スイープリニュー4
「なんなんだこれは……!」
自信を取り戻してドックに機体を移動させたイセンとサーマン。正直なところ、二人だけの着陸作業に少し寂しさを感じていた。しかし、船外服から普段着に着替えて大部屋へ移った時、誰も居なかった理由が掴めた。
「はー、酒臭いですね」
「た、助かった。ようやく帰ってきた……」
なんだか疲れた様子のティラーが空瓶を持ち、二人の元にやって来る。近くにあったテーブルに瓶を立て、イセン達の方に二つ椅子を持っていく。
「緊急招集を受けて二人が行った後、ライがキレ散らかしててよ、色々あって酒飲んで寝た」
「始点と終点だけ聞く限り推理ゲームでも作れそうですね」
やや投げやりな説明だが、ライはサーマンに心酔しており、そのサーマンと独特な距離感を持つロシオンを快く思っていない。先の戦闘は、サーマンがロシオンの試作機に搭乗していたため招集された。
イセンらが出撃した後のことは分からないが、ティラーの様子からさぞ大変だったことが窺える。
「ストレス解消に飲む人もいるんじゃないか?」
「ライは自分から飲みませんよ。弱いですし」
イセンは過去の祝勝会を思い出す。いまいちライの事は記憶に無いが、食べたり話したりする様が浮かばないということは、確かに得意ではないのだろう。
「サーマン少尉、やるじゃないか……! たとえ私の違反開発がバレるとしても」
何処に居たのか、ロシオンが背後からサーマンに話し掛ける。やけに感情が高まっているようで、サーマンの肩を手で押さえた。
「そんなバレるのが恐ろしいのか……?」
「……そういえば、黄昏をスラウ中尉に返し忘れましたね」
入れ違いの形で機体のチェックでもしていたのだろうか。途中でチームから外れた兵器、その完成品を見て感極まっていたらしい。
「ロシオン開発主任、これを機に謹慎の意味を覚えて懲罰房へ帰りましょう」
「嫌だね。せっかく黄昏をガメて来たんだ。何処がどの程度改良されたかをバラして確かめなきゃ。ティラーも興味あるよね」
突き放すサーマンに対抗するロシオン。会う度に争っているように見えるのはイセンの気のせいだろうか。
「確かに興味はあるけど……仲良く出来ませんか、お二方」
「サーマン少尉と仲良くだなんて」
「友好度が低かろうと高かろうと不利益がなければ別に良いのです」
「なら俺に意見を求めないでくれ」
ティラーが仲裁、もとい巻き込まれるのもイセンは見慣れてきた気がする。
「成程、サーマン少尉……他者への不利益なんて考えたこともなかったね」
「ない訳ないでしょ。人をなんだと思ってるんですか」
イセンはサーマンとロシオンの絡みから身を引き、同じく一時的に解放されたティラーの側に行く。尚も言い合っている二人を視界に入れつつティラーに耳打ちする。
「なあ、実際ティラーはどっち寄りなんだ?」
「その時ふざけてない方」
先の会話を思い出す限り、イセンとしてはどっちもどっちのような気がした。
「どっちもふざけてる場合は?」
「俺に移らないよう距離を置く」
「そうか……俺は宿舎に帰るよ。また後でな」
「おう! あんま気負うなよー」
ティラーに別れを告げる際の言葉が引っ掛かる。出撃前のイセンは気付いていたかは分からないが、今なら分かる。きっと焦る自分を心配してくれていたのだろう。
何か一言付け足そうかとも考えたが、顔を見ると言葉が詰まってしまいそうで、背中を向けて去っていくイセン。
「貴方は我々のことをそんな風に思ってたんですね」
「あれ聞こえるのか……」
イセンの背後でティラーが厄介な上司二人に捕獲されたが、そこはあずかり知る所ではなかった。
「ま、冗談……追求は後でするよ。接敵したんだろ、相手の新兵器に」
ティラーはロシオンが言い直したのは性格上わざとであると考える。本当につつかれるかは分からないが、よくも好き放題言ってくれたな、という意思を少なからず感じた。
「黄昏ではなく目的は相手の情報ですか」
あれだけがっついてたのに、とサーマンは少し意外に思った様子。
「実物があって我を忘れかけたが、予想では近い内に本部から聴取も来ると思う。それまでに事実の整理と、ある程度の予測立てもしておきたいな」
「ロシオン開発主任から協力の申し出なんて珍しいですね」
たまにロシオンは気が回るというか、小賢しいことを考える。性格面ではサーマンとぶつかることも多いが、それでもお互い頼り合うのは、このような洞察力を兼ね揃えているのも大きい。
「さすがに最近不祥事が多いので、本部に恩を売っておこうと」
「そんなに甘くないと思いますけど」
ロシオンの言葉はいまいち本気か冗談か分からない。だとしても、サーマンは自分にとって不利益になる話ではないと判断し、黙ってイセンの座っていた椅子をロシオンの方に寄越す。
「では、サーマン少尉。敵の兵器とは一体どんなものだったのかな?」
司会がマイクを向けるように、ロシオンは空のコップをサーマンに向ける。ここでサーマンの頭の中に一つの疑問が浮上する。
「ところで……貴方も酒を?」
「その通り。続けたまえ」
「はーっ、まあ良い、分かりましたよ」
その時のサーマンの溜め息はまるで深呼吸のように長く、鬱屈としていた。




