スイープリニュー5
少々酒の入ったロシオンにサーマンは手振りを交えて兵器の説明をする。ふと周りを見るとティラーの姿は無かったが、気にせず続ける。
「操縦するインスヴァイトを囲むような軌道で、なんですかね……コーン型の砲門? みたいなのが複数浮遊してましたよ」
「囲む? 恒星に対する惑星みたいな物かね」
ロシオンがサーマンの眼前で人差し指をくるくると回す。
「あー、概ねそうです。頭頂部から機体の左に流れて、足元を通って一周するような挙動でした」
話の途中でティラーが帰ってきた。
「サーマン少尉の機体から映像データと音声データを抽出して来ましたよ」
「ありがとうございます」
モニタの電源を入れて画面を眺める一同。メインカメラの視点で交戦している様子が見える。
「黄昏が見えないな。もっと右手を前に映るように立ち回って欲しかったな」
「無茶苦茶言わないでください」
サーマンはフェンシングのような構えで迎撃する自分の姿を想像したが、何かおかしい気がしたので黙っていた。
「肩の後ろにハンガがあるのかな。大剣は担いでーー」
「お、撃ってんじゃっ! ……撃ってますね」
ティラーは相手の兵器にテンションが上がり、一瞬ロシオンを遮って感嘆するが、少し遅れて正気を取り戻す。
「ビーム兵器のようだね。まあ、あんなのに実弾を込めたところで、か」
「Vオービットとか言ってましたよ。複数直撃したり続けざまに食らわなければ耐えられそうな物でしたね」
交戦中のステイルによる考察と、サーマンの実体験に基づく意見を述べる。
「サーマン少尉が乗ってた機体前面の微妙な傷はあの兵器で出来たのか!」
「男子の勲章になんてこと言うんですか」
「ああ、すみません」
サーマンとティラーでは、同じ機械好きでも方向性が若干ズレている。ティラーは何気なく言っただけだが、意外と刺さっていそうなので素早く平謝りをする。
「にしても有線で繋いでる様子はないし、遠隔で動かす技術があるのは疑う余地が無いな」
インスヴァイトもそうだが、人の心を動力に使うシステムは、現状発信源の人間を直接通す必要がある。敵軍はその欠点をどの程度かは知らないが解決している訳だ。
「制御は割と機械的ですね」
「パイロットが一から十まで操ってたら混乱しそうだしね」
「やはり自機を基準として撃つ座標を選択しているのでしょうか」
概ね交戦中にサーマンが考えた仮説と似通った結論になった。とはいえ、ティラーやロシオンも同意見であるなら、サーマンにしてみてもある程度信頼がおけた。
「ギブノクスが機動性の高いインスヴァイトとは言え、直線的な軌道を射撃で追いきれてない様子でしたし」
「何なら合わせるのを諦めてる節すらあるからね……」
サーマンから見てもロシオンは中々敵機の動きに敏感だ。機体乗りではないのに、考えるのに長けていると言うか、相手の状況から観て適切な判断を下す能力がある。かと思えば、少々独特すぎる兵器を多々作ることもある、不思議な男だ。
「一斉に銃口が向き直るの中々怖いな。そう言えば、こいつら一個毎に照準は設定できるのかな」
ティラーは別の意味で直感的というか、感性に素直である。
「どうですかね。ステイル少将も別のエース級と交戦していましたが、詳細は後日ですかね。多分、機体の回収も行われているでしょうし」
「何ならサーマン少尉も疲れてるだろう。休んできたらどうかな」
珍しくサーマンを労う素振りをみせるロシオン。本来は気の回る男なのだろう。自分の欲望のままに動くときに振り回されるのは周囲の人間だが。
「確かに、軽く乗るつもりがまるで準備運動みたいになってしまいましたね。ティラー軍曹?」
「えー、何か?」
思い出したようにティラーがとぼける。確かにイセンに自信を取り戻して欲しかったが、ここまでしろとは言っていない。そして他に犯人足るべき人間もいない。
「さすがに新兵に非公認の模擬戦を挑ませるのはどうかと思いますよ」
「ロシオン主任も喜ぶしサーマン少尉の相談も解決出来そうだし名案だと思ったんだけど……」
珍しく二人とも満足できそうな計画だったのだが、そう上手くはいかないらしい。もっとも、もう実行した後だが。
「浮かんだ瞬間は大体名案だと思うものですよ。改めて検討しないと自分の中では名案のままですがーー」
「確かに試すのは大事だね」
「貴方が気軽にトライすると致命的なエラーが頻発するんですけど」
ロシオンがサーマンの長い話を遮る。
「まあイセン君はまだ軍規に疎い……というか、軍規自体よく知らないだろうし、芋づる式で悪事がばれないかヒヤヒヤだったよ」
ロシオン本人も強行して作ったギブノクスを悪事と称するあたり、一応まずいと思っているようだ。やめるつもりもなさそうだが。
「貴方の悪事は最前線で戦ってましたけど」
「相手にはもっと悪と戦っている自覚を持って欲しいな」
「今度は別の方法を考えるか……」
「そんな諸君に朗報がある!」
突然ドックに来客が現れる。ジャンダルム隊を束ねるブリディガル准将だ。近くに宿舎がある上、本人はインスヴァイト乗りではないので、わざわざここまで来るのは珍しい。
「准将、珍しくお越しで」
「ジャンダルムに新しく隊員が配属される」
「その人は一体何処で何をやらかしたんですかね」
懲罰部隊、訳あり部隊と呼ばれるジャンダルムだが、ここに来るということは少なからず問題を起こしているとサーマンは踏んでいた。
「新人らしいぞ。しっかり教育してやってくれ」
「承知しました」
只の新人なら正規の部隊に配属される筈だが、実際に会った後に考えてみても遅くないだろう、とサーマンは考える。幸い今度は出撃まで期間があるだろうし。
「また新人! 今度は何処の星の生まれなんだ……」
「それだとイセン君とミライ君が異星人……」
ロシオンがティラーの発言に訂正を入れようとしたが、急に言葉を止める。ロシオンは実のところ、イセンとミライに関しては珍しい待遇の新人程度に考えていた。点と点が線で繋がる今この時までは。
「ティラー。貴方に新人を任せるのが心配でならないのですが」
「まあ、軍規は知ってるんで、一応。守れるかは別として……」
サーマンとしてはティラーにも教導役に回って欲しかったのだが、ここ最近、物凄い勢いで不安要素を増やしていく。珍しくサーマンが動揺しているので、ティラーも少し早口に弁解をする。
「規則に違反しないのが第一の規則なんですけど」
返す言葉が浮かばなかったので、これには腕組みをして深く息を吐くティラー。




