スイープリニュー7
「ところで、このような会では何を食べて祝うのでしょうか」
隊のトップ層が自由にし始めると、時を見計らったようにユーラフェンがイセンやミライ達、比較的新人の隊員に話し掛けた。
「あー、ティラー、こういう時何で祝うんだ?」
久し振りに出来た後輩に、イセンも答えたかったのだが回答が分からない。仕方がないのでバトンをティラーに渡す。
「え? ……サーマン少尉、どうして祝うんだ?」
サーマンの方を振り向くティラー。明らかにちゃんと聞いていなかった様子だが、そのままイセンの質問を少し聞き違えつつ、ロシオンと話していたサーマンを呼び止める。
「そりゃ我が軍の勝利ですよ」
「了解! 我が軍の勝利だ、イセン」
「すまん、准将に聞く」
申し訳ないが、聞きたかったことは多分それじゃない。イセンは最初からこうすれば良かったかな、と思いつつブリディガル准将の方へ歩いていく。
准将はソファに座り、開ける気のない缶ビールを回して眺めていたが、後ろから近付くイセンに気付いたのか、缶を置いて体ごと振り返る。
「どうした?」
「祝勝会では何を飲み食いするのかと思いまして」
「待ち切れないか? 素直な奴だな。毎回変わるが、もうすぐ分かるぞ」
ブリディガルに勘違いをされるが、特に指摘はしない。イセンが腑に落ちないと思っていることが分かったのか、ブリディガルは部屋の端を右手で指す。イセンもその方向を見ると、ラックワイト中尉が丁度扉を開けて入ってきた。平たい紙箱を持ってくるのが確認できる。
「今回は大量のカレーとミートパイとピザを仕入れた」
「また偏った食べ物をせしめてきましたね」
イセンの背後から声がした。いつの間にかミルミド曹長が立っている。
「良いだろ嫌いな奴いないし。酒持ってくるか」
乾杯するかのように弄んでいたビール缶を掲げ、イセンに少し含みのある笑顔をみせるブリディガル。
イセンは自分が聞き込みの途中であることを思い出し、戻っていく……前に古い冷蔵庫に立ち寄った。
「好きなだけ取っていけよ。ぬるい酒が好きなら、なおさらな」
それじゃ、失礼します。と言葉を添えて、みっちり詰め込まれた冷蔵庫から酒を持っていくイセン。ミライやユーラフェンの元に行く前に、とりあえず聞いたことを頭の中で整理することも忘れない。
「今日はカレーとピザとミートパイで、割と日によりけりらしい。酒は冷蔵庫から持ってこい、とのことだ」
「聞きに行ってもらってすいません。何を飲もうかな……」
ユーラフェンの気を遣っている想いをひしひしと感じる。イセンは次からあまり気付かれないように、ひっそりと聞き込むことを決めた。
「あー、各自酒は持ったか?」
冷蔵庫を往来する隊員を眺めていたブリディガル。とはいっても一人一人チェックはしてない為、待ちきれなくなった頃合いで広間の隊員達に呼び掛けた。
「我らの隊の勝利は、我らの軍の勝利でもある。その事実は変わることが無いが、今回は沢山の証人がいる。味方にも、敵にもな。特に気負わなくて良いが、今後もその期待に応えてやれ」
もう返事を待たず、ノータイムで飲む流れに入っていく。今、立ち上がる隊員が居ないのならまあ大丈夫だと判断する。
「そして、二つの飲み会のチャンスを……失礼、二つの祝い事を括るようで申し訳ない。新入りの歓迎会だ。ユーラフェン、何か言うことはあるか?」
祝勝会と歓迎会を兼ねている為、ある意味今日の主役であるユーラフェンに言葉を貰う。当人は物怖じする様子もなく、立ち上がって一呼吸置くと、つらつらと話し始める。
「改めまして。ユーラフェン・ウィンドル上等兵です。今回、ジャンダルムの先輩方にはこのような場を設けて頂きありがたく存じます。次に行われる新人の歓迎会では、この隊のメンバーとして、胸を張って迎えられるように精進します」
ユーラフェンにパラパラと拍手が送られる。それを見ると、ブリディガルは満足げに鼻をならして応える。
「うむ。簡潔ながらしっかりした、飲み会の手本みたいな挨拶だったな。もういいよな? ジャンダルム隊に乾杯!」
テーブルのあちこちで歓声と共に酒が掲げられる。会の開始を皮切りに、食事や談笑と各々が好きなことを始める。
「これが勝利の美酒か……」
イセンはとりあえず一口飲んだ後、言いたかった事を独り言のようにそっと漏らす。
「祝勝会テンプレートじゃん」
毎回言うやついるんだよな、というティラーの言葉に少しイセンはムッとしたが、気を取り直してユーラフェンに声を掛ける。
「こういう場は初めてかもしれないが、気兼ねなく飲み食いしてもらって構わない」
「なるほど、歓迎会テンプレートか」
「新人の前でしょうもないことをするなよ」
ライが心底嫌そうな顔でこちらを見ていた。イセンが思った以上に広くまで戯れ言が聞こえていたので、誤魔化すように再び酒を飲む。
「そう言えば、ユーラフェン上等兵は後方支援らしいな」
イセンが飲み物から口を離すと、ティラーが話し掛けてきたが、その視線は何かを考えるように天井に向けられていた。
「後方……ミルミド曹長と同じか」
「今回、上等兵が入って実働隊は六人だ」
「何が言いたいんだ?」
イセンにはいまいち掴み所がない会話に少し怪訝な顔をしてティラーに問う。すると、ティラーの代わりに質問に答えたのは無言でピザを食べていたファルーだった。イセンの席の左にあったピザはいつの間にか半分無くなっている。
「次の任務から、三人一組の班編成でも戦えるって訳です」
ファルーは少し高揚しているようだ。といっても、周りはどうあれ少人数での戦いにも慣れていく必要があるのかもしれない。
「まあ、やることは変わらないな」
上機嫌でイセンは答えた。




