ハーフタイムの喧騒
二度のラフプレー。しかもまたもPK献上。そして笛を吹きながら駆け寄ってきた主審は、即座にイエロー、そしてレッドカードを掲げ、唖然とする円山に退場を先刻したのだが・・・。
「てめえ何しやがんだぁ!!」
激昂した剣崎が、円山を突き飛ばした。慌てて剣崎にもイエローカードが提示されたが、なおもつかみかかろうとする剣崎を、内海、結木、エデルソンの三人がかりで抑え込んだ。
「おいコラァッ!!俺の仲間にふざけた真似してんじゃねえぞゴルァ!面貸せや!ぶん殴ってやらぁ!!」
「バカか剣崎!んなことしたらお前も退場になるぞ!」
「やめとけって剣崎!もうあいつは退場したんだからよせって!」
『ぐおぉ!なんて馬力だ。こいつほんとに日本人かよ』
その傍らで、四つん這いになってトレーナーにさすられながら、竹内はむせていた。スタジアム中が騒然とするなか、ホームチームのゴール裏席に陣取った和歌山サポーターからは竹内コールがひたすら連呼。それを背に、円山はガックリとうなだれてトボトボとピッチを後にする。そのすれ違い様、小宮はにやつきながらささやいた。
「だから言ったろ?あんたはもうJ1は無理だって」
「ぐ・・・」
一瞬、殺意が頭にわいた円山だったが、反則でした相手を止められなかった現実に、ただ歯軋りするしかなかった。
(くそ・・・何とか止めたいが)
二度目のPKとなった種部だが、もう彼の集中力は限界にきていた。目の前でボールをセットする竹内の落ち着き払った雰囲気に、もはや決められる気しかしない。
一方で竹内は自分でも驚くほど冷静でいられた。
(ふう・・・何度も深呼吸させられたけど、なんかかえって落ち着いた。どこ蹴っても決めれそうだな)
そして竹内は冷静にキーパーの逆をつく。剣崎、櫻井に続いての得点で3トップ揃い踏み。ここで前半が終わった。
「ぐっ・・・くっ!」
「あら?どこいくの?トイレ近いの?」
貴賓室から出ようとした大江本部長を、叶宮コーチは呼び止めた。大江は内心わ悟られまいと、眉と口角を痙攣させながら笑みを作った。
「い、いえ。少々選手たちが気落ちしているようなので、微力ながら鼓舞できればと思いまして。失礼」
喝を入れにいくと言えば聞こえはいいが、かかされた恥の八つ当たりであることは、誰にでもわかった。
一方で、和歌山の選手たちは、充実した表情でロッカールームに引き上げてきた。先制を許したとはいえ、ほぼ狙い通りにゲームを運べたからである。
ただ、エースの剣崎だけは、もうひとつ冴えない表情を見せていた。
「くっそ・・・なんか手応えがねえよなあ」
その不満は尾道の最終ラインの脆さにあった。
「俺のマークについてるあの5番、なんか張り合いねえんだよな。今日はどんなクロスでも飛べりゃ負ける気しねえ」
「贅沢な悩みだなそれ」
「でもクリ。正直、俺もやりやすすぎて調子狂うんだよな。あんな方法で止められるしさ」
「はは。確かに災難だったな、トシ」
栗栖は剣崎と竹内の愚痴を聞いて苦笑した。一方で、結木は古巣に対して露骨なまでの酷評をぶちまける。
「よくまあ、あんな守備力で開幕連勝を飾れたもんだな。あれじゃユースの連中にやらせたほうがまだ守れる。そんな編成しかできないフロントを見切って良かったけど・・・」
「ま、そういう言い方はやめとこうぜ、チヒロ」
栗栖が察してそうなだめた。
「相手に不満を持つのは悪いとは言わんが、同じJ1クラブである以上、敬意は忘れるな。いかにフロントに問題があろうと、ピッチの勝敗を決めるのは選手だ」
松本監督は、ロッカールームに入るや、そう言って選手たちをたしなめた。
「恐らく向こうは、円山退場の穴埋めにFWを削ってDFを入れてくるだろ。その場合、櫻井に代わって外村を入れる。内海は一列前に上がって猪口とのダブルボランチだ」
「え~?俺交代なんすか~?」
「90分プレーできる体力ないくせにごねるな。得点も決めてるから十分だろ」
子供のようにむくれた櫻井を、松本監督はそうあしらった。一方で、内海はその意図を問う。
「俺が前に上がったら、その後どうするんですか?」
「内海には、最終ラインから攻撃の起点になりつつ、トリニダードを潰してもらう」
「え?そんな片手間で抑えられますか?」
指示に驚く内海に、松本監督は平然と言い切る。
「あいつは味方が動かないと動けない。自分でボールを引き出すことができないんだ。仮にボールを持たれたとしても、やつの仕掛けにはかなり癖がある。少なくとも、櫻井を相手にするよりは楽だぞ」
「へへっ。なんか誉められた」
自分の名前が出てきたことで、櫻井はにっこりとした。
さてそのころアウェー尾道のロッカールームは、険悪なムードになっていた。
「いいかげんしろよトリ!!前線に突っ立ってないでフォローにこいよ!!お前のせいで中盤ががたがたなんだってことなんでわからねえんだよ!!」
キーパーの種部が、ふてくされていたトリニダードの胸倉をつかんで怒鳴り、池山や通訳役の鈴木コーチが止めた。一方のトリニダードは、自分がなぜ怒られているのかが分からないという表情。それどころか、悪びれもなくこう言い切った。
『俺は点を取るのが仕事。俺は仕事をしている。お前は点を防ぐことが仕事だが、それができていない。やっていない人間にとやかく言われる筋合いはない』
こんな物言いを訳そうものなら殴り合いは不可避なので、鈴木コーチは訳さなかったが、ニュアンスは言葉の壁を越えているようで、種部はなおも詰め寄ろうとしている。こういう場を収められるかも監督の力量なのだが、竹島監督は「まあまあ落ち着いて。終わったことだし、切り替えていこう。まだ45分残ってるんだから」としか言えなかった。
そんな場に、大江本部長が現れた。




