容赦一切なし
険悪な雰囲気の中、尾道のロッカールームに現れた大江強化本部長。開口一番、大江は選手たちを怒鳴り散らした。
「なんだこのざまは!!君たちにやる気はあるのか!?」
一方、選手たちは予想だにしない人物の来訪に、キョトンと目を丸くしていた。選手たちには知らされていなかったからである。一方、ただ一人知っていた竹島監督は、パッと顔色を変えた。
「本部長~!選手たちを激励しに来てくれましたか~。いや~ありがとうございます」
「ありがとうじゃないですよ、監督!やられっぱなしでいられるなんて・・・それでも元日本代表なんですか、情けない!動きの悪い選手をどんどん交代して、後半こそまともな試合をしてください!例えば・・・突っ立ってるだけのあいつを代えて、去年の得点王を入れるとか・・・」
『ちょっと待ってください、本部長』
まくし立てるように采配に口を出そうとする大江を、ダヴィドヘッドコーチが止めた。
『現場のことは我々現場に任せていただきたい。トリニダードは、今のうちでもっとも得点が見込める選手だ。DFが一人退場してしまったので、我々は守備へのテコ入れが必要です。ここから先は私たちの仕事です』
鈴木コーチの通訳を介してダヴィドコーチの意見を聞き、大江は耳を真っ赤にしながらも、ここはとりあえず手を引いた。
「まあ、連勝中ですから、ここは信じましょう。皆さん!どうか、やる気を失わず。ミスすることなく、勝ってください」
言い終わると、大江は引き上げていた。そしてダヴィドコーチが後半のプランを明かした。
『とりあえずウラ。お前は前半限りで退いてもらう。むこうのセンターバックに抑え込まれたし、退場者が出ているので攻撃を削らざるを得ない。代わりにヤマモトが入ってセンターバックだ』
この交代は妥当であった。前半、ボールを触るどころか、先制点のシーン以後は内海に完封され、存在を消されていた浦はガックリとうなだれるだけだった。だが、次の策を聞いたときに、選手たちは絶句した。
『そして、最終ラインの安定を図るべく、サイドバックも変更する。カヤノに代えてヒガワが入る』
「はあ!?なんでなんすか!!」
『そうですよ。代えるならむしろ俺の方ではないですか?』
茅野はこの交代に反論した。確かに失点につながる突破をしたものの、動き自体は悪くなかっただけに、納得できるものではない。マルコスもポルトガル語で異議を唱えるが、ダヴィドコーチは耳を貸さない。
『守備の連係は、本職の不在にある。カヤノはまだ守備面で不慣れな点が多いし、対面するコミヤ、ユウキには特徴がバレている。ここは向こうにとって未知の存在を投入することで、攻撃のリズムを混乱させねばならない。もう決まったことだ』
「まあ、いろいろ不安はあるだろうけど、ダヴィドコーチは経験がある。ここはこれで行く。大江さんも言っていたけど、最後まで恐れずに戦おう」
最後は竹島監督がそう締めたが、選手たちは不安しかなかった。ここまでの話を聞く限り、どうも監督自身が采配を考えているようなそぶりはない。そして采配の内容も守備の改善につながるとは思えなかった。日川はサイドバックが本業ではあるが、どちらかと言えば攻撃的な選手。守備の安定につながるとは思えなかった。何より、昨年控えだった選手が、得体のしれない百戦錬磨の小宮を混乱させられるとは思えない。
(案外・・・大江さんが言ってた策の方があってなくね?)
野口は首を傾げていた。
「さてと・・・。どうせならもっと点取って、派手に初勝利と行こうぜ!!!」
後半開始前、円陣を組んだ剣崎たちは、そう勇んで円陣を解く。
「・・・まあ、やれるだけはやろう。俺たちが今できることを」
一方で亀井の檄は弱弱しく、輪が解けた後の選手たちには不安の色しか漂っていなかった。
(なんだこりゃ・・・)
剣崎は、相手の守備を見て唖然とする。テコ入れをされているのだが、動きの悪くなかった茅野がいなくなり、前半は先制点以外何もしていなかったトリニダードは変わらずにいる。相変わらず、中盤はスカスカのままだ。
(だったら遠慮なくいくか!!)
ペナルティーエリアの外から、剣崎は躊躇なく右足を振り抜く。強烈なミドルシュートが、ゴールに突き刺さる。後半開始、わずか50秒の出来事だった。
剣崎の勢いは止まらない。再開後、ボールを回そうとする最終ラインに対して、竹内とともに猛然とプレッシング。かわすためのクリアが雑になり、なかなか前に飛ばない。そのうちにアタッキングサードで山元がミスキック。剣崎がボールを奪い、自らドリブルで持ち込んだ。そして左足を振り抜いてハットトリックを達成してみせた。
尾道もやられっぱなしではなかった。後半から出場した日川が、一度はドリブルで持ち込んで野口にクロスを上げたのだが、収まることなく途中出場の外村に跳ね返された。
「かーっ!やっと見せ場が来たぜ!さあJ1の連中!クロスを入れれるもんならやってみな!この外村様が全部跳ね返してやるぜ!」
移籍後初出場の外村は、そう勇んで叫んだ。野口はたたでさえエデルソンの圧力に手を焼いていたのに、数的不利の中でさらに大きなセンターバックが加わったことで、いよいよ前線で孤立し始めていたのである。
そして内海の奮闘が、尾道の頼みの綱を断ち切ってしまうのである。




