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結果第一

 試合は中盤での肉弾戦を軸に回る。ショートパスをつないで主導権を握るサッカーを展開する神戸に対して、和歌山は内海、近森のダブルボランチがポジショニングの上手さでそのコースを切りながらインターセプトを仕掛けるという戦法をとった。

 二人はボールを奪うや、すかさず前線の剣崎やイにロングボールを送る。受けた2トップ、特に剣崎は距離に構わず積極的にシュートを放っている。あるいはサイドに散らして、緒方やソンの鋭いクロスからゴールを狙う。

 その中で、来日初先発のイ・ジョンファンは、怒涛の勢いで攻めるチームに乗れないでいた。とにかくシンプルに、別の言い方をすれば単純に前へ前へと攻め込み続けるチームメートの勢いについていけていないのであった。それでもその中でエースである剣崎を活かそうと、オトリの動きを入れてみたり、相手DFと積極的に空中戦を展開し、ポストプレーも拙いながらも懸命にこなした。

 だが、試合勘が不足…というか皆無という状態で実戦に臨むのは、どれだけ才能があろうと難しいものだ。しかしそれ以上に、イはこのチームのスタイルの戸惑っていたのである。

(こいつら…どうしてこうもシュート一辺倒なんだ?周りから崩すとか、ボールを回してポゼッションをリードするとか、もっと他の戦いができるだろうに)

 奪ったら攻める。ある意味で当たり前なのだが、和歌山のサッカーのように速攻一辺倒なスタイルはそうはない。サッカーというよりも、バスケットボールをやっているかの切り替えの目まぐるしさに、イは溶け込めないでいた。


(しかし、だからといって、いつまでも浮いているわけにはいかん。なんとかしなければ・・・)


 それでもイはやるしかない。そして自分なりの結論を出す。前線の守備は剣崎にペースを任せて、自分は前線に居残って攻撃の起点になろうと考えた。ようはポストプレーに徹するのだ。

 この判断は吉と出た。さすがに速攻一辺倒だと、相手がなれるのも早い。その状況でじっくり仕掛けるポイントがあれば、相手の虚を生み出すことにつながるのだ。


(イさんがいい感じにタメを作ってる。そろそろ仕掛けるか)


 このイの動きを察知した内海のロングパスから、その得点が生まれた。パスを受けたイはすぐさま相手DFに囲まれたものの、すぐにそばにいた剣崎がボールを手振りで呼んでいた。

(いいとこにいるな、あいつ)

 イは剣崎のポジショニングとスペースに走りこむタイミングに感服しつつ、あとは決めるだけというパスを出す。

「おっけ!」

 そして剣崎はそれをきっちり決めてみせるのである。決めた剣崎は真っ先にイのところまで駆け付ける。

「ナイスパスだぜジョンさん!ありがとよ!」

『お、おう!』

 少し照れながら、イは剣崎とハイタッチを交わす。

『どうっすか?うちの選手たち、すごいでしょ?』

『ああ。何とか、俺もやっていけそうだ』

 ソンとイはそう言葉を交わした。


 しかし、その後のイは目立てなくなっていく。試合勘とともに90分戦うスタミナができていないせいか、前半残り10分というところから運動量が下がったのである。

(くそ!まさかもう足に来るとはな・・・情けない)

 それでも周りのリズムを崩さんと彼なりに懸命に動く。が、クロスの競り合いで競り負け、徐々に存在感が薄れていく。前半ラストプレーになんとかシュートを放ったものの、明後日の方向に蹴り飛ばしてしまった。

 前半、リードを得た和歌山であったが1-0のままで終わった。そして引き上げる際に、イは松本監督に出迎えられる。イは渋い表情だったが、松本監督は柔らかい笑みを見せながら出迎え、ねぎらった。

「よく周りを使ってくれた。先制点のポストプレーは良かったぞ」

『す、すいません。あの程度しか動けず・・・』

「今まで練習試合ですらフルで動けてなかったんだ。その状況の初実戦でアシストを記録できれば上出来だ。まあ、前半限りで退いてもらうが、次は5~60分、動けるようにコンディションを上げてくれ」

『・・・はい』

 松本監督にそう言われて、イは少し気が楽になった。


 イの貢献度は、本人が思っている以上に大きかった。前半、和歌山の速攻に対処していた神戸は、そのなかで遅攻を交えた和歌山の動きに対処できず失点してしまった。後半、イに代わって竹内が投入されると、一転速攻オンリーの電撃的な攻撃に対処が遅れた。

 ハーフタイムを挟んで後半開始直後。和歌山は近森の縦パスが裏に抜け出した竹内にドンピシャで収まり、あっさりと追加点を奪ったのである。そして試合はそのまま和歌山が2-0で逃げ切ったのであった。



「今日の試合の収穫は、イが初出場でゴールにつながるプレーを見せてくれたことですかね。ウチは選手の質は年々高まってはいるんですけど、量の部分ではやはり上には敵わない。その中でエースの剣崎と要の竹内を代表にしばしば持って行かれるので、それ以外のFWにはやっぱり高いレベルを求めたい。小宮で賄えると言ってしまえばそれまでですが、小宮を一番前で使うのはあくまで奥の手でありたいですからね」

 試合後の松本監督はそうコメントを残した。


 ともあれ、負傷者が目立ち始めた中で、リーグ戦5試合ぶりの完封勝利を飾った和歌山は、ここから再加速する。


 続く大宮との試合は、イが二戦連続で先発出場し、またも剣崎の得点をアシスト。後半には内海が久々のゴールを挙げてまたも2-0で勝利する。そして剣崎と竹内がアジア予選を戦う日本代表に招集されていなくなった柏とのアウェーゲームは、イが1トップで出場。トップ下に小宮と世良を配置する布陣で臨み、イがソンのクロスからついに来日初ゴールを挙げる。一時逆転を許したものの、終盤に途中出場の猪口のゴールで追いつき、勝ち点1をもぎ取った。


 そして剣崎たちが迎えた日本代表のアジア最終予選。遠く中東の地でイラクと対戦。先に失点した日本代表だったが、途中出場の竹内が剣崎のゴールをおぜん立てするという、和歌山にとってはこれ以上ない戦火で引き分けに持ち込んだ。


 和歌山がいよいよ今シーズンのJリーグの中心へと躍り出つつなったのである。

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