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ファーストアクト1


「そろそろ出撃しても良いと思いますが」

「いや。現状ドックにあるインスヴァイトが全て万全になるまでは作戦は行わない」


 祝勝会から二週間。イセンはブリディガルから次の休みは長くなると言われていたが、まさかこれほどとは思わなかった。逆に落ち着かない日々ではあるものの、不満があるわけではない。しかし、ファルーは違ったようだ。


「別に三機で隊列を組めば良いじゃないですか。それくらいの整備は終わっていますよね?」

「終わっているが、ティラーやライの前でその言い方はするなよ。元々人数が少ないから全員が出ずっぱりだったからな。敵がこちらの一大拠点を落とすのに失敗した今、双方の動きは比較的穏やかだ。休めるときに休んどいた方が良いぞ」


 イセンは宿舎二階のブリディガルの執務室から聞こえる問答を聞きながら、眉をひそめる。俺がサーマンに追い付きたいと思っていた頃も、端から見るとあれくらい分かりやすかったのだろうか。


「鈍る前に戦いたかったですけど、任務が届いたらすぐ教えてくださいね!」

「そりゃもちろん教えるさ。遂行すると決まったらな」


 一応平静を装って撤退していくファルーをイセンは目で送る。イセンからすると確かに時間を少し持て余しているものの、そこまで戦闘や任務をやりたいわけでも無い。しかし、ある不安が頭をよぎる。実はここまで消極的なのは自分だけではないのか、と。

 ファルーには聞かなくとも大体の意見は察せられる。と言うことで、他の人の話を聞きに行く。ここしばらくの経験から、ユーラフェンは古いソファで読書をすることが多かったので、とりあえず聞きに行ってみる。



「……そろそろ出撃したいか、ですか? 私はそこまでですかね。そもそも実戦に出たことないので、あまりやりがいとか、醍醐味とか分からないですけど」


 全くユーラフェンの言う通りである。人選を間違えたかと、頭をかくイセンだったが、この場にはまだ人物がいた。その彼は、イセンを見かけるとせわしなく駆け寄って来た。


「あ、イセンさんじゃないですか! 今日は何かするんです?」

「ミライ伍長、おはようございます。ちょうど立ち話をしていた所ですよ」


 ユーラフェンはにこやかにミライへ挨拶をするが、彼女の目の前のテーブルに、文庫本が一冊置いてあるのを見たイセンは少し申し訳なくなった。


「ああ、最近ファルーが……せかせかしてるだろ。それで、俺がのんびりしすぎなのか気になって、他の人に話を聞いてみた訳だ」

「せかせか、のんびり……まあ、良いんじゃないですか、どっちでも!」

「どっちでもってな……」


 気にしすぎ、意識しすぎには最近懲りたイセンだったが、ざっくりとしたある意味ミライらしい答えについ言い澱む。


「強いて言えば、ユーラフェン上等兵が気にしてなければいいと思いますよ。自分も前の職場では、着任して一ヶ月くらい出撃の機会が回ってこなくて、今思えば少し焦ってたかも」

「たまに出ますね、お二方の前職場トーク」

「ミライとはそこからの付き合いだからな。もうすぐ一月ぐらい経つのか?」

「え、そんなレベルなんですか!?」


 思った以上に最近だったのか、珍しく驚いた様子を見せるユーラフェン。イセンにとって彼女はやや事務的すぎるきらいがあったので、少し嬉しい一面だった。


「まあ、その間にも出来事は色々あったからな。それじゃ、俺は失礼する」


 お疲れさま、と別れの挨拶を交わしてイセンは歩を進める。起きてから食事を摂っていなかったので、自室にある缶詰を食べに行く。この前ティラーがくれたものだが、最近のイセンの流行りとなっている。聞けば時間は掛かるが必ず入手出来るとのことだった。どうやっているのかは定かでないが、イセンは足早に階段を上がっていく。


「ん、ファルーか。今日も今日とて准将に催促してたな」


 二階の廊下でファルーに会うイセン。封筒のようなものを持っているが、何だろうか。イセンには見当がつかないため、放置。それにしても凄いエンカウント率だとは思うが、別に悪い訳でもないので軽い雑談を挟む。


「自分は戦いに行きたいのですが、准将からすると、不測の事態に備えてからみたいですね。確かに、今までは最低限の人数しかいなかったから、そういうの考えてなかったですけど……」


 ファルーは後半は少し気まずそうに言葉を濁す。その割には准将相手にちょくちょく話に行く辺り、行動力が凄まじい。


「でも、この前ティラーに聞いたら、もう整備が終わるって言ってました! ようやく出撃出来そうです!」

「ふむ、終わるのか修理。ロシオン開発主任にもまた悪さをし始める余裕が出来るって訳か」


 そうですね、と年相応の笑顔を見せるファルー。やはり、新兵組は若々しいと言うか、キラキラしているな。そんな感想をもってその日は終わったのだが、翌日に事件は起きた。


「准将、どういうことですか、サーマン少尉、ミライ伍長、ユーラフェン上等兵が任務に行ったって!」

「落ち着け、そんな危険な任務ではない。該当宙域の哨戒だ。」

「そうじゃなくて、なんで自分より先に他の隊員が出撃してるんですか!」

「最初の任務はサーマンに任せるつもりだった。だが、そうすると同じく実戦慣れしているミルミドとお前まで出す訳にはいかないと判断した」


 朝にミルミド、ファルー、イセンが召集され、ブリディガルから事の経緯が伝えられた。機体の整備が完了したため、今いない三人は任務に出たと。初めての少人数行動なので、不測の事態に備えていつでも出撃できる準備だけはしておくように、と。

 イセンに異論は無かったが、全員そういう訳でもない。ブリディガル准将も譲らないな、口には出せないがそう思うイセンだった。

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