優勝できるかどうか
リーグ戦、折り返しまではいよいよ残り3試合。ただ、和歌山の場合はその3試合のカードがなかなか困難なものだ。なにせ、浦和、大阪、そして川崎と、いずれも優勝候補と目された強豪揃いである。幸いなのは、浦和と大阪は不振にあえでいることか。
「この3試合でどれだけ勝ち点をとれるか。それで俺達が優勝できるかどうかが決まる。まあ、去年なら実際に優勝になったんだがな」
浦和戦を前にしての全体ミーティングで、松本監督はそう語った。
「ともあれ、ここで勝ち点をとれないのなら、まだ半分残ってるが、状況は厳しくなる。最低でも勝ち点6は取るぞ」
松本監督が掲げた目標に、何人かは顔をひきつらせた。ようはこの3試合で2勝すると言っているのだ。
「相変わらず、監督の要求は高くて困るタイ。強豪との3連戦で2つは勝てって、なかなかな無茶バイ」
練習前ウォーミングアップ、そのランニング中に近森が苦笑交じりにぼやいた。それを聞いた小宮も、松本監督をくさす。
「言うだけならタダだからな。そんな無茶な目標を課される俺らのことなんざ、ロクに考えてねえのさ。どうせできなきゃ、どうすれば俺らのせいにできるか考えてんだろ」
「コミ。あの人はそんあ人じゃない。俺たちの力を判断したうえで十分できる目標しか立てないよ。それにチカ、別に無茶じゃないだろ。開幕で連敗した後も『あと3試合で勝ち点8』って言い続けてた頃の方が無茶だろ。あれに比べればまだマシだ」
二人の愚痴を竹内がそうたしなめた。
「そーそー!うちにゃ日本代表のエースストライカーである剣崎龍一様がいるんだぜ。相手がどこだろうと俺が全部蹴散らしてやるから安心しな!」
相変わらず剣崎はそう大口を叩く。一方でこうも続けた。
「それにマジな話、俺にトシ、そしてヒデとチヒロとA代表が四人もいるんだぜ?選手の格でも俺達は立派な強豪だ。浦和だろうが川崎だろうが、俺達なら2勝どころか3連勝だってあり得るぜ」
言われて全員の目付きが変わる。そう、今の和歌山は予算規模こそJ1では低い部類だが、決して貧乏でもないし、選手の質は資金力の高いクラブと比較しても劣るものでもないのだ。
「まあ、やってやろうじゃねえか。この三つをぶっ倒して、俺達が優勝してもおかしくねえってことを世間に教えてやろうぜ。な!」
その浦和であるが、現在のチーム状態は下降の一途をたどっていた。分厚い選手層と類い稀なポゼッション能力をもって、ACLの決勝トーナメント進出を決めてはいたが、特に5月以降はリーグ戦全試合で失点するなど守備が破綻しており、指揮官のペロドビッチもその具体策を講じてはいなかった。人望の厚い監督のもとで選手の団結は揺らいではいなかったが、マスコミやサポーターといった外部の人間には不安に映った。そんな状況ゆえに和歌山との試合前の報道では、エースストライカー剣崎を筆頭とする強力FW陣に対して悲観的な予想が大勢を占めていた。
そして実際に、試合はそうなった。
アウェーのさいたまスタジアムに乗り込んだ和歌山のスタメンは次の通りである。
GK1天野大輔
DF38結木千裕
DF23沼井琢磨
DF4エデルソン
DF40吉原裕也
MF3内海秀人
MF17近森芳和
MF2猪口太一
MF10小宮榮秦
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
この試合におけるMFの編成は、ボランチ3枚(内海、近森、猪口)とトップ下(小宮)という組み合わせ。両サイドバックはDFラインよりもやや前目のポジショニング、いわばウイングバックのような位置についていた。内海はセンターバックも兼ねた動きを見せる。
中盤にボランチを3人置いたのは、浦和のパスワークを遮断し、素早く前線にロングボールを送るためだった。試合が始まると、3人は遊撃的に動いて浦和の出し手の周りを執拗に動き回って相手のリズムを崩し、その中で出されたパスをことごとくインターセプト。奪うやすぐさまボールは剣崎に向かって放たれた。
「うおぉっ!!!」
前線にボールが飛んでくるたびに、剣崎は浦和守備陣との空中戦を繰り広げた。そして何度も競り勝った。
「ぐおっ、相変わらずなんて馬力だ」
「はっ!てめえらなんざぬるいんだよ!!俺に競り勝てるもんなら勝ってみろ!!」
「ちっ・・・」
マッチアップした日本代表DFの牧野に対して、剣崎はそう勝ち誇る。そしてそのこぼれ球、あるいは落としを、2トップを組む竹内や、トップ下に入った小宮が抜け目なく狙い、何度もシュートを放った。
和歌山のサッカーは、実際に映像で見る場合はロングボール一辺倒で「画にならない」戦術である。得点できるかどうかもFWの決定力に頼るところが大きく、特に剣崎がいればこそである。だが松本監督は言いきる。
「サッカーにしろ、点取りゲームであるスポーツの勝敗は内容よりも結果で決まる。なら手っ取り早くゴールに運んだ方がいい気に決まってる。結局のところ、手が使えない以上DFに人数が足りていようがいまいが、ゴールを破ることは可能だ」
そして、剣崎も言いきる。
「しくじったらまた攻めりゃいいだけだ。それも手っ取り早くな!!」
実際、こうしてゴール前を攻める機会を増やせば、それだけチャンスは創出されるし、コーナーキックの機会も増える。そして・・・
「うあっ!」
浦和のDF重森が思わず声を上げる。小宮の虚を突いたシュートに、反射的に手が出ていたのだ。
「攻め込まれ続けたら、そりゃ焦るよな。何が何でも防ごうって思考に陥ると、意外と手ってでるもんだよ」
小宮はそうほくそ笑み、獲得したPKを落ち着いて沈めた。
さらに手を緩めない和歌山は、前半のラストプレーとなったコーナーキックで剣崎がヘディングを叩き込んで追加点を挙げた。
後半、浦和は反撃に出て1点を返したものの、前半と攻め方を変えることなく、徹底的にロングボールを放り込み続けた和歌山は、剣崎の折り返しを竹内が仕留めて突き放す。最後はパワープレーを仕掛けてきた浦和の猛攻をどうにかしのいで3-1で勝利を収めたのだった。




