スイープリニュー6
イセンがドックから宿舎に帰ると、ミライとファルー、それと見知らぬ女性を含む三人の姿が見える。
「ん、ミライにファルーに……えーと、どちら様です?」
「よろしくお願いします。今日付けで配属されました、ユーラフェン・ウィンドルです、階級は上等兵です」
最後まで聞いてハッとするイセン。てっきり上官が来たのかと思ったが、階級を見るとイセンより下である。驚きつつ、こちらも言葉を返す。
「よろしく。イセン・シュベルク、そこの継葉ミライと同じく伍長だ。一応上等兵が来るまで一番の新米だった……いや、新人が来ても新米は新米か」
「イセンさん、自分もようやく先輩ですよ……!」
「俺も今回初めて先輩になったぞ」
そこはかとなくミライの言葉から力を感じる。あたかも自分一人のようだが、徴兵された時期は同時でジャンダルムでは階級も変わらない。
「イセンさんは自分の先輩なんで。なんというか……前の職場では! 一週間くらいしか続かなかったけど」
「随分荒れた職場だったんですね」
ユーラフェンが口を挟む。地球でサーマンと会ってから色々な事が起きた。まだ一ヶ月と経たないことが新鮮である。
「ああ、昔の約束事を反故にしたり、重大な秘密を隠蔽していたりする所だったからな。ちなみにトップの一人は銃殺された」
サーマン曰く、過去に地球に落ちたインスヴァイトを巡り、その当時いくつか契約を交わしたらしいが、イセンはあまり詳細を知らない。
「近年稀に見る治安の悪さですね……今の配属ではそこまで大変なことは起こらないとありがたいですね!」
そのトップを銃殺したのはジャンダルムの操者長、サーマンだけどな。イセンはそうは思うも流石に口に出す訳にもいかず、心の中に留める。
「まあ、見ようによっては変な奴もいるが、そこまで嫌な奴は……何かあったら対処はしてくれるだろう」
キョトンとしているに会話を間違えたかと思うイセンだったが、ファルーが横で口を開く。
「新参のイセンさんがそこまで言うのが驚きなのかも。イセンさんって中々ふてぶてしいですからね」
「ファルー軍曹……そんな風に思ってたのか」
イセンは自分の行動、主に言葉使いや物言いを思い返すように宙を見る。往々にして、自分の思い出には補正が掛かるものであり、確かにちょっと図々しいかもな、と思う程度で回想は終わった。
「良い意味でですよ……ふてぶてしいに良い意味ってありましたっけ?」
「いや、俺に聞かないでくれ」
取って付けたフォローがイセンに効く。
「とりあえず、ユーラフェンはなんで二人と一緒にいたんだ? 世話役なら他にもいそうだが」
「そう言う所ですよ、そう言う所!」
ファルーが釘を刺す。そうは言われても、やはり曹長のミルミドやラックワイト中尉の方が教える立場としては幾分か慣れている。ここで会話が終わるかと思えたが、ある意味ファルーのフォローにユーラフェンが口を開いた。
「はい、ブリディガル准将に宿舎で待つように言われたのですが、帰ってこられる前にお二人と鉢合わせた訳でございます!」
「……うーん、ジャンダルム新参組はハツラツとしてるな」
年齢的にはこの中での年長者はイセンであるが、ファルーやユーラフェンとはあまり変わらない。しかし、新参組で集まるとなんというか、若さがひしひしと伝わってくる瞬間があった。
「イセンさんは会ってないんですか? 准将とは」
「会ってないな。すれ違ったか」
一先ず会話が終わる。別に気にしなくても良いのだが、ユーラフェンが気まずくならないようにと浮き足立つ先輩が三人。
「……准将はいつ帰って来るんだろうな。歓迎会とかするもんだと思ったが」
「お前がゴリ押して戦いに行ってなかったら今頃そのつもりだったがな!」
「ブリディガル准将! と、稀に見る隊員勢揃い……」
イセンの背後から聞こえる力強い声。慌てて振り向くとブリディガルの他、ロシオンを始めライやティラーと言った、普段ドック入り浸り組の顔が目に入る。
「という訳で、これからが歓迎会だ」
「度々迷惑を掛けてしまって申し訳ない……」
「周りにしてみれば、終わり良ければという奴だ。当人が思い上がっていないのなら別に良いさ」
「そうですか、ありがとうございます」
「僕も謙虚に機体を作っていただけだしね」
「何でしょうね、こういうの……文面だけ取り繕うと言いますか」
サーマンの横槍が入る。
「お前のは流石にヤバそうだったから、拠点整備の途中で倉庫に眠っていた機体の撤去作業ってことにしといたぞ」
「おお、ありがとうございます」
律儀にブリディガル准将にお辞儀を返す。ロシオンの後始末はこれが最初ではなさそうだ。懲罰部隊と呼ばれているジャンダルムの中でも、彼は割としっかり問題を起こす。
「貴様の機体は俺が撤去しといた」
「え、ガチ撤去?」
ライが不機嫌そうにロシオンに伝えた言葉を反復するも、他の面々は特に気にしていない様子。当然と言えば当然だった。
「あー、主任なら部品から建て直せるくらいには留めておくからな」
「ああ、開発機が立体ジグソーパズルみたいな扱いに……」
何処かふざけたロシオンを尻目にブリディガルが広間を歩いていく。向かう先には前の祝勝会の時にも使った、くたびれたソファがある。
「言葉の割にそこまで気にしてなさそうですが」
「やっぱり首が繋がってるからね」
さっきまでだんまりだったサーマンはいつの間に移動したのか、ロシオンと脇で雑談を始めたようだ。本当に仲が良いのか悪いのかよく分からない。




