ケガの功名
「うおっ!」
大森がウォルコットに競り勝ち、叩き込んだ渾身のヘディングシュートは、天野の左手をかすめてゴールネットを揺らす。鹿島のサポーターは、目の前で起きた出来事に歓喜を爆発させた。
和歌山が鹿島に乗り込んだ一戦は、剣崎らのシュートがことごとく友成に防がれるなか、鹿島のこの日後半最初の枠内シュートが、スコアレスの試合を動かした。ほどなく主審が終了を告げるホイッスルを響かせ、ホームの鹿島が勝利の凱歌をあげた。
「まあ、あいつらのことはここの誰よりも知ってるって自覚はあったんでね。今日使ってくれた監督、声枯らしてくれたサポーターに対してね、できることと言えば完封することしかなかったから、今日は絶対ゴールを割らせない気でやって、それができたんで。いいんじゃないっすかね、ハイ」
試合後のお立ち台。呼ばれたのはもちろん友成。そこで友成は試合を振り返り、珍しく満足げな笑みを見せていた。
「まあ、今日の起用はね、色んな思惑があった上なんでね、今後は相手がどこであろうともね、同じように完封しなきゃいけないし、まして世界二になったクラブなんでね。少しでも世界一にするために、自分の力を出していきます」
この試合以後、友成は鹿島での守護神の座を獲得。多くのFWに天を仰がせることになる。
一方で、同じ試合の会見で、松本監督のコメントはいろんなものがにじみ出ていた。
「今日は相手が悪かったということに・・・尽きるようだったらだめだなと思ってます。尾道戦の時みたいにFWが爆発する試合もあれば、今日みたいに中盤や最終ラインが踏ん張るなか点が取れない試合もある。それぞれのベストをいかに同じタイミングでひきだすかが、今後うちが優勝戦線に絡む、生き残るうえでの課題ですね」
悔しさを表す一方で確かな手ごたえも口にした。
では選手たちはどうだったのかというと、まずは暗い顔で和歌山への帰路についていた。敗北という結果以上に、友成の超人的なセーブ力にがっくりと肩を落としていた。
「確かに俺達のことを知っていたとはいえ・・・やっぱあいつすげえなあ」
「ミドルにダイレクト、フェイント、そして至近距離、まさかあそこまで止められるとはなあ・・・」
「味方の時が頼もしかった分、余計に手強く感じたぜ。あいつの移籍ってでかかったんだなあ・・・」
だが、ここでの剣崎の言葉が、ショックを自分達の血肉に変えた。
「でもよ、当分俺達はあいつ以上にすげえキーパーとは当たらねえんだよな。今日と同じぐらいプレーできりゃ、次はハットトリック決めれそうだぜ」
今までならこの言葉に友成が毒気満点のツッコミを入れ、笑うことでリラックス、リフレッシュに繋がっていた。だが、今は違う。剣崎の発した言葉をゆっくり噛み締めるうちに、次第に「確かにそうかも・・・」という空気が、バスの中を包んでいった。
そしてその言葉通りの試合を、次節のホームゲーム、磐田戦でやってのけた。
スタメン
GK1天野大輔
DF15ソン・テジョン
DF4エデルソン
DF3内海秀人
DF40吉原裕也
MF8栗栖将人
MF17近森芳和
MF38結木千裕
MF5緒方達也
FW33村田一志
FW9剣崎龍一
「おらっ!!」
開始わずか3分。そのたまったうっぷんを晴らすかのように、村田からのパスにそのまま右足を振り抜いて、ゴールネットを貫かんばかりの一発。キーパーはまるで反応できず先制点を奪う。剣崎は前半9分にはアシストを記録。緒方のクロスを競り勝って折り返すと、走りこんできた近森がミドルシュートで追加点。さらに同27分にはコーナーキックの場面で、栗栖のクロスを頭で折り返して村田のゴールをおぜん立てした。
後半、磐田の反撃にあって1点を返されるが、村田に代わって途中出場の竹内が相手のスキをついて最終ラインの裏に抜け出しドリブルで独走。キーパーとの一対一を仕掛けに行くと見せかけ、最後は並走していた剣崎にパス。剣崎は当然のように追加点を挙げ4-1で快勝した。
そしてこの試合後に朗報が。U-20W杯を戦う日本代表に、和歌山から緒方と村田が選出されたのだ。剣崎たち以外の生え抜きが代表に選出されるのは久しぶりとあって、クラブハウスは大いに盛り上がったが、一人むくれていた男もいる。その男が、次のアウェーでの新潟戦で悔しさをぶつけた。
スタメン
GK1天野大輔
DF38結木千裕
DF23沼井琢磨
DF3内海秀人
DF6辛島純輝
MF10小宮榮秦
MF31前田祐樹
MF46脇坂レイモンド
MF8菊瀬健太
FW9剣崎龍一
FW16竹内俊也
前半、先制点を許した後に得たフリーキックのチャンス。ここで前田が小宮に直訴した。
「俺に蹴らせてくんないっすか」
「あん?落選選手が何の用だ?」
小宮の毒のあるからかいに、前田は憮然とした表情を見せる。しかし、眼光は本気だ。
「・・・ふん。嫉妬丸出しでみっともねえな。今更結果出したころで事実は変わらねえぜ?」
「それぐらいわかってますよ。でも、いない時ぐらい結果出させてくださいよ」
「ほう・・・。自信満々だな。いいだろ。でもしくじったらどうする?」
「・・・メシ、3回おごりでどうっすか」
「フン。5回だ」
小宮はそう言ってキッカーを譲る。そして前田は、宣言通りこれを決めてみせた。
この試合、前田はキックの精度の高さを見せた。後半に入ると、攻撃陣をコントロールするようになり、竹内や剣崎にキラーパスを連発。どちらもゴールにはつながらなかったが、剣崎たちを驚かせた。ただ、張り切り過ぎてガス欠も速く、後半20分そこそこで退く羽目にもなった。
「しょうがねえガキだな。たまに張り切るとあんなざまだぜ」
「まあそう言うなって。張り切らないよりはマシだろ」
退く前田をそう腐すと、代わって入ってきた栗栖はそうなだめた。
試合自体は、終盤に竹内が勝ち越しゴール、さらに途中出場の須藤も決めて3-1で快勝。和歌山の好調ぶりは、ちょっとした旋風になりつつあった。




