にゃどうしても慌てちまうんだよな」

「まあ、抜かれたところで、ゴールの確立が高くなるだけで100%になることはそうはないですよ。どフリーでもしくじるFWだっているんだし」

「なかなか頼もしくなったな、お前」

「伊達に甲府で修羅場くぐってませんから」


 押し込まれている展開でも和歌山は踏ん張った。川崎の決定力の低さに助けられてはいるが、ゴールを守る天野の泰然自若ぶりが、最終ラインに落ち着きを与えていた。


「両サイド、仕掛けるときは必ずフォロワーのプレーも考えろ。オフサイドのセルフジャッジも気を付けろ!あと仁科さんも、常にFWの動きには注意してください」

「あ、ああ!」

「OK!」

「おう。わかった」


 そして最終ラインを統率する内海も、的確な指示で守備陣を引き締める。試合はかなりの好ゲームになった。


 そして意外にも和歌山の守備は、左サイドバックに入った菊瀬がよいアクセントになっていた。元々ハードワークがクラブのカラーであった新潟時代から、その運動量や切り替えの巧さに定評のあった菊瀬。守備に重きを置いたことで、本来の良さが出ていた。この試合、一列前の緒方をフォローし、彼が攻め上がるときにはそのスペースを埋めて川崎に隙を与えず、仮に突破されても駿足を活かした素早い帰陣で攻撃の芽を潰す。そして、菊瀬の働きが先制点をもたらした。


「よし、緒方行けっ!」


 最終ラインでパスを回していたなか、緒方の動きに合わせて鋭い縦パスを入れる。ボールを足元に収めた緒方は、すぐさまゴール前を見やる。ニアに剣崎、ファーに竹内が控えているが、川崎も守備が揃っており、数的不利だ。

(それでもあの人なら…)

 緒方は躊躇なくクロスを放つ。狙いは剣崎だ。当然、DFたちは群がってくる。

「ちぇ。これじゃヘディングは無理だな」

 そう判断した剣崎は、バックヘッドでファーに流す。

(やっぱりな。さすがに無理はしないか)

 渡もそれを見届けて、竹内のシュートコースに立ちははだかる。

(だったらまた揺さぶるさ)

 ボールを受けた竹内は、渡の動きを見、ボールをヒールで右サイドに流す。そこには脇坂が走りこんでいた。

「それじゃあもいっかい!!」

 脇坂はダイレクトで折り返し、再びバイタルエリアで、今度は剣崎と渡の空中戦。

「やらせんぞ!!」

 渡は勇ましく叫び、手を伸ばして剣崎のヘディングのシュートコースをさえぎる。それを剣崎は鼻で笑った。

「バーカ。もううちは俺だけしか点が取れねえやわけじゃねえ」

 剣崎はそういってマイナス(ゴールから遠ざかるボール)の折り返し。そのこぼれ球に詰めてきたのは、猪口だった。


(あ、しまった!)

 川崎のDFの誰かはそうつぶやいたが、全員の目線の視覚を駆け抜け、ゴール前に現れた猪口は、どフリーでボールを拾う。そして、躊躇なく右足を振り抜き、ゴールネットを揺らした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。