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勝ち越しをかけて

 大勝を飾って凱旋した剣崎ら日本代表の面々。彼らが戻った和歌山は、松本監督が宣言していた「開幕5試合で勝ち点8」というマニュフェスト達成をかけて、好調・仙台とのアウェーゲームに臨んだ。開幕連敗で躓きこそしたが、その後連勝で星を戻した和歌山。ここで勝てば、その目標は達成される、シーズン最初の山場と言っていい。


 そんな一戦でありながら、松本監督は大胆なオーダーを組んでみせた。


GK1天野大輔

DF38結木千裕

DF23沼井琢磨

DF50ウォルコット

DF40吉原裕也

MF2猪口太一

MF31前田祐樹

MF46脇坂レイモンド

MF5緒方達也

FW9剣崎龍一

FW33村田一志


 内海、竹内をベンチに置いた上に、高卒2年目の前田と村田をスタメンに抜擢。最終ラインの組み合わせも今季初の陣容で、かなりフレッシュなオーダーとなった。アウェーの地に駆け付けたアガーラサポーターが、若干戸惑っていたのは言うまでもない。


「しかし、松本監督は変な人だな。せっかく代表から帰ってきた選手を、なんで4人とも使わないんだ?疲労云々を考慮したのなら、剣崎と結木を使う理屈が通らないし」

「確か、内海と竹内は、複数年契約結んでるけど、海外からオファーがきたらいつでも移籍できるオプションつきだって話だ。ある意味アテにできない存在だから、あえて重用しないんじゃね?」

「なるほどね。不動のレギュラーで使ってたら、ある日突然いなくなってチーム崩壊、てか。でもそれじゃあ二人も契約した意味ないな」

「まあ、こんな冷遇じゃいずれ不協和音は出る。そうなったら楽しみっちゃ楽しみだ」



 記者席では中堅ライターたちがそんなゲスい予想を口にしていたが、ピッチの選手たちは目の前の試合に集中していた。


「へいへいへ〜い!」


 古巣戦となった脇坂は、そう口ずさみながら右サイドをドリブルでかけ上がる。

(さーて、中にはどれぐらいいるのかな〜)


 仕掛けながらバイタルエリアを見やる。ニアには村田、ファーには剣崎がいる。

(う〜ん、いきなりエースを使うのはつまんないな。まずは村田を使ってみるか)

 脇坂はグラウダーのクロスを送ると、受けた村田はキープ。奪いにくるDFをこらえながらフォローを待つ。

「カズ」

 フォローに駆け付けたのは、前田だった。村田は前田に渡すと、前田は左サイドに展開。今後は左サイドから緒方がクロスを入れる。剣崎がヘディングで狙ったが、わずかに合わずクリアされた。

「剣崎さん、すいません!」

「な~にいいってことよ!それよりタツ。困ったらどんどん俺に入れろ!何とかしてやる。カズも前田もどんどん俺に出せよ」

「は、はい」

「ウス!」

 この試合に起用された、2年目の選手たちは、このプレーで硬さが取れた。そこに頼もしいエースの檄に奮起しないわけがない。特にこの試合では、村田は剣崎よりも上背がないにもかかわらず、堂々としたポストプレーを披露。仙台の守備陣を手こずらせた。前線にタメを作れるようになった和歌山の攻撃は、その鋭さをますます増していった。

 だが、そこは仙台も好調なだけあって、詰めの部分をしっかり守りゴールを割らせない。剣崎へのマークも徹底しており、次第に選手たちに焦りの色が出る。だが、ここでGK天野のコーチングが良く効いた。

「みんな焦るな!仕掛けるときは必ず味方の位置を見とけ!まだ無理する場面じゃないから確実に行け!!」

 甲府時代、残留争いでもまれる中で、天野はゲーム展開を読む力を磨いた。和歌山と同程度、いやむしろ下の資金力しかない甲府の乏しい戦力において、いかに先を読むかが大事だった。天野の機を見てのコーチングは、焦れる選手を程よく落ち着かせ、仙台の反撃のチャンスを仕掛ける前に断ち続けた。


「くそ!もう少し前がかりになってくれれば・・・この状況じゃなかなか前にボールを運べん・・・」

 仙台サイドのベンチ前では、渡部監督がそう歯ぎしりをした。


 結局両チームとも、前半はゴールが生まれることなく折り返したが、ボール保持率はざっと見て和歌山の6:4、シュート数自体も和歌山8本に対して仙台はわずか3本にとどまるなど、内容で言えば和歌山が試合の主導権を握っていることは明らかだった。

「おいおい・・・。これがあの『イケイケドンドン』だった和歌山か?まるで横綱相撲じゃねえか」

「ああ。いつの間にこんなゲームをコントロールできる巧さが身についたんだ?」

 試合前、下世話な話をしていた記者たちも、その戦いぶりに目を丸くするだけだった。


 そして後半もその流れを保った和歌山は、ついにゴールをこじ開ける。


「ルアッ!!」


 開始早々に得たコーナーキックのチャンス。前田のクロスをウォルコットが頭で合わせて先制のゴールを決めた。さらにそれから10分もしないうちに、今度は右サイドでフリーキックを獲得。ここでも前田がキッカーを務め、今度は剣崎の頭に合わせて追加点を挙げた。

 2点のリードを奪った和歌山は、ここから豪華なベンチワーク。

 まずは2アシストと見事な結果を残した前田に代えて内海を投入しそのままボランチに。さらに村田に代えて竹内を投入。最後は緒方に代えて守備的サイドバックの辛島を投入し、吉原を一列前に上げた。


(まだ起用してもらえてる・・・。だったら結果位残さねえと!)


 移籍後初出場となった吉原は、この交代策に燃える。そして、意地を見せる。サイドでキープしながら時間を使うプレーをしていたところ、相手の奪い方が強引になったところを突いてマークを引きはがしそのまま独走。前がかりになった仙台のスペースを駆け上がり、一気にゴール前まで切り込んでミドルシュートを放つ。仙台のキーパーは落ち着いてこれをセーブするが、はじき出したボールは、逆サイドで並走してた脇坂が流し込んでとどめを刺した。


 内容に結果が伴う見事な完勝劇。松本監督の公約だった「開幕5戦で勝ち点8」を、2連敗後の3連勝で見事にクリアしたのだった。

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