アジア最終予選は大詰め
「リオ五輪以降、Jリーグには力のある選手が揃い、代表で見たいと思わせる連中が増えた。今回の招集は、なるべくそれを反映させている」
W杯アジア最終予選を戦う日本代表のメンバーを発表する会見の場で、四郷監督は編成の意図をそう語った。
長らく海外組が中心となっていた日本代表において、四郷監督は「鮮度主義」を掲げ「今いくクラブでレギュラーでいること」を前提にメンバーを決めていた。
そして今回の招集で、ついに衝撃が走った。過去二大会で日本代表の看板となっていた、エースの本条祐輔を外したのだった。会見場はざわめき、記者の質問も「本条外し」に集中したが、四郷監督の理由はシンプルだった。
「どういう事情があるにせよ、試合に出ていない。だから使わない」
それでも戸惑いを隠せない記者たちに向かって、はっきりと言いきった。
「私は今現在結果を出している人間しか使いたくない。それだけだ。得点を担う攻撃のポジションならばなおさらだ。結果を出しているなら、欧州名門の戦力外より、JFLの得点王を呼ぶ。代表戦で必要なのは結果。悲惨な内容でも勝ってしまえばいい。予選ならば尚更だ」
その本条と入れ替わる形で招集されたのが、同じセリエAのフィレンツェでプレーする西谷敦志。シーズンが終盤戦になるこの時期までにリーグ戦11ゴールを奪い、得点源の一人として機能。得意のドリブルは、重戦車のように敵を薙ぎ倒す強さを持っている。少なくとも、アジアレベルで彼の馬力に敵うDFは数えるほどで、むしろ満を持した招集であった。
「しかしなあ・・・」
UAEとの戦いに備えるべく、調整をする日本代表。そのトレーニング中に、竹内はふとつぶやいた。
「剣崎に俺、内海と結木が今和歌山にいる連中。そんでもって、今回招集された西谷と大森。6人も和歌山がらみってやっぱ不思議な感じだな」
「今更何言ってんだお前。それだけオヤジ(今石GM)の眼力がすげえってこったろ」
剣崎は笑いながら竹内にツッコむ。それに、今や常勝鹿島不動のセンターバックで、日本代表初招集となった大森優作も頷く。
「でも竹内の言うことももっともだよ。僕もまさかここにいるなんて考えもしなかったな」
「だな。1年目のお前は、でかいくせに気が小さくて、なんかおどおどしてたよな」
「き、きついよアツ・・・」
バッサリ言ってきた西谷に、大森は顔をひきつらせた。
「まあせっかくだ!俺たちがひと暴れして、アガーラのブランドってやつを、また一つ高めてやるさ!」
そう意気込んで臨んだ一戦であったが・・・。
「うおっ!!」
ゴール前の空中戦。剣崎は右からのクロスを競り勝って味方につなげる。受けた西谷が相手DFに身体をぶつけられながら、強引にシュートを放つ。だが、ボールは枠を外れて給水ボトルを吹き飛ばすにとどまる。ここで試合終了の笛が響いた。瞬間、剣崎は頭を抱え、西谷は肩を落としてうなだれた。
ここまでグループリーグ5試合で初戦に敗れてからは4連勝と好調だった日本代表。このアウェーの地でその黒星を喫したUAE相手に2-0で完封負けを喫したのであった。
この試合、ホームのUAEは、剣崎らFWへのマークを徹底。とにかくシュートを打たせないように、間合いを詰め、時には身体を投げ出し、さらにはセカンドボールをより拾うべく、それが得意な選手を起用した。そのすべてが功奏し、日本代表のシュート数は僅か5本、そのいずれも枠に飛ばさせなかった。これで流れをつかんだUAEは、カウンターとセットプレーで得点。負ければ敗退が濃厚の崖っぷちから、本戦への望みを繋いだのだった。
一方で、サウジアラビア、オーストラリアといったライバルとの対戦を残す中、ここで勝ち点を積みたかった日本代表は、グループ首位を堅持しながらも突破への雲行きが怪しくなった。中3日で行われるホームでのタイ戦は、色をつけての勝利が求められることになった。
「くそったれ!」
帰国後に行われた調整にて、西谷は自分のいら立ちをぶつけるようにシュートを放った。
「アツの奴気合入ってんな・・・。まあ、せっかく呼ばれたのに、シュート1本じゃ形無しだもんな」
剣崎はそう声をかけると、西谷はぶぜんとした表情を見せる。
「フン。お前こそのんきなもんだな。エースって祀り上げられてんのに、ノーゴールで終わったことが悔しくねえのかよ」
「悔しくねえわけはねえだろ。だけど、そう思いつめるもんでもねえよ。どれだけ自然体でいられるかどうか、だぜ」
「自然体ね・・・。相変わらず能天気だな。少しは国を背負ってるって自覚持てよバカ」
「ああ?俺はだな」
「ストップ。剣崎もアツもその辺にしとけ」
明らかに軽蔑するような西谷の言い様に剣崎が詰め寄りかけるが、それを察した内海がやんわりと間に入る。
「アツの言いたいことはわかる。だが、剣崎だって代表を決して軽んじてるわけじゃない。二人とも、根は『この試合が大事だ』って思ってるんだろ?」
諭すように言われて、二人は頷く。
「だったら、別にいいじゃないか。同じベクトルに向かっているなら、結果はおのずとついてくる。俺たちDF陣はきっちり守るから、お前らは前線でやることをやってくれ」
そして、埼玉スタジアムでのタイ戦。5万人近い大観衆の後押しを受けて、日本代表は躍動する。
「行かすかよ!!」
『うわっ!』
ドリブルでアタッキングサードに仕掛けようとしたタイのFWに、内海が強烈なスライディングをかまし、ボールを奪う。そしてそのボールを右サイドに展開。正確なロングパスが、待ち構える竹内に収まる。
(タイは決して簡単な相手じゃない。でも、力の差があるのは確かだ。だからこそ、確実にプレーしていかないと。そして・・・)
竹内は一瞬の切り返しでタイのDFのマークを引きはがすと、そのままサイドを突っ走る。
(先手必勝!行くと決めたら一気に行くぞ!)
竹内はフリーの状態で、ゴール前にクロスを放つ。そしてニアサイドの剣崎が、相手DFをなぎ倒しながら飛び込む。ドンピシャのダイビングヘッドで先制点を突き刺した。
「負けられっかよ!」
このプレーに対抗心を燃やしたのが西谷。UAE相手には消化不良だったドリブル突破が、この日は冴えに冴える。あえて人数が集中しているところに正面突破を決め込み、ガンガンドリブルで仕掛ける。当然、タイの守備陣は慌てて止めにかかるが、西谷の思うつぼだった。自分にマークを集めたことで、味方にぽっかりとスペースができる。西谷は確実に竹内につなぎ、追加点を決めさせた。
「すげえな。今日はあの三人で点取ってるようなもんだぜ」
前線の迫力のある攻撃を見て、イングランドでプレーするDF吉江は思わず目を丸くする。
「イングランドでも、あの攻撃はなかなかお目にかかれないでしょ?特に剣崎は日本に収まるレベルじゃないですよ」
内海の説明に、吉江も頷く。
「ああ。あいつにはぜひ世界に飛び込んでほしいもんだ。点取り屋っていうジャンルで、日本人どころかアジア人が活躍できた例がまだプレミアにはない。あいつなら、その常識を覆す力はある」
後半に入っても、スピードが持ち味のタイの攻撃を、集中して対応する日本代表。前線への信頼が守備陣にアグレッシブさをもたらし、思い切りのいい守備を見せる。そしてそれがゴールへの好循環を生む。左サイドで再びドリブルを仕掛けた西谷は、今度はペナルティーエリアの外からミドルシュート。これはバーに嫌われたが、すかさず剣崎が入れ直す。その後のコーナーキックでは剣崎のバックヘッドで流れたボールを、西谷が流し込み追加点。危なげない試合運びで4-0と完勝を収めたのであった。




