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ゴールラッシュ

 後半が始まってまだ15分ほど。しかしスコアは5−1となり、その点差以上にピッチの雰囲気の差は歴然としていた。

 監督の采配、選手個々の能力や戦術の浸透度、あらゆる部分で和歌山が数段引き離していた。


(俺の仕事ぶりが、この試合の仕上げって訳だな)


 歓喜に沸き、楽勝ムード一色のスタジアムを見渡して、内海はそう考えた。そして、改めてトリニダードを見る。

 先制点のシーンにおけるトリニダードは、まさに巷を騒がせている通りのパフォーマンスであった。確かにあれだけできるならここまでの好成績も頷ける。しかし、こうしてパスを遮断して以降の怖さのなさも、この選手の特徴であった。

(こいつは今まで周りに活かされて怪物になってきた。だが、周りがそうさせる何かを持っていなければ、そんな流れにはならない。だから、尾道の選手たちは奥底でまだこいつに『ひょっとしたら』と期待している。たが、この程度の選手にこれ以上結果を出されたら、日本のサッカーの名折れだ。なんとしても潰す)



 内海がそう思案しているなか、謝花からのパスがトリニダードに渡される。内海はあえてそれを通させた。

「さあ来い。怪物」

 受けて立ってきた内海を、トリニダードは鼻で笑った。

『この俺を止めるのか?不可能だって教えてやるさ』

 トリニダードは得意のフェイントから、切り返しで内海を振りきろうと試みる。だが、内海はつられることなく、一発でボールを奪い返してみせた。

『何!バカな!』

(やっぱりな)


 内海から見て、トリニダードのフェイントは、実にわかりやすかった。確かに鋭く細かい足さばきと、懐の深さはあった。だが、キープから仕掛ける瞬間にかけて、一定だったリズムがわずかに乱れる。ミーティングのビデオでそれを見抜いていた内海は、やってみるまでは半信半疑だったが、実践して確信した。


(確かに、櫻井よりも楽だな。あいつは酔拳のようにリズムがバラバラだから奪いにくいしな)


 苦笑しながら、内海は右サイドに展開する。受けたソンが栗栖とのワンツーで、対峙するマルコスをあっさりかわして攻め上がる。そしてソンの折り返しを、最終ラインの裏に抜け出した竹内が、ダイレクトでねじ込んだ。

「いやぁ・・・こりゃすごいな。さすが日本代表だな・・・。そんな選手が2トップなんだから、やっぱり和歌山は強いんだなあ」


 竹島監督はテクニカルエリアで、思わずそう漏らした。

 それが漏れ聞こえた河口は、反射的に立ち上がった。その腕を荒川が引っ張る。

「・・・お前今殴りに行こうとしたろ」

「だ、だってヒデさん!今の聞きました?あれじゃただの解説者じゃ」

「解説業が長かったんだからしょうがねえよ」

「しょうがねえって・・・」

「気持ちは分かる。たぶんタネや野口が聞いたらおんなじ反応するだろ。・・・だから耐えろ。俺達以上に、この状況でピッチに立っているあいつらのほうが苦い思いをしてるんだ」

 ベテランにそう諭された河口は、苦虫を噛み潰した表情でベンチに座り直す。なおも口惜しそうな若者を見て、「若いっていいよな」とポツリとこぼした。


『くそ!何故だ!なぜ俺がこんな・・・』


 そのピッチにて、ただ一人立場を理解していないであろうトリニダードは、ようやくパスが来るようになったというのに、仕掛けようとするたびに内海に潰された。技術云々以上に、内海がメンタリティーでトリニダードに完勝していた。確かに圧倒的なテクニックを有していたトリニダードだが、プレーの端々に「自分に並ぶ存在はない」という傲慢さが見え隠れしていた。今までのJリーガーたちは、その超人的なポテンシャルにのみ込まれていたが、内海はむしろ見下ろすような態度をとって対応。「お前は大したことない」と振る舞いで訴えることで、トリニダードをのみ込んでいた。特に若い才能は、こんな敵にはとたん脆くなってしまうことが常。頼みの綱が赤ん坊扱いされている様は、残された尾道の戦意を根こそぎ奪った。



「さて・・・まだまだ行くか。須藤」


 松本監督はすっと立ち上がって、ウォーミングアップ中のメンバーから須藤の名前を呼ぶ。

「左サイドを好きに攻めろ。打てるシュートはどんどん打っていけ」

「ウッス!」

 須藤は猪口と交代で左サイドハーフに入り、小宮が内海とダブルボランチを組む。疲れきった表情でベンチに戻った猪口を、指揮官はハグで出迎えた。

「グチ、よくやった」

「あざっす。でもハグするほどじゃないでしょ」

「いやいや、お前が亀井をつぶしてくれていたからこそ、トリニダードの弱点を浮き彫りにできたんだ。今日の大量得点には、お前も十二分に関与している。だからハグだ」

「はは。なんか照れくさいですね」


 一方でピッチに送り出された須藤もまた、目の色を変えて左サイドを駆けていく。

(ザキさんにトシさん、それにサクさん・・・。おれはまだまだ4番手。その4番手も村田とどっこいどっこいの立ち位置だ。だからなんとしてもゴールを決める。絡むんじゃない、決めるんだ!!)

 ボールを奪いに仕掛けてきた日川を交わして、バイタルエリアに切れ込んでいく。ふと目の前を見ると、剣崎、竹内が相手のセンターバックを抑え込んでいる。コースが空いていた。

「いっちょいくぜ!!」

 須藤は迷いなく左足を振り抜く。強烈なミドルシュートは種部の左手をかすめながらも、そのままゴールに突き刺さる。紀三井寺陸上競技場のボルテージが、また高まった。

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